初級翻訳・鳥をとるやなぎ 第2話

宮沢 賢治

というのも、モズが群れで飛んで行って木に止まること自体は決して珍しいことではありません。けれど、今日のはあまりに急に落ちたし、もしかすると、あの馬を引いていた人の話の通り、木に吸い込まれたのかもしれないと思うと、なんだか本当のような嘘のような、変な気分で仕方なかったのです。

 慶次郎も同じだったようです。水の中に立ったまましばらく考えていましたが、何かに気づいたように言いました。
「今のは、吸い込まれたのかな」
「そうかもしれないね」と、私は半信半疑で生返事をしました。
「吸い込まれたんだよ。だって、あんなに急に落ちたんだから」
 慶次郎も、無理にでもそう決めつけたいという様子でした。
「もう死んじゃったのかな」と私が言うと、自分でもそうではないと思いながらも、慶次郎は答えました。
「死んだんだね。死ぬ前に苦しくて泣いたんだよ」
 慶次郎はそう言いましたが、やっぱりどこか変な顔をしていました。
「石を投げてみようか。石を投げても逃げなかったら、死んでいるんだ」
「投げよう!」
 慶次郎はすでに水の中から、円くて平たい石を一つ拾い上げていました。そして、力いっぱい、さっきの柳の木に向かって投げつけました。
 石はその半分も届きませんでしたが、モズたちは突然「ガーッ!」と鳴いて、まるで音符をばらまいたみたいに飛び上がりました。そして、すぐ隣の少し低い柳の木の中へ入ってしまいました。さっきと全く同じ光景でした。

「生きていたね。黙ってみんな、僕たちのことを見ていたんだよ」
 慶次郎はがっかりしたようでした。
「そうだよ。石が届く前に、みんな飛んだもんね」
 私も答えながら、たまらなく寂しい気持ちになって、向こうの川原へ向かってまた水を渡り始めました。
 私たちは川原に上がって、砥石(といし)になりそうな、柔らかくて白い円い石を見ました。本当はあまりに柔らかくて砥石にはならなかったかもしれませんが、とにかく私たちはそういう石をよく砥石と呼んで、外の硬い大きな石に水をつけて擦り、四角くしたものです。
 慶次郎はそれを両手で持ち上げて、川へ「バチャン!」と投げました。石はすぐに沈んで水の底へ行き、水中で少し青白く光って見えました。私はそれが、何とも言えず悲しく思えたのです。

 その時でした。急に空が騒がしくなり、見上げると一群のモズが私たちの頭の上を通り過ぎていきました。モズは確かに私たちを怖がったようで、一段高く飛び上がると、それから柳を二本越えて、向こうの三本目の柳を通る時、また何かに引っ張られたみたいに、いきなりその中へ入ってしまいました。
 けれども、もう私と慶次郎は、その木の中でモズが死ぬなんて思いませんでした。慶次郎は本気で石を投げましたが、モズは一斉に飛び上がりました。向こうの低い柳の木からも、騒がしく鳴いてさっきの鳥たちが飛び立ちました。
 私は本当に寂しくなって、もう帰ろうと思いました。
「どこかに、けれど、ほんとうの木はあるよ。」「どこかに、けれど、ほんとうの木はあるよ。」
 慶次郎は言いました。
 私もどこかにはあるだろうと思いましたが、この川のあたりには決してないと思ったのです。
「外へ行って見よう。
 野原のうちの、どこか外の場所だよ。
 外へ行って見よう。」
 私は言いました。
 慶次郎も黙って歩き出し、私たちは川原から岸の草むらの方へ出ました。
 それから毒ヶ森(どくがもり)のふもとにある黒い松林の方へ向かって、キツネのしっぽのような茶色の草の穂を踏みしめながら歩いて行きました。
 すると慶次郎が、ふと後ろを振り向いて叫びました。
「あ、ごらん、あんなにいたよ。」
 私も振り向きました。
 モズが、まるで千匹ばかりも飛び立って、野原のずっと向こうへかけて行くように見えましたが、今度もまた、急に一本の柳の木に落ち込んでしまいました。
 けれども、私たちはもう何も言いませんでした。
 鳥を吸い込む柳の木があるとも思えず、また鳥の落ち込みようがあまりに激しいので、そんなことが全くないとも思えず、本当に気味が悪くなったのでした。
「もうだめだよ。
 帰ろう。」
 私は言いました。
 そして慶次郎も黙って、くるりと戻ったのでした。
 けれども今でもまだ私には、柳の木に鳥を吸い込む力があると思えて仕方ないのです。

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