新聞に出ていたでしょう。カブトムシの怪物団は、高橋賢二という少年を、どこかの山の中にある鉄塔の国へさらっていこうとしたのです。それをぼくが邪魔をして取り戻したものですから、彼らはぼくに仕返しをしたんです。昨日の夜、町を歩いていると、誰かが後ろから組みついてきて、ぼくの口と鼻に麻酔薬を押し付けたのです。そして、ぼくが気を失っている間に、このカブトムシの衣装を着せて、丸ビルへ担ぎ込んでおいたのです。今朝、気がついてみると、ぼくはカブトムシの鎧の中に閉じ込められて、二階の廊下に転がっていました。カブトムシの目のところにガラスがはめてあるので、外は見えました。ビルの中だということもすぐにわかりました。ぼくは叫び声を立てましたが、誰も来てくれません。階段を降りたら人がいるかもしれないと思ったので、這い降りようとしたのです。でも、こんな鎧みたいなものを着けているので、うまく降りられません。足が滑って、転がり落ちてしまったのです」
「ふーん、それじゃあ、たいして仕返しにもならないね。きみが階段を降りないでじっとしていたら、そのうちに二階の会社の人たちが出勤してきて、きみを助けるに決まっている。そうすれば、きみは一晩カブトムシの鎧を着せられたというだけじゃないか」
一番年をとった会社員が、不思議そうに言うのでした。すると少年は、とても悔しそうな顔をして言いました。
「ところが、ぼくには大きな仕返しになるのですよ。ぼくの名誉がメチャメチャになってしまうのです」
「きみの名誉だって? そんなにきみは、名誉の高い子どもなのかい?」
「そうです。ぼくは少年名探偵として、悪者どもに恐れられているんです。それがこんな恥ずかしい目に遭っちゃ、ぼくは先生にだって合わせる顔がありません」
少年は涙ぐんで、悔しがっています。
「先生だって? きみの先生というのは、もしや……」
「そうですよ。明智小五郎先生です。ちょうど先生は旅行中なのです。その留守の間に、こんな辱めを受けたのです」
「すると、きみはあの名高い少年助手の……」
「小林です。……みなさん、ぼくはきっとあいつらを捕まえてみせます。明智先生と一緒に、この怪物団を滅ぼします。見ていてください。きっとです。ぼくをこんな目に合わせたやつを、やっつけないでおくものですか」
小林少年と聞くと、人々はびっくりしたように、この可愛らしい子どもの顔を眺めました。ああ、これが明智探偵の片腕といわれる少年名探偵だったのかと、にわかに人々の扱いが変わってきました。
「そうか。きみがあの有名な小林君だったのか。まあ、部屋に入って休みなさい。そして電話で警察に連絡するがいい」
年をとった会社員はそう言って、小林君の手をとると、自分の会社の応接室へ案内するのでした。
のぞきじいさん
怪物団の不気味な悪ふざけは、これだけでは済みませんでした。その同じ日の夕方、高橋賢二少年のお家には、もっと恐ろしいことが起こるのです。一週間前、小林少年に助けられた賢二少年の上に、またしても怪しい魔の手が襲いかかってくるのです。その日のお昼過ぎ、賢二君がお兄さんの壮一君に守られて少し家の外へ出ますと、その街角に異様な箱車を引いた白ひげのじいさんが待ち構えていました。それはこのお話の最初に出た、あの奇妙な白ひげのじいさんで、引いていたのはあのときののぞきカラクリの車でした。これがその日の恐ろしい出来事の前触れだったのです。白ひげを生やし、派手な縞模様の洋服を着たじいさんは、二人の少年が出てきたのを見ると、ニコニコしながら手招きしました。
「さあ、きみたち、ここへおいで。そしてこののぞき穴から中を覗いてごらん。不思議なものが見えるから」
二人の少年はこのじいさんを見るのは初めてですから、別に疑いもせず、箱車の横についている二つののぞき穴にそれぞれ目を当てて覗いてみました。すると箱の中には、石を積み重ねた陰気な広い部屋がありました。西洋の昔の古いお城の中とでもいうような感じです。それはまるで、本物の部屋のように広く見えました。
のぞき穴にはレンズがはめ込まれているため、小さな模型が何百倍もの大きさに映し出されているのです。
「きみたち、ここがどこだか分かるかね。日本のどこかの山奥にある、鉄塔王国のお城の中だよ。よく見ていなさい。今から面白いことが始まるからね」
じいさんが、やさしい声で言いました。
すると、石の部屋の入り口から、何やら黒い虫のようなものが這い出してきました。
それは一匹だけではありません。次から次へと、十数匹もゾロゾロと出てきたのです。
それはカブトムシでした。
みんな背中に白い模様があります。よく見ると、あの気味の悪い骸骨の顔ではありませんか。
壮一君も賢二君も、びっくりしてのぞき穴から目を離そうとしました。
ところが、どうしたことか首が動きません。どうしても目を離すことができないのです。
じいさんの大きな両手が、二人の頭をグッと押さえつけていたからです。
「もう少しまだ我慢していなさい。怖いことは何もないよ。カブトムシは箱の中から出られやしない。今に面白いことが起こるから、しっかり見ていなさい」
じいさんは二人の少年の頭を恐ろしい力でおさえつけたまま、声だけはひどくやさしいのです。
レンズの効果で、一匹のカブトムシが人間ほどの大きさに映っています。それが十数匹も這い出してきたのですから、実にものすごい光景です。
少年たちは怖いけれど、続きを見たいという気持ちもあって、おさえつけられたまま目もつぶらずにいました。
するとやがて、たくさんのカブトムシの中の一匹が、コロンとひっくり返って、お腹を上にしてバタバタともがき始めました。
賢二君たちは知りませんが、それはその日の朝、丸ビルの中で小林君が入っていた大きなカブトムシがひっくり返ったのと、そっくりな姿でした。
やがて、レンズの向こうのカブトムシもお腹が二つに割れました。
そして、その中から一人の少年が現れたのです。
「おやっ」と思って見つめていると、十数匹のカブトムシが次々とひっくり返り、次々とお腹が割れて、中から一人ずつかわいらしい少年が現れてきました。
少年たちは列を作って、石の部屋の中をグルグルと回り始めました。
「どうだね、面白いだろう。これは鉄塔王国のカブトムシ少年隊だ。賢二君、きみも今にこの少年隊に入るのだよ。そしてカブトムシの鎧を着せられて、訓練を受けるんだ。アハハハ……」
じいさんは長い白ひげをピクピクと震わせながら、大きな口で笑いました。
そして、賢二君たちの頭を押さえていた手を離しました。
自由になったので、思わずじいさんの顔を見上げると、しわくちゃのじいさんは大きな口を開け、赤い舌をヘラヘラとさせて、いつまでも笑い続けています。
その顔は、まるで童話に出てくる魔法使いにそっくりでした。
二人の少年は、背中に氷でも押しつけられたかのようにゾッとして、いきなり家のほうへとかけ出しました。
後ろからじいさんの笑い声が追いかけてくるようで、気を失いそうでしたが、やっとのことで家の中に飛び込むことができました。
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