廊下は長さ十メートルほどの細長い箱のようになって、ふたりはそこに閉じまえられてしまったのです。
そして、そこにはドアがひとつもありません。
おばけやしきのことですから、なにかのしかけで、いつのまにか廊下を箱のように変えてしまったのでしょう。
小林君はその細長い箱の中をグルグルまわって、どこかに出口はないかと捜しまわりました。
すると、つきあたりの板壁のすみに、押しボタンのように出っぱったものがあることに気がつきました。
ためしに指でぐっと押してみると、そこの壁の一部がドアのようにスーッと音もなく開きました。
中はせまいトンネルのようにまっくらです。
「はいってみようか。」
「うん、ほかに出口がないから、しかたがないよ。」
ふたりは、おずおずとそのくらやみの中へはいっていきました。
トンネルのようなところを五メートルほど進みますと、つきあたりにまたドアがあって、それがひとりでに開きました。
ふたりはその中へはいりましたが、するといきなりあたりがパッと明るくなって、目がくらみそうになりました。
「あっ、いけない。
あとにもどるんだっ。」
小林君が叫んでうしろへ引きかえそうとしましたが、いつのまにかドアはピッタリしまって、押せども引けども動きません。
おばけウジャウジャ
ふたりが閉じ込められたのは、じつにとほうもない、ギョッとするような部屋でした。
部屋ぜんたいが銀色にかがやいていて、見通しがきかないほどおそろしく広いのです。
そして、その中に一つ目小僧のばけものが、何千人というほどウジャウジャうごめいているではありませんか。
小林君もポケット小僧もクラクラッと目まいがして、おもわずそこにうずくまってしまい、じっと目をふさいでしまいました。
なるほど、このうちはおばけやしきです。
うちの中に、家ぜんたいよりもずっとひろい部屋があるのです。
そして、そこに一つ目小僧のおばけが数えきれないほどむらがっているのです。
そんなばかなことがあるはずはありません。
きっと魔法使いの妖術にかかったのです。
ありもしないものが目に見えたのでしょう。
ふたりはしばらく目を閉じていたあとで、こわごわそっと目を開いてみました。
「あっ、いけない。
やっぱりおんなじだ。」
何千人の一つ目小僧が、こっちを見つめているのです。
そして、ふしぎなことには、その一つ目小僧どもはみんなしゃがんでいるではありませんか。
小林君は勇気を出して、ポケット小僧の手をひっぱっていっしょに立ちあがりました。
すると、あっ、何千人という一つ目小僧がみんないっしょにパッと立ちあがったではありませんか。
そして、じっとこちらをにらみつけています。
こちらへ近よってくるようすはありません。
小林君とポケット小僧は一歩まえに歩いてみました。
すると、何千人もの一つ目小僧がサッとこちらへ一歩ふみだしてくるのです。
よく見ると、うしろ向きになっているやつがたくさんいて、そいつらはむこうへ一歩遠ざかるのでした。
そしてまたじっとしています。
何千人というおばけがマスゲームでもやっているように、みんなおそろいで動くのです。
そのとき、ポケット小僧が小林君の手をひっぱって、ささやき声で、
「うしろを見てみな。」
といいました。
小林君がヒョイとうしろをふりむきますと、あっ、うしろにも何千人の一つ目小僧がウジャウジャかたまっているではありませんか。
ふたりはドアからこの部屋へはいったばかりです。
ドアとふたりのあいだは一メートルぐらいしかないはずです。ところが、いま見ると、そこが見通しもきかぬ、広い部屋にかわって、おばけが、はるかかなたまで、むらがっているではありませんか。
さすがの小林少年も、あまりのおそろしさに、から体が、ふるえてきました。
そのとき、また、ポケット小僧が、小林君の手をひっぱって、足の方を見よという合図をしました。
小林君は、床を見おろしました。
すると、フワーッと、からだが宙に浮いたような、たかいたかいがけの上から、とびおりたような、なんともいえない、みょうな気持になって、心臓がのどのへんまでおしあがってくるように感じました。
ごらんなさい。
足の下には、床板がなくて、そこしれぬ深さの中に、やっぱり何千人という一つ目小僧どもが、まっすぐに立ったり、さかだちをしたりして、ウジャウジャと、むらがっているではありませんか。
クラクラッと、目まいがしました。
そして、ふっと上を向いたのです。
てんじょうは、どうなっているのだろうと、思ったからです。
ああ、思ったとおりです。
そこも、無限の空にまで、つづいて、역시何千人という一つ目小僧が、顔を下に向けて、さかだちしたり、まっすぐに立ったりして、見通しのきかぬ上の方まで、むらがっているではありませんか。
小林君とポケット小僧は、またうずくまってしまいました。
ひどく息苦しいので、顔に手をやってみると、大きな仮面をかぶっていることが、わかりました。
「あ、ぼくたちは、さっき、一つ目小僧の仮面をかぶって、おばけになったんだ。
それをすっかり、わすれていた。」
小林君は、スッポリと、一つ目小僧の仮面を、ぬきとりました。
ポケット小僧も、仮面をぬぎました。
すると、おお、ごらんなさい。
無限のかなたまで、むらがっている一つ目小僧どもが、パッと人間の子どもにかわってしまったではありませんか。
みんな、同じような、顔をしています。
背の高いのと、背の低いのと、ひとりおきにならんで、それが何千人とかたまって、じっとこちらを、にらんでいるではありませんか。
あっ、なんだか見たような顔です。
大きいやつも、小さいやつも、よく知っている顔です。
「なあんだ、そうだったのか。」
小林君が、安心したように、つぶやきました。
「アハハハ……、なあんだ、そうだったのか。
アハハハ……。」
ポケット小僧も、同じことをいって笑いだしました。
「アハハハハ……。」
小林少年も、笑いだしました。
おばけの正体が、わかったからです。
魔法のたねが、わかったからです。
すると、ふたりをとりまいている何千という少年が、同じように、大きな口をあけて、
「アハハハハ……。」
と笑いだしたではありませんか。
目のとどくかぎり、はるかの、はるかの向こうまで、二色の同じ顔が、同じように口をあけて、笑っているのです。
「なあんだ。
これはかがみの部屋なんだよ。」
小林君は、そういって、前に進んで、手をのばし、ツルツルした大きなかがみにさわってみました。
「四方にも、上にも、下にも、大きなかがみが、はりつめてあるんだよ。
こんなに広く見えるけれど、ほんとうは、三メートル四方ぐらいの、小さな部屋なんだ。
四方にかがみがはってあるので、ぼくたちの姿が、かがみからかがみへと、なんども反射して、こんなに大ぜいに見えるんだよ。
ほらね、ぼくが、こうして、一つ目小僧の仮面をぬぐと、みんな、ぼくの顔になってしまうだろう。
ね、わかったかい。」
「なあんだ、かがみかあ……。」
ポケット小僧も、はりこの一つ目の仮面をかぶったり、ぬいだりして、ためしてみました。
すると、ウジャウジャいるやつらが、みんな、そのとおりに動くのです。
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