エキモスは飛び上がって喜びました。エキモスはその大切な笛を胸に抱きしめ、涙を流しました。
それから、一心不乱に笛を吹きはじめました。
何とも言えないほど美しい音が響き渡りました。
エキモスはもう何もかも忘れて、夢中で吹き続けました。
どれだけの時間吹き続けたのか、自分でも分かりませんでした。
そのうち、なんだか周囲が騒がしいので、エキモスはふと我に返りました。
そして窓から外をのぞいてみると、びっくりしてしまいました。
森の中は、鳥や獣たちでいっぱいだったのです。
鷲や狼、ライオンのような恐ろしい生き物まで混じっていました。
彼らはエキモスの笛の音を聞きにやってきたのです。
牢屋の番人たちは恐怖で逃げ出してしまい、もう誰もいませんでした。
ただ、鳥や獣たちだけがそこにいました。
エキモスは笛を吹きやめて、ぼんやりと彼らを眺めていました。
ふと気がつくと、森の向こうの野原の中に、何かが動いています。
だんだんとこちらへ近づいてきます……。
たくさんの人たちが、馬を走らせてやってくるのでした。
六
エキモスが閉じ込められている牢屋へ、馬で駆けつけてきたのは王さまと王子でした。
大臣も付き添っていました。
それから、大勢の兵士たちが後に続いていました。
はじめ、エキモスが牢屋へ送られた時、皮袋は「魔法の袋だ」と言われて、大臣から王さまの手に渡されていました。
王さまはそれを自分の部屋へ持って帰り、不思議そうに眺めていました。
見事な金色の鹿の毛皮でした。
そしてその毛をなでているうちに、ふと、魔法というものを試してみたくなりました。
王さまはその皮袋に、銅貨を一つ入れてみました。
取り出すと、金貨に変わっています。
小石を一つ入れてみました。
取り出すと、黄金に変わっています。
王さまは、うれしさで目を輝かせました。
そして銅貨や小石を取り寄せては、皮袋に入れて、次々と黄金に変えていきました。
くたびれてくると、大臣を呼びました。
次には、御殿中の役人を呼び集めました。
小石や銅貨を運ぶ者、それを皮袋に入れて黄金にする者、その黄金を部屋の隅に積み重ねる者と、大騒ぎになりました。
黄金がだんだんと増えていくのを見て、みんなすっかり夢中になりました。
一日がたちました。一つの部屋が黄金でいっぱいになりました。
二日がたちました。二つの部屋が黄金でいっぱいになりました。
王さまには、エキモスと同じくらいの年頃の王子がいました。
王さまをはじめみんなが、黄金作りに夢中になっているのを見て、王子は悲しそうに言いました。
「そんなことをして、何になるのですか」
でも、誰も返事をしませんでした。
三日……四日……五日がたちました。
五つの部屋が黄金でいっぱいになりました。
王子は言いました。
「そんなことをして、何になるのですか」
誰も返事をしませんでした。
六日がたち、七日がたちました。
七つの部屋が黄金でいっぱいになりました。
王子は悲しそうに言いました。
「そんなことをして、何になるのですか」
誰も返事をしませんでした。
しかし今度は、みんなが互いに顔を見合わせました。
そしてため息をつきました。
みんなすっかり疲れ切っていました。
なんだか心細くなっていました。
七つの部屋いっぱいの黄金の山を見て、どうしていいか分からなくなってきたのです。
王子は言いました。
「石ころを積んでいるのと、同じではありませんか」
実際、黄金ばかり作って、何になるというのでしょう。
こうなってしまえば、石ころを積んでいるのと同じことでした。
これまであんなに尊いものだと思っていた黄金も、七つの部屋がいっぱいになるほどあれば、どうしようもありません。
――ばかなことをしたものだ。
そう考えて、王さまは大臣の方を見ました。
大臣も王さまの方を見ました。
二人とも困り果ててしまいました。
そして八日目の朝になると、七つの部屋いっぱいの黄金を前にして、王さまも大臣も役人たちも、ただため息をつくばかりでした。
そこへ、一度にいろんな知らせが舞い込んできました。
――民衆たちは、エキモスが牢に閉じ込められて、いよいよ今日、島流しになるということをいつの間にか聞きつけ、大変騒ぎ立てています。ぜひともエキモスを奪い返すと息巻いています。
――エキモスが謀反を企てていたという話も、貧しい人たちのところへ金貨がまき散らされるのを妬む者たちが、勝手に作り上げた嘘だったのです。
――そして牢屋の方では、不思議なことに、数え切れないほどの鳥や獣がやってきて、牢屋から森までをすっかり占領してしまっています……。
王さまは立ち上がりました。
王子も立ち上がりました。
すぐに馬を引かせて、牢屋の方へ急がせました。
それを心配して、大臣は多くの兵士を連れて後に従いました。
到着してみると、報告は本当のことでした。牢屋のまわりの森の中は、鳥や獣たちでいっぱいでした。
鷲や狼、獅子のような恐ろしい生き物まで混じっています。
馬たちは驚いて、後ろ足で立ち上がりました。
王さまも王子も大臣も兵士たちも、あわてて馬から飛び降りました。
牢屋の窓には、にこにこと微笑むエキモスの顔が見えます。
けれども、鳥や獣たちが邪魔をして、誰も近づくことができませんでした。
そこへ、エキモスを助け出そうと、たくさんの民衆たちがやってきました。
王さまはすぐに、エキモスを無罪放免にすると宣言させました。
民衆たちは、ほっと胸をなでおろしました。
けれど、森の中にひしめく鳥や獣たちを見て、やはりエキモスのところへは近づけませんでした。
その時、王子は何を思ったのか、たった一人で森の中へ歩いていきました。
不思議なことに、狼や獅子もじっとうずくまったままで、王子に少しも害を加えませんでした。
王子はずんずんと進んで牢屋の中に入り、鍵を探し出して、エキモスの部屋の扉を開けました。
エキモスは喜んで王子を迎えました。
王子は金色の皮袋をエキモスに返しながら言いました。
「エキモス、お前はこの皮袋のおかげで、ぼくたちにとても大切なことを教えてくれたよ。人間の欲というものが、どれほど馬鹿げたものかということをね。本当にありがとう」
王子のあとを追って、王さまも中に入ってきました。
王さまは言いました。
「エキモス、わしが間違っていた。お前を苦しめたことを、どうか許しておくれ」
王さまのあとから、民衆たちがどっと飛び込んできました。
制止する暇もありませんでした。
民衆たちはエキモスを肩に担ぎ上げると、牢屋から連れ出し、野原の中へと運んでいきました。
そこからは大変な大騒ぎとなりました。
都中の人が野原に集まり、王さまも王子も大臣も兵士も、金持ちも貧しい人も、みんな一緒になってエキモスを歓迎するお祭り騒ぎを繰り広げました。
お祭り騒ぎは、一日じゅう続きました。
しかし、その賑わいの中で、エキモスはなんだか急に寂しくなりました。
もうこの都には、自分に用はないような気がしたのです。
山の羊たちのことが、懐かしく思い出されました。
そしてその夜遅く、エキモスは銀の笛と金の皮袋を抱えて、そっと都を立ち去りました。
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