初級翻訳・シグナルとシグナレス 第2話

シグナルとシグナレス

やっぱり雷か、それとも噴火かな」
本線の信号機は、今夜も眠れませんでした。とても悩み苦しんでいたのです。
けれども、悩んでいたのは信号機だけではありませんでした。枕木の向こう側に、青白くしょんぼりと立って、赤い火を掲げている軽便鉄道の信号機、すなわちシグナレスも、全く同じ気持ちでした。

「ああ、シグナルさんもひどいわ。あたしが言葉にできなくてお返事もできなかったのに、すぐにあんなに怒ってしまうなんて。あたし、もう何もかもおしまいだわ。おお神様、シグナルさんに雷を落とすときには、一緒にあたしにも落としてくださいませ」
そう言って、シグナレスは一生懸命に星空へ祈っていました。
ところが、その声がかすかに信号機の耳に届きました。信号機はハッとしたように胸を張って、しばらく考えていましたが、やがてガタガタと震え出しました。
震えながら、信号機は言いました。
「シグナレスさん、あなたは何を祈っているのですか?」
「あたし、存じませんわ」シグナレスは声を落として答えました。
「シグナレスさん、それはあまりに冷たいお言葉でしょう。僕はもう今すぐにでも雷に潰されるか、足元から噴火を引きずり出すか、いっそ潔く風に倒されるか、それともノアの洪水に飲み込まれて死んでしまおうと思っているのですよ。それなのに、あなたはちっとも同情してくれないのですか」
「あら、その噴火や洪水を……。あたしのお祈りはそれよ」シグナレスは思い切って言いました。
信号機はもう嬉しくて、嬉しくて、なおさらガタガタガタガタと震えました。その赤い眼鏡まで揺れていました。
「シグナレスさん、なぜあなたは死ななければならないのですか? ねぇ、僕に話してください。僕に話して。きっと僕がそのいけないやつを追い払ってしまいますから。一体どうしたのですか?」
「だって、あなたがあんなにお怒りになるんですもの」
「ふふん。ああ、そのことですか。ふん。いいえ、そのことならばご心配には及びません。大丈夫です。僕、ちっとも怒ってなんかいませんからね。僕、あなたのためなら、眼鏡を全部取られても、腕を全部引き抜かれても、それから沼の底へ叩き込まれたとしても、あなたを恨んだりはしませんよ」
「あら、ほんとう? 嬉しいわ」
「だから僕を愛してください。さあ、僕を愛していると言ってください」
五日の月は、このとき雲と山の端のちょうど真ん中にいました。信号機はもう顔色を変えて、灰色の幽霊のように青ざめながら言いました。「また黙り込んでしまいましたね。やっぱり僕のことが嫌いなんでしょう。もういいです、どうせ僕なんて、いつか噴火か洪水か、あるいは風に吹き飛ばされて終わりになる運命なんですから」
「あら、違いますわ」
「それなら、どうして、どうしてなんですか」
「あたし、ずっとずっと昔から、あなたのことばかり考えていたんですもの」
「本当ですか、本当ですか、本当ですか」
「ええ」
「それならいいでしょう。結婚の約束をしてください」
「でも……」
「でも、何ですか。僕たちは春になったら燕(つばめ)に頼んで、みんなに知らせて結婚式を挙げましょう。どうか約束してください」
「だって、あたしなんてこんなにつまらない存在なんですもの」
「わかっていますよ。僕にはその『つまらない』ところが、何よりも尊いんです」

すると、シグナレスは勇気を振り絞って言いました。
「でも、あなたは金(かね)でできているでしょう? 最新式だし、赤と青の眼鏡を二組も持っていて、夜だって電灯で明るい。あたしは夜だってランプだし、眼鏡だって一つきり。それに、あたしは木でできているんですもの」
「わかっていますよ。だからこそ、僕はあなたが好きなんだ」
「あら、本当? 嬉しいわ。あたし、お約束するわ」
「えっ、ありがとう! 嬉しいなあ。僕も約束しますよ。あなたはきっと、僕の未来の妻だ」
「ええ、そうよ。あたし、決して気持ちは変わらないわ」
「結婚指輪をあげますよ。ほら、ね、あそこに見える四つ並んだ青い星」
「ええ」
「あのいちばん下の脚元に、小さな輪が見えるでしょう? あれが環状星雲(かんじょうせいうん)ですよ。あの光の指輪を、受け取ってください。僕のまごころです」
「ええ……ありがとう、いただきますわ」

「ワッハッハ! 大笑いだ。うまくやってやがるぜ!」
突然、向こう側の真っ黒な倉庫が、空まで響き渡るような大きな声で怒鳴りました。二人はあまりのことに、しんとなってしまいました。
すると、倉庫がまた言いました。
「いや、心配しなさんな。このことは誰にも漏らしたりしないぞ。わしがしっかり飲み込んでおいてやるから」

その時です。お月さまがコロンと山へ隠れてしまい、あたりがパッと薄暗くなったのは。
今は風がとても強いので、本線の電信柱も、軽便鉄道の電信柱も、気が気ではなく「ぐうん、ぐうん、ひゅうひゅう」と独楽(こま)のように唸っていました。それでも空は真っ青に晴れ渡っています。
本線信号機のそばにいる太っちょの電信柱も、もうでたらめな歌を歌っている場合ではありませんでした。できるだけ体を縮めて目を細め、みんなと同じように「ブウウ、ブウウ」と唸ってごまかしていました。

シグナレスは、東の空の、ぐらぐらするほど強い青い光の中を、びっこをひくように走っていく雲を眺めていましたが、それからチラッと信号機の方を見ました。
信号機は今日は巡査のようにしゃんと立っていましたが、風が強くて太っちょの電柱には聞こえないのをいいことに、シグナレスに話しかけました。
「ひどい風ですね。あなた、頭がほてって痛かったりしませんか? 僕もなんだか少しクラクラします。これから色々とお話ししますから、あなたはただ頭を振ってうなずいていてください。どうせお返事をしても僕のところへ届きはしませんから。それから、僕の話で面白くないことがあったら、横の方に頭を振ってください。これは本当はヨーロッパの方のやり方なんですよ。向こうでは、僕たちのように仲の良い者が、他人に知られずにお話をする時はみんなこうするんです。僕、それを雑誌で見たんですよ。ねえ、あの倉庫のやつ、おかしなやつですね。いきなり僕たちの話に口を出して『引き受けた』だなんて。あいつはずいぶん太ってますね、今日も目をパチパチさせてますよ。僕があなたに話しかけているのはわかっても、風のせいで何を言っているのかちっとも聞こえないんですよ。……でも、全体的にあなたには聞こえていますか? 聞こえるなら頭を振ってください。ええ、そうですね、聞こえますよね。僕たち早く結婚したいですね。早く春になればいいのに。僕のところの『ぶっきりこ』には、少しも知らせないでおきましょう。そして、いきなり……ウヘン! ああ、風で喉がゼイゼイする。ああ、ひどい。ちょっとお話を休みますよ。喉が痛くなってしまった。わかりましたか? じゃあ、ちょっとさようなら」

それから信号機は「うううう」と唸りながら目をパチパチさせ、しばらくの間だまっていました。シグナレスもおとなしく、信号機の喉が治るのを待っていました。電信柱たちは「ブンブン、ゴンゴン」と鳴り、風は「ヒューヒュー」と吹き荒れていました。

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