」
「えっ、B・Dバッジだって?」
二少年は、びっくりして、それをしらべました。
ふたりは、小林、井上、野呂の三人が、五日もまえから、ゆくえ不明になっていることを、よく知っていたからです。
もしや、あの三人が、じぶんたちの行くさきを知らせるために、落としておいたのじゃないかとおもうと、もう、胸がどきどきしてくるのです。
「裏をごらん。
裏に名まえがほってあるだろう?」
「うん、ほってある。
コ、バ、ヤ、シ、あっ、小林団長のバッジだよ。」
「じゃ、小林さんがゆくさきを、知らせるために、すてていったんだね。
きっと、井上君やノロちゃんも、いっしょだよ。」
「うん、そうだ。
さがしてみよう。
少年探偵団の規則にしたがって、二十歩にひとつずつ、落としてあるはずだ。
きみ、あっちをさがしな。
ぼくは、こっちを見るから。」
そこで、二少年は、地面を見ながら、はんたいの方へ、一歩、二歩、三歩と、足かずをかぞえて歩いていきました。
「あっ、あった。
ここにあったよ。」
うしろのほうへ歩いていた山村君が、第二のバッジをみつけました。
「よしっ、それじゃ、そっちの方角だね。
ぼくもいっしょに、さがそう。」
川瀬君は、そこへ走ってきて、それからは、ふたりでバッジをさがしながら進みました。
十字路にくると、三つの方角をさがさなければならないので、てまどりましたが、でも、バッジを見うしなうこともなく、どこまでも、あとをたどることができました。
読者諸君は、とっくにご承知のように、このバッジは、小林君たちが落としたのではなくて、魔法博士が、小林、井上、野呂の三人のバッジを集めて、部下の者に落とさせておいたのです。
そして、明智探偵をおびきよせる計略なのです。
川瀬、山村の二少年は、そんなことは、すこしもしりません。
ほんとうに小林団長が落としていったものと、おもいこんで、一生けんめいに、そのゆくさきを、つきとめようとしているのです。
だいいち、五日もまえに落としたバッジだったら、そのへんの子どもたちに拾われてしまって、なくなっていたはずです。
それが、二十歩ごとに、ちゃんと落ちていたのは、まだ落としてから、まもない証拠です。
でも、二少年は、そこまでは気がつかないのでした。
バッジをさがしながら、いくつも町かどをまがっていきますと、赤レンガのきみょうな建物の前に出ました。
五―六十年もまえにたてたような、古めかしい西洋館です。
レンガべいがつづいて、門には、すかしもようの鉄の扉が、しまっています。
「おやっ、ごらん、ここに、こんなに落ちているよ。」
その門の前に、バッジが十いくつ、バラバラと、落ちているではありませんか。「あっ、これの裏には、イ、ノ、ウ、エ、と、ほってある。」
「こっちのは、ノロとほってあるよ。」
小林君のバッジだけでは、たりなくなったので、三人のバッジを、よせあつめたのでしょう。
「それじゃあ、このうちが、あやしいんだね。」
「うん、そうだよ。
こんなに、かたまって落としてあるのは、このうちへ、はいったというしるしだよ。」
「どうしよう。
この門をよじ登って、しのびこんでみようか。」
「だめだよ。
小林さんでさえ、とりこになったんだから、ぼくたちでは、どうすることもできやしないよ。
はやく明智先生にしらせたほうがいい。
そうすれば、先生がきっと三人を助けだしてくださるよ。」
「うん、そうだね。
じゃあ、いまからすぐに、明智探偵事務所へ、かけつけよう。」
黒い怪物
二少年が電車に乗って、千代田区の探偵事務所にかけつけますと、明智探偵は、おりよく事務所にいて、ふたりを書斎にとおして、話を聞きました。
「うん、そうか。
よくみつけてくれた。
それじゃあ、わたしが、助けだしにいくことにしよう。
しかし、きみたちは、このバッジを、ほんとうに小林君たちが落としたのだと思っているのかね。」
さすがに、名探偵は、はやくも、それをうたがっていました。
「ええ、みんな裏に名まえがほってあるんですもの。
小林さんたちが、落としたにきまっています。」
川瀬君が、ふふくらしく、答えました。
「ところが、わたしは、そうは思わないね。
いいかね。
小林君たちが、ゆくえ不明になったのは、五日まえだ。
このピカピカ光るバッジが、五日のあいだ、だれも拾わないで、もとのままに落ちているというのは、へんだと思わないかね。」
「あっ、そうですね。
それじゃあ……。」
「敵が、わたしを、おびきよせる計略だよ。
そうとしか考えられない。
だが、わたしは、その赤レンガの家へ、ひとりでいってみるつもりだ。
そして、三人を救いだす。
しかし、それには、すこし、準備がいる。
いますぐというわけには、いかない。
いくらいそいでも、四―五日はかかる。
そのあいだ、きみたちは、このことをだれにも、いっちゃいけないよ。
団員にも、秘密にしておくのだ。」
「でも、だいじょうぶでしょうか。
四―五日も待っていたら、小林さんたちが、ひどいめにあうのじゃないでしょうか。」
山村君が、心配そうにたずねました。
すると明智探偵は、にっこり笑って、
「だいじょうぶだよ。
わたしは、こんどの犯人の心もちを、ちゃんと見ぬいている。
いままでは小林君にまかせて、なにもしなかったけれども、小林君から、くわしく報告をきいている。
そしてわたしは、わたしで準備をしていたのだ。
その準備が、もう四―五日で、できあがるのだよ。」
ああ、明智探偵の準備とは、いったい、どんなことだったのでしょう。
やがて、それがわかります。
わかったとき、読者諸君は、きっと、「あっ。」と驚かれるにちがいありません。
「先生、準備って、どんなことですか。」
川瀬君が、たずねました。
「それは、いまはいえない。
わたしの秘密だよ。
しかし、きっと三人を救いだしてみせるから、安心しているがいい。」
明智探偵は、そういって、またにっこりと笑うのでした。
お話はとんで、それから四日めの夜のことです。
一台の自動車が、世田谷区のあの赤レンガの家の、百メートルほど手前でとまりました。
その自動車の中から、まっ黒なものがあらわれました。
頭からふわふわした、黒い大きなふろしきのようなものを、かぶっているのです。
むろん人間にちがいないのですが、どんな顔の人間だか、どんな服をきているのか、足のさきまで、黒いきれにおおわれているので、すこしもわかりません。
西洋の幽霊は、頭から白いきれをかぶって、ふわふわとあらわれますが、あの白いきれのかわりに、この人間は黒いきれをかぶっているのです。
そのきれが、歩くたびにひらひらして、まるで黒いおばけのようです。
黒い怪物は、レンガのへいにそって、宙をとぶように、門の前に近づき、そのまま、ふわりと、すかしもようの鉄の扉をのりこして、中へはいっていきました。
そして、赤レンガの建物のよこをとおって、裏手の方へ、ふわふわとまわっていきます。
なんだか、黒いかげが歩いているようです。
まだ,夜の八時ごろですが、赤レンガの建物は、どの窓も、まっ暗で、寝しずまったようにしずかです。
しかし、裏手の方に、一つだけ明るい窓がありました。
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