初級翻訳・小公女 第8話

小公女

わたい――学校、お母ちゃんいないい!」

セーラはロッティがまた泣き出しそうなのを知ると、自分の夢からさめて、ロッティのむっちりした手をとり、自分のそばへ引き寄せました。

「私、あなたのお母ちゃんになってあげよう。あなたは私の娘、エミリィはあなたの妹よ。」

ロッティの泣き顔に、えくぼが浮かびました。

「ほんと?」

「ええ」セーラは飛び起きました。「さあ、行って、エミリィちゃんにも、お姉さんができたって話してあげましょう。それから、あなたのお顔を洗って、髪を結ってあげるわ。」

ロッティはすっかり元気になって頷きました。彼女は今まで小一時間も騒いでいたのは、昼ごはんの前に顔を洗ったり、髪を梳かしたりするのが嫌だったからだということも、けろりと忘れているようでした。彼女はセーラと一緒にちょこちょこと部屋を出て、二階へ上っていきました。その時以来、セーラは「お母さん」になったのであります。

五 ベッキー

セーラは贅沢な持ち物や、学校の「看板生徒」であるという事実によっても、たくさんの崇拝者を作りましたが、それにも増して人を惹きつけたのは、お話が上手だということでした。セーラが話すと、どんなくだらない事でも、立派なお話になってしまうのでした。ラヴィニアなどはセーラのその力を大変羨ましがっていましたが、多少の反感を持って近づいて行っても、セーラの話の巧さには、つい酔わされてしまうのでした。

あなた方も学校で、皆が夢中になって、話の巧い人を取り囲んでいるのを見たことがあるでしょう。セーラはお話が巧いばかりでなく、彼女自身お話をするのが大好きでした。皆に取り囲まれて自分で作ったお話をする時、セーラの緑色の瞳は輝き、頬はバラ色に染まるのでした。彼女は話しているうちに、知らず知らず物語にふさわしい声色や身振りを始めるのが常でした。セーラは少女たちが耳を澄ましていることなど、いつの間にか忘れてしまいました。セーラの目に見えるのは、お話の中の妖精たちや、王様、女王様、美しい貴婦人たちなのでした。

語り終えた時、セーラは興奮のあまり息を切らしてしまうこともありました。そんな時、セーラはどきどきする胸に手を当て、自分を笑うかのようにこう言うのでした。

「私、お話をしていると、あなた方やこの教室よりも、話していることの方がずっと本当らしく思えてくるのよ。私はお話の中の人になっているような気がするの。なんだか変ね。」

セーラがミンチン先生の塾に入ってから、二年目の冬でした。ある薄霧の日の午後、セーラが厚いベルベットや毛皮にくるまって馬車から降りると、みすぼらしい小娘が地下室の入口に立っていました。少女は首を長くして、一生懸命にセーラを見ていました。セーラはおどおどしている少女にふと目を惹かれました。目が合うとセーラはいつものように、にっこり笑いました。

ところが少女の方は、有名なセーラを盗み見たりしたら、きっと叱られるとでも思ったのか、まるでびっくり箱の中の人形のように、ひょこりと台所の中へ隠れてしまいました。ふいにひょこりと消えてなくなったので、セーラは危うく笑い出すところでした。ですが、その少女はあまりにみすぼらしく、あまりに寂しそうなので、笑うこともできませんでした。

その晩のことでした。セーラが教室でいつものお話をしているところへ、その少女は重そうな石炭箱を持って、こそこそと入ってきました。少女は炉の前に跪き、火をおこしたり、灰をかき取ったりしていました。少女はさっきよりはきちんとしていましたが、相変わらずおどおどしていました。話を聞きに来たのだと思われてはならないとでも思っているらしく、音を立てないように手でそっと石炭を入れたり、火箸を動かしたりしていました。

しかしセーラはすぐ、少女がセーラの話に気を取られていること、セーラの言葉を聞き漏らすまいと、休み休み火をおこしていることなどを見てとりました。そこでセーラは声を張り上げて、はっきりと話し続けました。

「人魚たちは、真珠で編んだ綱を曳いて、青水晶のような水の中を静かに泳ぎ回りました。お姫様は白い岩の上に座って、それを見守っていらっしゃいました。」

それは、人魚の王子様に愛されたお姫様の面白いお話でした。姫は海の底の、まぶしい光に満ちた洞窟の中で、王子さまと一緒に住んでいました。
少女は一度炉のまわりを掃き清めると、同じことを二度も三度も繰り返しました。
三度目の掃除が終わると、少女は跪いていたかかとにおしりをぺたりと乗せ、まるで魔法にかかったかのようにセーラのお話に聞き入りました。
彼女の心は、いつの間にか海の底の立派な御殿へと引き込まれていました。
まわりには見たこともないような珍しい海藻がゆらゆらと揺れ、遠くからは美しい音楽が聞こえてくるような気がしたのです。
ほうきが、少女の荒れた手からことりと落ちました。
ラヴィニアが少女の方を振り返りました。
「あら、あの娘ったら、聞いていたのよ。」
とがめられた少女は、あわててほうきを拾い上げると、石炭箱を抱えて、怯えた野うさぎのようにそそくさと部屋を出て行きました。
その様子を見て、セーラはむらむらと胸が熱くなりました。
「私、あの娘が聞いているのを知っていたわ。なぜ聞いてはいけないの?」
ラヴィニアは偉そうに頭を高く上げました。
「だって、あなたのお母さまは女中にお話をしてあげてもいいとおっしゃるかもしれないけれど、私のお母さまは、そんなことしちゃいけないっておっしゃるもの。」
「私のお母さまですって?」セーラは驚いたように言いました。
「ママはきっと、いけないなんておっしゃらないわ。ママは、お嬢さまであろうと女中さんであろうと、誰だって同じようにお話を聞いていいと考えているはずよ。」
「でも、あなたのママはもう亡くなったのでしょう? 亡くなった人に、どうしてそんなことがわかるの?」
「じゃあ、ママには何もわからないとでも言うの?」セーラは低く、きびしい声で言いました。
すると、ロッティが会話に口をはさみました。
「セーラのママは、なんでも知っているのよ。あたいのママだってそう。――ここではセーラがあたいのママだけど、もう一人のママにはなんでもお見通しなの。往来はぴかぴか光っていて、どこもかしこも百合の花でいっぱいで、みんなが百合を摘んでいるのよ。いつだったか、あたいが寝る時にセーラちゃんがお話してくれたわ。」
「まあ、なんて悪い人。」ラヴィニアはセーラの方に向き直って言いました。
「天国のことを、おとぎ話にして話すなんて。」
「でも、聖書の黙示録には、もっと素敵なことが書いてあるわ。ちょっと開いて読んでごらんなさい。私のお話がおとぎ話かどうかなんて、どうしてあなたにわかるの? もう少しお友達に対して親切な心を持ってみて。そうすれば、私のお話がただのおとぎ話じゃないってこともわかるはずよ。さあ、ロッティ、向こうへ行きましょう。」
セーラはロッティの手を引いて歩きながら、あたりを見回してみましたが、あの少女の姿はどこにも見当たりませんでした。
その晩、セーラは女中のマリエットに尋ねてみました。

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