でもそれと同時に、ゴーッという恐ろしい音が聞こえてきました。それは、どんなに勇敢な人でもびっくりするような音でした。
なんと、橋が終わったその先で、下水が滝になって大きな掘割へ流れ込んでいたのです。
それは人間が滝に流されるのと同じくらい、危険な場所でした。
でも、もう止まろうにも止まれないほど近くまで来ていました。
舟は兵隊を乗せたまま、滝つぼへと押し流されました。
すずの兵隊は、それでも一生懸命につっぱって立っていて、まぶたひとつ動かしませんでした。
小舟は三度、四度とくるくると回り、舟べりまで水がいっぱいに入りました。
もう沈むほかありません。すずの兵隊は首まで水に浸かっていました。
小舟はだんだん深く沈んでいき、新聞紙はとうとうグズグズに崩れてしまいました。
ついに水は兵隊の頭を越してしまいました。
そのとき兵隊は、かわいらしい踊り子のことを思い出しました。もう二度と会うこともできないのだと、そう考えました。
すると兵隊の耳に、こんな歌が聞こえてきました。
「さよなら、さよなら、兵隊さん、
これでおまえもおしまいだ」
ちょうどそのとき新聞紙が破れて、すずの兵隊は水の底へ落ち込みました。
――ところが、その途端、大きなお魚がやってきて、パクッと飲み込んでしまいました。
まあ、そのお魚のお腹の中の暗いこと!
そこは下水の橋の下よりもずっとまっ暗でした。それにお腹の中の狭苦しさといったらありません。
でも、すずの兵隊はしっかりと立って、銃剣を肩に担ぎ、踏ん張っていました。
お魚はあっちへ行ったり、こっちへ行ったりと泳ぎ回りました。
さんざんめちゃくちゃに動き回ったあと、急にお魚は静かになりました。
ふと、稲妻のような光が差し込んできました。
カンカンと明るい昼間でした。
誰かが大きな声で言いました。
「やあ、すずの兵隊だ!」その魚は捕まえられて魚市場へ売られ、誰かに買われて台所へ運ばれました。そして料理番の女中さんが大きな包丁で、お腹を切り裂いたのです。
女中さんは、そのとき兵隊を両手でつまみ上げると、お部屋へ持っていきました。みんなは、お魚のお腹の中を旅してきたその珍しい勇士を見たくて、大騒ぎしていました。
でも、すずの兵隊はちっとも得意げではありませんでした。
みんなは兵隊をテーブルの上にのせました。
すると――どうでしょう、世の中にはずいぶんと奇妙なことがあるものです。
すずの兵隊は、もといたそのお部屋へまた連れ戻されたのです。
兵隊は、以前と同じ男の子に出会いました。
同じおもちゃたちがテーブルの上にのっていました。
かわいい踊り子のいる、きれいなお城もありました。
娘さんは相変わらず片足で体を支え、もう片方の足を空へ向けていました。
この子もまた、しっかり者の仲間だったのです。
その姿に、すずの兵隊はすっかり心を動かされました。
もう少しで、すずの涙を流すところでした。
でも、そんなことは男がすることではありません。
兵隊は娘さんをじっと見つめました。
娘さんも兵隊の顔を見つめました。
けれど、お互いに何も言葉を交わしませんでした。
そのとき、小さな男の子の一人が、すずの兵隊をつかんで、いきなり暖炉の中へ投げ込みました。
どうしてこんなことになったのか、きっと嗅ぎタバコの黒い小鬼の仕業に違いありません。
すずの兵隊は赤々と光る炎に包まれながら、そこに立っていました。
そのうち、ひどい熱さを感じるようになってきました。
でも、この熱さが本当に火の熱さなのか、それとも心の中の情熱が燃えているからなのか、兵隊にはわかりませんでした。
やがて、体の色はすっかり剥げてしまいました。
でも、これも長旅のせいなのか、心の中の悲しみのためなのか、それもわかりません。
兵隊は踊り子の顔を見ました。
娘さんも兵隊を見返しました。
そのうち、体がとろけていくように感じました。
でも、それでも銃剣を肩に担ぎ、しっかりと立っていました。
そのとき、突然ドアがバタンと開きました。
吹き込んできた風が踊り子をさらいます。すると彼女は、まるで空を飛ぶ魔女のようにひらひらと舞いながら、暖炉の中へ、ちょうど兵隊がいるところへまっしぐらに飛び込んできました。
とたんに、パッと炎が燃え上がって、娘さんは跡形もなく焼け落ちてしまいました。
やがて、すずの兵隊はだんだんとろけて、小さな塊になりました。
そうして次の日、女中さんが灰をかき出すと、兵隊は小さなすずのハートの形になっていたのです。
けれども踊り子のほうは、金箔だけが残り、それは炭のように真っ黒に焦げていたのでした。
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