初級翻訳・月夜と眼鏡 第2話

小川 未明

石ですりむいて切ってしまったんだね」と、おばあさんは心の中で思いましたが、目がかすんでいて、どこから血が出ているのかよく見えません。
「さっきの眼鏡はどこへ行ったかしら」と、おばあさんは棚の上を探しました。
眼鏡は目ざまし時計のそばにあったので、さっそくそれをかけて、少女の傷口をしっかり見てやろうと思いました。
おばあさんは眼鏡をかけ、この美しく、何度も自分の家の前を通ったという少女の顔をよく見ようとしました。
すると、おばあさんはびっくり仰天してしまいました。
それは人間の少女ではなく、一匹の美しい蝶々だったのです。
おばあさんは、こんな穏やかな月夜には、ときどき蝶々が人間に化けて、夜遅くまで起きている家を訪ねることがあるという話を思い出しました。
その蝶々は、足を痛めていたのでした。
「いい子だから、こっちへおいで」と、おばあさんはやさしく言いました。
そして、おばあさんは先頭に立って、戸口から外へ出て、裏の花園の方へと歩いていきました。
少女は黙って、おばあさんの後についてきました。
花園には、いろいろな花が今を盛りと咲き誇っていました。
昼間は蝶やミツバチが集まってにぎやかですが、今は葉っぱの陰で楽しい夢を見ながら休んでいるのか、あたりはしんと静まり返っていました。
ただ、水のように月の青白い光が静かに流れています。
あちらの垣根には、白い野バラの花がこんもりと固まって、まるで雪のように白く咲いていました。
「娘さんはどこへ行ったのかしら?」と、おばあさんは急に立ち止まって振り返りました。
後からついてきていたはずの少女は、いつの間にかどこへ姿を消したのか、足音もなく見えなくなってしまいました。
「みんなおやすみなさい。どれ、私も寝るとしましょう」と、おばあさんは言って、家の中へ入っていきました。
本当に、とても美しい月夜でした。

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