初級翻訳・ポラーノの広場 第8話

ポラーノの広場

すると、山猫博士がすっと立ち上がりました。
「今度はこのわしが歌って見せよう。おい、楽団、『イン・ザ・グッド・サマー・タイム』を演奏しろ!」
楽団員たちは、何度もこの曲を演奏したことがあるのか、すぐに息を合わせて演奏を始めました。
山猫博士は、案外上手に歌い出しました。

「ツメクサの花の 咲く晩に
 ポラーノの広場の 夏まつり
 ポラーノの広場の 夏のまつり
 酒を呑まずに  水を呑む
 そんなやつらが でかけて来ると
 ポラーノの広場も 朝になる
 ポラーノの広場も 白ぱっくれる。」

ファゼーロは今にも泣き出しそうな顔で黙って聴いていましたが、歌が終わると、ぼくが止める間もなくステージへ駆け上がってしまいました。
「ぼくも歌います! いまの同じ節で!」
楽団はまた演奏を始めました。
山猫博士は「いやあ、これはおもしろいことになったぞ」と言いながら、また大きなコップでお酒を二杯ほどグイッとあおりました。
ファゼーロは力いっぱいに歌い出しました。

「ツメクサの花の かおる夜は
 ポラーノの広場の 夏まつり
 ポラーノの広場の 夏のまつり
 酒くせのわるい  山猫が
 黄いろのシャツで 出かけてくると
 ポラーノの広場に 雨がふる
 ポラーノの広場に 雨が落ちる。」

デストゥパーゴがもう頭に血をのぼらせて、激怒して立ち上がりました。
「なんだと、失礼な! 決闘だ、決闘をしろ!」
ぼくも思わず立ち上がり、ファゼーロを後ろにかばいました。
「バカを言うな! あんたが先にひどい悪口を言ったんだろう。こんな子どもに決闘を申し込むなんてことがあるもんか。このぼくが相手になってやる!」
「へん、きさまの出る幕じゃない、引っ込んでいろ! こいつは、この我輩という名誉ある県会議員をばかにしたんだ。だから我輩は、こいつに決闘を申し込んでいるんだ!」
「いや、あんたがおれの仲間を悪く言ったんだ。おれが相手になってやる、決闘だ! だいたいさっきから見ていれば、まるで自分一人の野原みたいに威張りくさりやがって。さあ、ピストルか剣か、どっちか好きな方を選べ!」
するとデストゥパーゴは、またいきなりお酒をがぶ飲みしました。
(よし、ファゼーロでも大丈夫だ。こいつは酒が入るとすごく弱いはずだぞ)
ぼくは心の中でそっと笑いました。
案の定、デストゥパーゴはうつろで力のない声で怒鳴りました。
「だ、黙れ……! きさまは決闘のやり方も知らんのか!」
「いいだろう。お酒を飲まなきゃまともにものも言えないような、そんな臆病なやつの相手は、子どもで十分だ! おいファゼーロ、しっかりやれよ。こんなやつは野原の毛虫みたいなもんだ。おれが後ろで見ているから、めちゃくちゃに叩きのめしてやれ!」
「よし、おい、誰かおれの介添人(かいぞえにん)になれ!」
そのとき、さっきの夏用フロックコートの紳士が慌てて出てきました。
「まあまあ、あんな子どもを相手になさることはありません。今夜はとても大切な場面なのですから、どうかお納めを……」
すると山猫博士は、いきなりその男をバシッと殴りつけました。
「うるさい! そんなことは分かっているんだ、黙っていろ! おい、誰かおれのお供をしろ、テーモ!」
「はい。どうぞ、お許しください。あとでわたくしが厳しくお仕置きいたしますから」
「うるさい! おい、クローノ、きさまがやれ!」
クローノと呼ばれた、農夫のような男は、「いやあ、おいらには無理だね」と言ってみんなの後ろに引っ込んでしまいました。
「この臆病者め! おい、ポーショ、きさまがやれ!」
「おいらはとてもそんなの無理だよお」
デストゥパーゴはいよいよカンカンに怒ってしまいました。
「よし、介添人などいらん! さあ、支度しろ!」
「きさまも早く支度しろよ!」ぼくはファゼーロの上着を脱がせながら言いました。
「剣でも大砲でも、好きなものを持ってこい!」
「どっちでも、きさまの好きな方にしろ!」(どこにそんな大砲なんかないやい)と思いながらも、ぼくは大声で言いました。
「よし、おい給仕、剣を二本持ってこい!」
すると給仕は、待っていましたとばかりに言いました。
「こんな野原には剣なんてございません。ナイフじゃいけませんか?」するとデストゥパーゴは、ほっと安心したような顔をして、
「よし、それを持ってこい!」と、声だけはやけに大きく張り上げて言いました。
「かしこまりました!」
給仕が食事用のナイフを二本持ってきて、おじぎをしながらデストゥパーゴに手渡しました。
まるで劇の一幕を見ているようだと、ぼくは思いました。
ところがデストゥパーゴは、とっても丁寧にその両方の刃をじろじろと調べているのです。
それから、
「さあ、好きな方を取れ!」と言って、ナイフを二本ともファゼーロに押し付けました。
ファゼーロはそのうちの一本を、すぐにデストゥパーゴの足もとへポーンと投げ返しました。
デストゥパーゴはそれを拾い上げました。
そこでぼくは、二人のまん中へ飛び出しました。
「いいか! 決闘のルールに従うんだぞ。組み合うのは反則だ!
せーの、いち、に、さん、スタート!」
するとどうでしょう、デストゥパーゴはその短いナイフをまるで長い剣のように振りかざし、一生懸命ファゼーロの胸を突きながら後ずさりしていきました。一方のファゼーロは、まるで小さな短刀を扱うようにしっかりと柄をにぎり、デストゥパーゴの手首をめがけて狙いをつけていました。二人がその場でグルグルと三度ほど回り終わると、デストゥパーゴは急にナイフをポロッと落としてしまい、左手で自分の右の手首をギュッと押さえました。
「いてて、やられたよ! 誰かヨードチンゲンを持ってきてくれ! 過酸化水素水はないのか!? やられた、参った!」
そう叫ぶと、彼はドタッとイスに座り込んでしまいました。
ぼくは思わず笑ってしまいました。
「いろいろと難しいお薬の名前をご存じなんですねえ。おい、誰か水を持ってきてやってくれ!」
すると、その水をミーロが持ってきました。
そしてジョウロで「シャーッ!」とたっぷり水をかけたので、デストゥパーゴはヒザから胸まですっかりびしょ濡れになって立ち上がりました。
そして、このかっこ悪い様子をごまかすように、
「えーと、わたくしはこれで失礼させてもらう。みんな、存分に楽しんでくれたまえ!」と元気よく叫びながら、すごいスピードで野原の中へ走って逃げていきました。
すると、テーモも、夏用のフロックコートを着た紳士も、そのほかの四、五人も慌ててその後を追いかけていってしまいました。
みんながいなくなると、野原の中は急に明るい雰囲気になって、みんな元気を取り戻しました。
「おいファゼーロ、お前いいぞうまいことやったな! あの旦那はいったい誰なんだい?」
「競馬場にいる人なんだよ」
「いったい今夜の集まりは何なんだい?」ぼくはやっとの思いで尋ねました。
「いやあ、あの山猫の野郎が、来年の選挙の準備をしているのさ。

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