初級翻訳・秋 第5話

秋

私は照さんさえ幸せなら、それが何よりありがたいと思っているの。本当よ。俊さんが照さんを愛していてくれれば……」
言葉を続けているうちに、信子自身の心もその言葉に動かされて、だんだんと感傷的になっていきました。
すると突然、照子は袖を降ろし、涙で濡れた顔を上げました。
その瞳の中には、意外なことに、悲しみも怒りも見当たりませんでした。
ただ、抑えきれない嫉妬の気持ちが、燃えるように瞳を熱くさせていたのです。
「じゃあ、お姉様は……お姉様はどうして昨夜も……」
照子は最後まで言い切らないうちに、また顔を袖に埋めて、発作的に激しく泣き始めました。
……
二、三時間後、信子は電車の駅へ急ぐため、人力車に揺られていました。
彼女の目には、外の世界が、前の幌を切り抜いた四角いセルロイドの窓を通してだけ映っていました。
そこには、町の外れらしい家並みや、色づいた木々の梢が、ゆっくりと、でも絶え間なく後ろへ流れていきました。
もしその中で一つだけ変わらないものがあるとすれば、それは薄雲が浮かぶ、冷たい秋の空だけでした。
信子の心は静かでした。けれど、その静けさを支配していたのは、寂しい諦め以外の何物でもありませんでした。
照子の泣く発作が収まった後、二人は新しい涙とともに、何事もなかったかのように元の仲の良い姉妹に戻っていました。
しかし、現実は現実として、今も信子の心を離れてはいませんでした。
従兄の帰りを待たずに人力車に乗り込んだとき、すでに妹とは永遠に他人になってしまったような感覚が、意地悪く彼女の胸の中に冷たい氷を張らせていたのです。
――
信子はふと顔を上げました。
そのとき、セルロイドの窓の中に、ごみごみした町を歩いてくる、杖を持った従兄の姿が見えました。
彼女の心は動揺しました。
人力車を止めようか。それとも、このまま行き違ってしまおうか。
彼女は高鳴る鼓動を抑えながら、しばらくの間、幌の下で空しい迷いを繰り返していました。
けれど、俊吉と彼女との距離は、見る見るうちに縮まっていきました。
彼は薄日を浴びながら、水たまりの多い通りをゆっくりと歩いていました。
「俊さん」
そんな声が、一瞬だけ信子の唇からこぼれそうになりました。
実際、俊吉はその時もう、彼女の乗る人力車のすぐそばに、見慣れた姿を現していました。
けれど、彼女はまたためらってしまいました。
その迷っている間に、何も知らない彼は、とうとうこの人力車とすれ違ってしまいました。
薄く濁った空、まばらな家並み、高い木々の黄色く色づいた梢。後ろには、相変わらず人通りの少ない、町の外れの景色があるだけでした。
「秋……」
信子はうすら寒い幌の下で、全身で寂しさを感じながら、しみじみとそう思わずにはいられませんでした。
(大正九年三月)

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