初級翻訳・鳥鳴く朝のちい子ちゃん 第2話

小川 未明

「ちい子ちゃん、あんた忘れたでしょう。小さいとき、道を歩いていて、前を行くお姉さんを見て『お母さん、あんな靴がいい、わたしあれがほしいわ』と言ったことを。そのお姉さんの靴は、かかとが高くて先がとがったハイカラな靴でね。ダンサーとか女優さんが履くようなものだったから、あんたが大声で言うものだから通る人がみんな振り返って、お姉さんが恥ずかしがって気の毒だったのよ、とお母さんがおっしゃっていたわ」
とおばあさんが言いました。
「おばあさん、それ『ハイヒール』でしょう?」
「そうそう、そのハイヒールとかいう靴だね。ちい子ちゃん、靴はあんなのより、やっぱりこうしたかかとが平らで、少し大きいくらいのものが体のためにいいんですよ」
おばあさんは退屈で、誰とでもおしゃべりをしたかったのです。
「ちい子ちゃん、そんなこと覚えているかい?」
「ううん、忘れちゃったわ」
「みんな、小さい時のことは忘れてしまうものかねぇ」
その時、坊やが一人で歩き出し、教会堂の門から外の方へ出ていこうとしていました。これに気づいたおばあさんは、「あら、坊や! 一人で行っちゃ危ないよ!」と、ちい子ちゃんのことなどすっかり忘れて、坊やの後を追っていきました。
「本当に、私、そんなことがあったのかしら」
ちい子ちゃんは、もう牧師さまのお説教が終わって、グループに分かれての先生のお話が始まる時間だと思い、ドアの方へ足音も軽く歩いていきました。
そして、静かに中へ入っていきました。
ちい子ちゃんは、本当に可愛らしいお嬢ちゃんです。

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