初級翻訳・やんちゃオートバイ 第2話

やんちゃオートバイ

 ピリイはあんまり泣いたので、放熱器の水がすっかりなくなってしまいました。
 そのためひどく頭がほてって、怒りっぽくなってしまいました。
 次の日ピリイに乗ってお出かけになった奥さまは、行く先々でピリイの頭へ、バケツに何杯も何杯も水をぶっかけなければなりませんでした。
「いつもはおとなしい車なのに、今日はどうしたんでしょう。ちょっとしたことにもすぐに湯気をシュッシュッと吹き出して、すぐに放熱器の水が乾いてしまうんですよ。」
 奥さまは、その晩ご飯を召し上がりながら、ご主人にお話しになりました。
「いや、私のポピイも、今日はよほど変だったよ。」とご主人もおっしゃいました。
「横丁さえ見れば曲がりたがるんだ。ハンドルをいくら押さえても聞かないんだよ。どうも変だ。」
 それでも次の日、ご主人はまたポピイに乗ってお出かけになりました。
 ポピイはまた、一生懸命モーティを探そうと、あっちの横丁、こっちの裏通りを覗き覗き歩きました。
 そして、とうとううっかりガラスのかけらの上に乗り上げてしまい、タイヤをパンクさせてしまいました。
 ご主人こそいい災難です。ポピイはご主人と一緒に夜遅くなって、ようやくお屋敷へ帰りました。

五

 それからまた幾日も経ちました。
 でも、まだモーティは帰ってきません。
 ポピイとピリイはがっかりして、すっかり元気がなくなってしまいました。
「ひょっとしたら、モーティは盗まれて古自動車屋へでも売られたんではないでしょうか。」
「よし、そのうちご主人のお供をして下町の方へ出ることがあるだろうから、その時は思い切ってガラクタ屋の店でも何でも探してみよう。……なに、きっと見つかるよ。」
 ポピイは強がって、こう言いました。
「しかし、あんなやんちゃなモーティのことだ。ことによると、悪い仲間に誘われて警察にでもつかまっているんじゃないかな。」
 ポピイが言うと、ピリイは心の中ではそうかもしれないと思いながら、やっぱり打ち消さずにはいられませんでした。
「いいえ、やっぱり私は盗まれたんだと思いますわ。……ねえ、あなた、一つ新聞に広告を出してみようではありませんか。」そこで、モーティを見つけてくださった方にはお礼を差し上げます、という広告をいくつかの新聞に出しました。
しかし、ちっとも手がかりはありませんでした。
返事はたくさん来るには来たのですが、みんな見当違いのいい加減なものばかりでした。
二人はまた、がっかりしてしまいました。

六

そうこうするうちに、ポピイは、いよいよご主人のお供をして下町へ出かけることになりました。
今日こそは、どうしてもモーティを見つけなければならないと、ポピイは一生懸命です。
オートバイらしきものを見つけるたびに、ポピイはランプの眼をくりくりさせて見つめました。
するとふいに、百メートルほど先を赤いオートバイがちらっと通り過ぎました。
あっと思う間に、そのオートバイは横丁へ曲がってしまいました。
ポピイは気が狂ったように後を追いました。
どうしてもモーティに違いないと思ったからです。
乗っていたご主人はびっくりして車を止めようとしましたが、ハンドルがまったく言うことを聞きません。
ポピイはご主人の用事のことなどすっかり忘れて、いきなりその横丁へ飛び込みました。
赤いオートバイは、もう向こうの町角を曲がるところです。
ポピイはこのあたりの道をよく知らないので、余計に焦りました。
見失ったら、もうおしまいです。
ポピイは死にもの狂いになりました。
角を曲がると、赤いオートバイは向こうの坂の下に、豆粒のように小さく見えます。
ひどいデコボコの坂です。
それでも構わず、ポピイは全速力で走りました。
年を取っているポピイの体は、石ころに乗り上げるたびに、バラバラになるのではないかと思うほど激しく揺れました。
でも、ポピイはそんなことには構っていられません。
しかし困ったのはご主人です。
ご主人の体はポンポンとゴムまりのように跳ね上がりました。
その拍子に帽子がポンと飛びました。
それでも、はっと思う間もなく、またヒョイと帽子が元の通りご主人の頭にかぶさったのは幸いでした。
ポピイは、つぎはぎだらけのタイヤがペシャンコになったのも構わず、びゅうびゅうと赤いオートバイの後を追いかけました。
今度は公園です。
曲がりくねっている道がじれったくてたまらないので、ポピイは真ん中の大きな池へザブンと飛び込みました。
ポピイはそのまま水の中をザブザブと真っすぐに駆け抜けて、電車通りへ飛び出しました。
赤いオートバイは、またチラチラと後ろ姿を見せながら人混みへ隠れてしまいました。
ポピイはもう夢中です。
走ってくる電車の前をギリギリで走り抜けたり、もう少しで満員のバスと衝突しそうになったりと、見ているだけでハラハラするような走りっぷりでした。
歩いている人たちはあわてて、道の両側にある店の日よけの下へ逃げ込み、びっくりしてその後ろ姿を見送っていました。
それよりも驚いたのはご主人です。
「助けてくれ! 誰か、この自動車を止めてくれ!」
ハンドルをしっかりと握りながら、ご主人は真っ青になって叫びました。
交通巡査はすぐに黄色いオートバイに飛び乗って追いかけました。
それでも、とうとうポピイは人を轢かずに、ある貸車庫の前で止まりました。
赤いオートバイがその中に入ったからです。
ポピイはぐったりとすると同時に、きまりが悪くて情けなくてたまりませんでした。
あんなにまでして追いかけたオートバイは、モーティではなかったのです。
ご主人はポピイの心持ちなど知らないので、ただ機械が故障したのだと思い、その場でハンドルやギアをすべて新しいものに取り換えてくださいました。
これで二度とあんな危ないことは起こるはずがないと、固く信じていらっしゃいます。
実際、それから後は、ポピイは一度だって勝手に走り回ったことはありませんでした。
しかし、それはポピイがもう、モーティを探すことをあきらめてしまったからなのです。
ピリイも、もうすっかりあきらめてしまいました。

七

それからまた一ヶ月も経ちました。
ポピイとピリイは時々モーティのことを思い出しては、お互いにそっとため息をついていました。
ところが、ある朝のことです。
いつものように車庫の扉が外からギイッと開くと、二人はびっくりして眼を見開きました。
そこには、モーティが、赤い塗りたてのサイドカーまでつけて、威勢よく立っているのです。
二人は嬉しくて、しばらくは物も言えませんでした。
するとモーティが、すっかり大人らしくなった太い声で言いました。
「しばらく。……お父さん、お母さん。僕、妹を連れてきたからよろしく頼むよ。」
ポピイもピリイもびっくりしてしまいました。
なんて、ぞんざいな口をきくのでしょう。あんなに心配をかけておきながら、まだ行儀も悪いままなのかしら。本当に困ったものだわ、と二人は思いました。
けれど、それ以上に、ずっと欲しがっていた女の子まで家族に加わったのですから、まずはありがたいことだと考え直し、モーティに対しては、お説教も何も言いませんでした。
しかしモーティも馬鹿ではありません。

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