初級翻訳・そり(童話) 第3話

そり(童話)

子どもたちは、奥の部屋から台所へ、台所から奥の部屋へと駆け回っては、お母さんに、リカが何と言ったとか、どんなふうにせきをしたとか、いちいち報告しました。
まるで、台所に何かめずらしい動物でもいるような大騒ぎです。
コーリヤは、お母さんが手紙と一緒に送ってくれた蓄音機をかけていました。
蓄音機は、勇ましい行進曲を鳴らしたり、歌を歌ったりしました。

「コーリヤ、蓄音機をリカに見せてあげようよ。」とボーリヤが言いました。
「お母さま、リカを連れてきてもいいでしょ?」
「どうして?」
「蓄音機を見せてあげるの。」

子どもたちはお母さんに飛びついて、ねだりました。
そしてお母さんが許してくれると、大喜びで駆け出しました。
「こら、走ってはいけませんよ。それから、靴は脱がせるんですよ。」
「もう脱いでるよ。」

リカはいつまでもぐずぐずしていて、なかなか奥へ来ようとしませんでした。
「おれの見たことのないものだって? なんだろうな?」
「森のおばけだよ。」とコーリヤが言いました。
「なんだって。」
「なんでもいいからおいでよ。」
「よし、行く。」

リカは、ようやくコーリヤの後についていきました。
コーリヤが食堂の前を通るとき、リカはちょっと後ずさりをしました。奥様の姿がちらりと見えたからです。
「いいんだよ。さあ、大丈夫だよ。」
コーリヤたちはリカを引っ張って、蓄音機の前へ連れてきました。
「ほら、この箱ね、この中には魔法使いがいるんだよ。」
「うそう。」
「うそだなんて?」
コーリヤはそう言いながら、急に蓄音機を動かしました。
リカはびっくりしました。
「ほう、こんちくしょう。歌を歌いやがる。」
リカは、音の出るその箱を壊しそうなくらい、じっとのぞき込みました。
子どもたちは、みんなでキャッキャと笑いました。

四

あまりに笑い騒ぐので、お父さんが出てきました。そして、お父さんも笑いました。
それを聞いて、お母さんもやってきました。
「まあ、なんですの?」
「リカったら、お母さん、リカったらね、蓄音機を怖がってるのよ。」
「うそだい。」と、リカは真っ赤になって言いました。「怖がってなんかいるもんか。これあ器械だよ。」
そう言って、リカはシュッと鼻をすすりました。
お母さんは顔をしかめて、リカの肩をつついて言いました。
「さあ、もうたくさん。あっちへお行きなさい。ね。」
「あら、まだいいわ。」とサーシュカが言いました。「もう少し居させてあげてよ、ね。」
「いいえ、もう十分ですよ。さあ、あっちへ行きなさい、リカ。」

リカは台所へ帰ろうとしましたが、食堂のところまで来ると振り返って言いました。
「あ、そうだった。奥様、駄賃をくださいよ。」
「あげますとも。」
「じゃあ、今すぐくださいな。でないと、おれは明日の夜明けには行かなきゃならないから。」
「わかったわ、すぐ女中に持って行かせます。さあ、あっちへお行き。」
「おれに、直にください。その方が間違いがないから。夜明けには早く行かないと、父ちゃんに『泊まるな』って言われてるから、叱られるといけないんだ。」

そのときボーリヤが出てきました。
「坊ちゃん、じゃあさよなら。」
リカは手を差し出して言いました。ボーリヤは手を出そうとしましたが、急にその手を引っ込めてしまいました。汚い子と握手をしてはいけないと言われているからです。
リカはくるりと回って、台所へ行きました。
奥様は女中を呼んで、リカに駄賃を渡させました。
リカはそのお金をぼろきれに包んで、長靴の中へ押し込むと、ようやく安心して、腰かけの上に体を伸ばしながら、晩ごはんの支度をしている女中に話しかけました。
「何を焼いてるの?」
「うなぎよ。」
「うふん、この家の人たちはうなぎを食うのかい。ふうん、おらが村の旦那は毎日鳩を食うよ。」

晩ごはんが済むと、奥からピアノの音が響いてきました。
リカはそれを聞きながらうとうとし始めましたが、急に起き上がって叫びました。
「あゝ、そうだった。馬のことを忘れていた。」
リカは靴を履いて、庭につないである馬のところへ、水をやりに行きました。
「ほーら。」
リカは馬のお尻をペタンと叩くと、水桶をドサッと置いて、空を見上げました。馬はうれしそうに、リカに鼻をすり寄せながら、低く鳴きました。
「甘えるんじゃないよ。」
リカは、馬の首をパタパタと叩き続けました。

翌朝、リカは夜明け前に門を出ました。
コーリヤはもちろん、まだ暖かい布団の中で眠っていました。
家中の窓はみんな閉め切られていました。
リカは、コーリヤやボーリヤのこと、そしてあの音楽を奏でる不思議な機械のことなどを思い出しながら、力いっぱい、ピシッと鞭を鳴らしました。
「さあ、行け。」
そりは、飛ぶように走り出しました。
鈴の音が、薄暗く静かな空に、いつまでもいつまでも響き渡りました。

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