初級翻訳・銀の笛と金の毛皮 第3話

豊島 与志雄

古くて汚れた服を着て、靴も履かず、帽子もかぶっていない年老いた男が、噴水の水を飲んでいました。
エキモスはお腹がすいていて、喉もかわいていたので、その男に尋ねました。
「その水は、誰でも飲んでいいんですか?」
年老いた男は振り返って答えました。
「飲んでいいとも。だが、うまい水じゃないぞ」
それでも、エキモスはうまそうにその水を飲みました。その様子を見て、年老いた男は言いました。
「お前さんも、どうやらお腹をすかせているようだね」
「ええ」とエキモスは答えました。「どこへ行っても、食べさせてくれないんです」
「どこでも、か……」
エキモスは、立派なホテルから追い返された話をしました。
年老いた男は笑いました。
「そりゃあ、そうなるさ。お前さんみたいに汚れた格好をした子供に、あんなところで食事を出してくれるはずがないだろう」
「だって僕、お金は持っているんですよ」
エキモスは皮袋から金貨を一枚取り出して見せました。
「ほう」
男は不思議そうに、金貨とエキモスの顔を何度も見比べています。
エキモスは言いました。
「おじさん、どこかこれで何かを食べさせてくれるところはありませんか? おじさんもお腹がすいているなら、一緒に食べましょうよ」
「なるほど、それはいいが……」と男は考え込みながら言いました。「二人きりで食べるのは、少々もったいないな」
「ほかにもまだ、お腹をすかせている人がいるんですか?」
「いるとも、たくさんいるよ。体が悪かったり、靴がなかったりして、仕事に出かけられない者がいくらでもいるからね」
「じゃあ、そんな人たちとみんなで食べましょうよ!」
年老いた男は、とてもうれしそうな顔をしました。そして急に元気になって、どこかへ駆け出していきました。

しばらくすると、十四、五人の男たちを連れて戻ってきました。靴のない者や、やせ細った者たちで、みんなしょんぼりとしていました。
年老いた男はエキモスを指差して叫びました。
「この人が、俺たちにごちそうしてくださろうという、神さまのお使いだ!」
人々はエキモスを真ん中に囲んで、うれしそうに歩いていきました。裏通りの狭い町筋を右に曲がったり左に曲がったりして、やがて小さな食べ物屋に入りました。
天井が低くて薄汚れた部屋で、木のテーブルと木の腰掛けが並んでおり、ランプがくすぶっていました。でも、そこに集まった人々の顔は、どんな美しい明かりよりも、もっと晴れ晴れと輝いていました。

エキモスは、部屋の奥に立っている店主のところへ行って、皮袋から金貨を五つ取り出し、勘定台の上に並べました。
「これで、みんなにうまいごちそうを食べさせてあげてください」
店主はびっくりした様子でした。そして五つの金貨を手に取ると、みんなの方へ向かってそれを掲げました。
「おい、みんな! これだけのごちそうが出せるぞ!」
わーっと喜びの声が上がりました。声も出せずに涙ぐんでいる者もいました。エキモスもうれしくて、涙が出てきました。
酒が出ました。ごちそうが出ました。大変な騒ぎになりました。みんなすっかり元気になりました。やせ細った病気の者まで、明日からは仕事に出かけると言い出します。みんなが仕事の夢を語り合いました。
エキモスはまた金貨を取り出して、靴のない人たちのために靴を買ってきてもらいました。みんな明日からは自分たちだけで都じゅうの仕事ができるような、そんな気力に満ちていました。お腹いっぱいに飲んで食べて、しまいには「神さまのお使い」のエキモスを胴上げして大喜びしました。
夜が更けました。エキモスが眠そうな目になると、食べ物屋の主人は、粗末な家ですが、その中で一番良い部屋へ連れて行って、寝かせてくれました。

四

エキモスは楽しく目を覚ましました。昨夜のことを考えると、うれしくてたまりませんでした。あの人たちが、あんなに喜んで元気よく食事をしたことは、今までに一度もなかったことでしょう。
エキモスはたくさんの金貨を宿の主人に預けて、昨夜の人たちが来たら食事をさせてくれるように頼んでから、都の中を見物に出かけました。
いろいろな店がありました。いろいろな人が通り過ぎていきました。公園や博物館などもありました。
夕方早く、エキモスは宿へ帰って、昨夜の人たちを待ち受けました。しかし、その人たちは夜になって二、三人ずつ連れ立ってやってきては、お礼を言っただけで帰っていきました。
エキモスは宿の主人に尋ねました。
「あの人たちは、なぜ早く帰ってしまうんだろう?」
主人は答えました。
「それは無理もありませんよ。一日働いたあとですから、くたびれているんです。それに、あなたにごちそうになってばかりでは申し訳ないと思っているのでしょう。あの人たちはもう大丈夫です。けれど、貧乏で、たくさんの子供を抱えていたり、病気だったりして、ひどく困っている人がまだまだたくさんいるんですよ」「いくらあなたが神さまのお使いだとしても、これらすべての人たちを助けてあげるなんて、なかなかできることではありませんよ」
主人は首を振りながら、悲しそうな顔をしました。
「僕は神さまのお使いなんかじゃないんです」とエキモスは言いました。
「けれど、困っている人たちがこれほど大勢いるのなら、何とかして喜ばせてあげたいものだなあ」
エキモスはいろいろと考えをめぐらせました。
そして、金貨でちょっとした品物を買ってはお釣りとして銀貨や銅貨をもらい、それを金色の鹿の毛皮で作った袋に入れておくと、いつの間にかすべて金貨に変わってしまうのでした。
こうして、たくさんの金貨を手に入れました。
それを持って、エキモスは毎晩遅くに、貧しい人たちが暮らす町へと出かけていきました。
貧しい人たちの住まいでは、不思議なことが起こりました。
病気で仕事ができず、お金がないために食事もとれず、どうしていいか途方に暮れている男がぼんやりと外に立っていると、粗末な身なりの少年が近づいてきて、「これで美味しいものを食べなさい」と言い、金貨を一枚手渡します。
男が呆気に取られているうちに、少年はもうどこかへ姿を消してしまいます。
靴を持っていない子供が裸足で使いに出かけると、また粗末な身なりの少年が現れて、「これで靴を買いなさい」と言い、金貨を一枚くれます。
窓ガラスが割れたまま直すお金がなく、紙を貼ってしのいでいる家があると、夜遅くに何かが重たい音を立てて投げつけられます。
紙が破れ、金貨がパラパラと部屋の中に降り注ぐのです。
それからある朝、まだ暗いうちに、戸をどんどん叩く者が現れました。
一軒一軒、順番に叩いて回ります。
どの家の人も目を覚ましました。
何事かと思って表に出てみると、そこにはたくさんの金貨が撒き散らされています。
みんなが飛び出してきて、その金貨を拾い集めました。
どの家にも、金貨がどんどん溜まっていきました。
みんな元気になりました。
栄養のあるものを食べ、帽子や靴も買いました。
男たちは張り切って働きに出かけ、女たちは家の中をきれいに掃除しました。
みんなの、しょんぼりとしていた目に、生き生きとした輝きが戻ってきました。
町中に活気が溢れてきました。
そのすべてが、エキモスの仕業でした。

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