「女王バチはね、ミツバチが一番たくさん群がっているところを飛んでいるんだよ。みんなの中で一番大きいのが女王バチでね、地面の上にちっともじっとしていないんだよ。黒い雲のほうへ、すぐまた飛んでいってしまうのさ。冬の夜には、女王バチはよく町の通りを飛び回って、方々の家の窓からのぞき込むんだよ。そうして不思議なことに、そのまま窓ガラスに凍りついてしまって、まるで花をくっつけたようになるんだよ」
「うん、ぼく、見たことあるよ」「あたしもよ」と、ふたりの子供は口々に言いました。
そして、ふたりともそれが本当のことだということを知っていました。
「雪の女王は、ここへ入ってくることができる?」と、小さい女の子が尋ねました。
「入ってきたっていいや」と、男の子は言いました。
「そしたらぼく、熱いストーブの上にのせてやるから。そうすりゃ、溶けちまうさ」
けれども、おばあさんは男の子の髪の毛をなでながら、ほかのお話をして聞かせました。
夕方、カイは部屋の中で着物を脱いでいました。
脱ぎかけのまま、窓際の椅子の上によじ登って、小さなのぞき穴から外をのぞいてみました。
外には、雪のひらが二つ三つ、ひらひらと舞っていました。
その中で一番大きいのが、花の箱のふちにのっかりました。
と、その雪のひらはみるみる大きくなって、とうとう女の人の姿になりました。
その人が身につけている着物は、とても薄い真っ白な紗でできていましたが、それは、お星さまのようにキラキラする雪のひらを何百万も集めて作ったものでした。
その人は、見れば見るほど美しい、ほっそりとした人でした。
でも、体は氷でできていました。
キラキラする、まぶしいほどの氷でできているのでした。
それでも、その人は生きていました。
目は明るい二つのお星さまのように輝いてはいましたが、落ち着いた、安らかな様子は見えませんでした。その女の人は、窓の方に向かってうなずきながら、手まねきをしました。
男の子は、あまりの恐ろしさにガタガタと震えながら、椅子から飛び降りました。
なんだかそのとき、窓の外を大きな鳥が一羽、バサッと飛び去ったような気がしました。
あくる日は、霜が降りた、とてもいい天気になりました。
――それから、雪が溶けはじめました。
――やがて、春がやってきました。
お日さまはキラキラと輝き、緑の草が地面から顔を出し、ツバメは巣を作りました。
そして、窓は大きく開け放たれました。
小さな子供たちは、またしても高い高い屋根の上の、ちっぽけなお庭に座って遊びました。
バラの花は、この夏は、言葉にできないほど美しく咲き誇りました。
小さな女の子は、讃美歌を一つ覚えました。
その歌の中には、バラの花のことも歌われていました。
そして、歌の中にバラの花が出てくるたびに、女の子は自分たちのバラの花のことを思い出しました。
女の子は男の子にその歌を歌って聞かせました。
すると、男の子もいっしょになって歌いました。
バラの花 かおる谷間に
あおぎまつる おさな子イエスきみ
それから、子供たちは手を取りあって、バラの花にキスをしました。
そして、神さまの明るいお日さまの光を仰ぎながら、まるでそこに幼子イエスさまがいらっしゃるかのように、お話しをしました。
なんという美しい夏の日でしょう! 家の外で、いきいきとしたバラの花にかこまれているのは、本当に気持ちのよいものです。
バラの花は、いつまでもいつまでも、ずっと咲きつづけているような気がしました。
カイとゲルダは、そこに座って、動物や鳥の絵本を眺めていました。
そのとき、教会の大きな塔で、時計がちょうど五時を打ちました。
――すると、カイがこう言いました。
「あ、いたっ! 胸のところを、なにかにチクリと刺されたよ。
それに、目の中にもなにかが入ったんだ!」
小さな女の子は、男の子の首をぎゅっと抱きしめました。
男の子は、目をパチパチさせました。
けれども、そこにはなにも見当たりませんでした。
「もう出てしまったんだろう」と、男の子は言いました。
でも、実際にはまだ出てしまったのではありませんでした。
あの鏡、ほら、あの悪魔が作った鏡から飛び散った、小さなかけらの一つが、カイの目に入り込んでいたのです。
わたしたちは、まだよく覚えていますね。
あの悪い鏡には不思議な力があって、どんなに大きくて美しいものでも小さく醜く見えてしまうのに、逆に悪いものや嫌なものはハッキリと大きく映し出されて、物の悪いところばかりがすぐに目についてしまうのでしたね。
カイの心臓の中にも、そのかけらが一つ入り込んでいたのです。
かわいそうなカイ! カイの心臓は、まもなく氷のかたまりのようになってしまうことでしょう。
しかし、いまのところは、もう痛みはありませんでした。
それでも、やっぱり、かけらはまだそこに入っていたのです。
「どうして泣くんだい?」と、カイは聞きました。
「なんて変な顔をしてるんだい! ぼくはもうなんともないんだぜ。
チェッ!」
そう言うと、すぐまた急に叫びました。
「そこのバラは虫に食われてるじゃないか! それからさ、あっちのはあんなに曲がっているよ。
なんて汚らしいバラの花なんだ! まるで植わっている箱みたいじゃないか!」
こう言うと、カイは激しく箱を蹴飛ばしました。
そして、二つのバラの花をむしり取ってしまいました。
「カイちゃん、何するのよ!」と、女の子は叫びました。
カイは、ゲルダがびっくりしているのを見ると、さらにもう一つのバラの花もむしり取ってしまいました。
そして、かわいらしいゲルダのそばを離れて、自分の家の窓の中へと飛び込んでしまいました。
それから、ゲルダが絵本を持っていくと、今度はカイが「そんなものは赤ん坊が見るものだ」と言い放ちました。
また、おばあさんがお話をしてくれるときも、ひっきりなしに「だって、だって」と言っては、口をはさみました。
そればかりではありません。
隙さえあればすぐに、おばあさんの後ろへまわります。
そして、めがねをかけて、おばあさんの話し方のまねをするのです。
しかも、それがとっても上手だったので、みんなは大笑いをしました。
まもなく、カイは近所じゅうの人たちの話し方も、歩き方もまねすることができるようになりました。
みんなの癖や、よくないところを、カイは上手にまねすることができたのです。
それを見て、人々は「あの子の頭はすばらしい!」と言い合いました。
けれども、それはカイの目に入って心臓につきささっている、あのガラスのかけらのせいだったのです。
カイを心の底から大好きだった小さなゲルダをさえ、からかうようになったのも、そのためだったのです。
遊び方も、これまでとはすっかり変わってしまいました。
なんとなく、頭を働かせるような、冷たい遊びになりました。
――雪が降りしきっている、ある冬の日のことでした。カイは、大きなレンズを持って外に出ました。そして、自分の青い上着のすそを広げて、その上に雪の結晶を積もらせました。
「ゲルダちゃん、このレンズをのぞいてごらん」と、カイは言いました。
見れば、雪の結晶の一つ一つがとても大きく見えて、まるで美しい花や、六角形の星の形をしていました。
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