初級翻訳・ポラーノの広場 第6話

ポラーノの広場

「さあ、こっちに進むんだ! 向こうに小さなシラカバの木が二本見えているだろう? あそこが次の目印なんだよ。暗くならないうちに早く行こう!」

ファゼーロはどんどん走っていきました。本当に、そのあたりではもうツメクサの花の灯りがぽつぽつと点灯しはじめていました。

ぼくはまたファゼーロの後を追って走りました。

「早く行こう、早く行こう! ヤマネコ馬車の御者じいさんに見つかったら、うるさいからね!」

ファゼーロは振り向いてそんなことを叫びながら、走り続けました。

けれども、さっき見えた二本のシラカバの木までは、思ったよりも距離がありました。ファゼーロはとても足が速く、ぐんぐん走っていきました。ぼくも負けじと、本気で走りました。

ようやくそこに着いてファゼーロが立ち止まったとき、周りはもうすっかり夜になっていて、シラカバの木が夜空に真っ黒なシルエットとなって浮かび上がっていました。

その反対に、ツメクサの花はパッと明るく輝いていて、まるで本物の水晶のランプでできているかのようでした。そしてよく観察してみると、前の晩にみんなで話していた通り、一つひとつの灯りは小さな白いガの形をした光でできていて、それが本当に見事に輝いていたのです。あちこちに背の高い赤い灯りもキリッと点灯していて、その茎のところには青々とした緑色の葉っぱがピシッとついていました。

ファゼーロはすばやい身のこなしで、そのシラカバの木にスルスルと登っていきました。そしてしばらく野原の西の方をじっと眺めていましたが、突然枝にぶら下がると、地面へピョンと飛び降りてきました。

「次の目印はもう見えなくなっちゃった。でも、広場はここからちょうどまっすぐ西にあるはずだから、あの雲の少し明るくなっているところを目印にして歩いていこう。もうそんなに遠くないはずだからね!」

ぼくたちは再び歩き出しました。

すると突然、どこからかカブトムシやクワガタの金属のような固い羽が「リィン、リィン」と夜空に響く音がたくさん聞こえてきました。その羽音にまじって、間違いなく何かの楽器の音や、人々がワイワイガヤガヤと楽しそうに騒ぐ声が、ときどきチラリと聞こえては、また消えていきました。

しばらく進むと、ファゼーロが突然立ち止まり、ぼくの腕をギュッとつかみながら、西の野原の奥を指さしました。

ぼくもそっちの方を目を細めてすかして見つめ、思わずよろめいてゴシゴシと目をこすりました。そこには、何という木かすらわからない七、八本の木が、まるで自分の身体から勝手に光を放っているかのように青く輝いていて、まわりの空までぼんやりと明るくなっていました。

「ファゼーロかい?」
いきなり向こうから声がしました。
「ああ、来たよ! やっているかい?」
「やってるよ! すっごくでにぎやかなんだ。山猫(やまねこ)博士も来ているみたいだぜ」
「山猫博士?」
ファゼーロはハッとしたように体をこわばらせました。
「だけど、一緒に行こうよ。ポラーノの広場は、見つけた人なら誰だって行っていいんだからさ!」
「よし、行こう!」
ファゼーロはハッキリと言いました。

ぼくたちはその明かりを目印にして歩いて行きました。
ミーロもファゼーロも、なんだかとても心配そうな様子でした。すっかりものを言わなくなってしまったのです。
そうなると今度は、ぼくの方にむしろ元気が湧いてきました。
「一体、昔話のとおりのことが本当に起こっているんだろうか? それとも何か別のことなのかな? 山猫博士がこんなところにやって来て、いったい何をしているんだろう?」
もうどうしても自分の目で見てみたくて、たまらなくなりました。
その日はとくに、ぼくのお給料の残りもまだ半分以上ありましたし、もしお金を払わなければならないようなことがあっても、ファゼーロやミーロにごちそうするくらい余裕があると思ったからです。

「いいかい、今度はね、ぼくの後ろについて来るんだよ。山猫博士なんか、少しもこわいことなんかないんだから!」
ぼくはもう先頭に立って、どんどん急ぎました。

甲虫たちの羽の音がいよいよ大きくなり、青く光る木々は、その一つひとつの枝葉までハッキリと見えるようになってきました。
木の下では、白いシャツを着た人や黒い影があちこちにチラチラと行ったり来たりしています。誰かが片手を上げて何か話している姿も見えました。
いよいよ近づいてくると、ぼくは「これこそはもう、正真正銘のポラーノの広場にちがいない!」とすっかり思い込んでしまいました。

さっき青く光っていたのは、かなり大きめのハンノキの木でした。その木のてっぺんからはたくさんのモール(飾りリボン)が張られていて、葉っぱまでキラキラと光りながら揺れていました。
その上を、いろいろな蝶や蛾(が)が列を作ってぐるぐる、ぐるぐる、輪を描いて飛び回っていたのです。

うつくしい夏の空には、銀河(天の川)が、いまぼくたちがやって来た方からだんだんそっちのほうへ回っていき、南のまっくろな地平線の上のあたりでは、ぼんやりと白く爆発したように輝いていました。
ツメクサの香りがしたり、いろんな果物の匂いがしたり、みんなの笑い声が聞こえてきたりするうちに、やがて人々はグループになって踊りはじめました。
人数は七、八人くらいのようでしたが、間違いなく本物のオーケストラが、楽しそうなワルツを演奏しはじめました。

ひとまわり踊りが終わると、みんなはバラバラになってコップを手に取りました。
そして、わあわあ叫びながらそれを一気に飲み干しています。
その歓声は、気のせいか「デストゥパーゴ万歳!」と言っているようにも聞こえました。

「あれが山猫博士だな」
ファゼーロが、向こうのテーブルに一人でどっしりと座り、お酒をガブガブと飲んでいる男を指さしました。その男は、黄色のしま模様のシャツに、赤茶色の革ジャケットを着ていて、ものすごく肩幅の広い男でした。
誰か六、七人が、コンフェットウ(お菓子)やリボンを投げたので、それはまるで雪や花のようにキラキラと光りながら、あたりにパラパラと降りました。

ぼくたちは、もう広場の目の前まで来て立ち止まりました。
ちょうどそのとき、デストゥパーゴがコップを持ったまま立ちあがりました。
「おいおい給仕! なぜおれにお酒を注がないんだ!」
すると、白い服を着た給仕が、あわてて走って寄ってきました。
「はいはい、申し訳ありません! 座っていらっしゃったもんですつい……」
「座っていようが立っていようが、このわがはいは、わがはいじゃないか! まあいい、おや、よろしい。諸君は、わがはいのために乾杯しようというんだな? よしよし、プ、プ、プロージット(乾杯)!」
それを聞いて、みんなはお酒をグイッと飲み干しました。

ぼくは急に怖じ気づいてしまって、「もう帰ろうか……」とも思いましたが、さっきファゼーロたちにあんな威勢の良いことを言ってしまった手前、その場で立ちすくむことも、逃げ出すこともできませんでした。
「どうなる! なるようになれ!」と腹をくくり、二人を連れて帽子を取りながら、まばゆい明かりの中へ足を踏み入れました。

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