初級翻訳・雪渡り 第3話

宮沢 賢治

狐の学校の生徒たちは、あまりの嬉しさにみんな踊り出しました。
キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。
「昼はカンカン日のひかり、
 夜はツンツン月あかり。
 たとえからだを、さかれても、
 狐の生徒はうそ云うな。」
キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。
「昼はカンカン日のひかり、
 夜はツンツン月あかり。
 たとえこごえて倒れても、
 狐の生徒はぬすまない。」
キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。
「昼はカンカン日のひかり、
 夜はツンツン月あかり。
 たとえからだがちぎれても、
 狐の生徒はそねまない。」
キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。四郎もかん子も、あまりの嬉しさに涙がこぼれました。
笛がピーッと鳴りました。
『わなを軽んずべからず』という大きな字が映し出され、それが消えると絵が映りました。
狐のこん兵衛が、わなに左足をはさまれてしまった景色です。
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん兵衛が
左の足をわなに入れ、こんこんばたばた
こんこんこん」
とみんなが歌いました。
四郎がそっとかん子に言いました。
「僕が作った歌だねえ」

絵が消えて、『火を軽んずべからず』という字があらわれました。
それも消えて、別の絵が映りました。
狐のこん助が、焼いたお魚を取ろうとして、しっぽに火がついてしまった場面です。
狐の生徒たちがみんなで叫びました。
「狐こんこん狐の子。
去年狐のこん助が
焼いた魚を取ろうとしておしりに火がつき
きゃんきゃんきゃん」

笛がピーッと鳴り、幕のあたりが明るくなると、紺三郎がまた出てきて言いました。
「みなさん。今晩の幻燈(げんとう)はこれでおしまいです。今夜、みなさんは心に深く留めなければならないことがあります。それは、私たちがこしらえたものを、賢くて少しもお酒に酔わない人間の子どもさんが食べてくださったということです。ですからみなさんは、これからも大人になっても、うそをつかず、人をねたまず、私たち狐のこれまでの悪い評判をすっかり消し去ってくれるものと信じています。以上、閉会の言葉です」

狐の生徒たちはみんな感動して、両手を上げたり、わーっと立ち上がったりしました。
そして、キラキラと涙をこぼしたのです。
紺三郎が二人の前に来て、丁寧にお辞儀をして言いました。
「それでは。さようなら。今夜のご恩は、決して忘れません」

二人もお辞儀をして、家の方へ帰りました。
すると狐の生徒たちが追いかけてきて、二人のふところやポケットに、どんぐりや栗、青く光る石などを入れて、
「ほら、あげますよ」「ほら、受け取ってください」
なんて言いながら、風のように逃げ帰って行きました。
紺三郎は、それを笑って見ていました。

二人は森を出て、野原を歩いていきました。
するとその青白い雪の野原の真ん中で、向こうから三つの黒い影がやってくるのを見ました。
それは、迎えに来てくれた兄さんたちでした。

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