「あなたがネコを好きじゃないってこと、うっかり忘れていましたわ!」
「好きじゃないだと!」とネズミは、かん高い、感情のこもった声で言いました。
「あんたがこっちの身だったら、そんなこと言えるか!」
「ええ、おっしゃる通りですね」とアリスはなだめるような声で言いました。
「そんなにお怒りにならないで。でも、うちのネコのダイナに引き合わせられたらなあ。あの子をひと目見たら、きっとネコさんのことも好きになると思いますよ。とてもかわいくて、おとなしいんですもの」とアリスはひとりごとのように言いながら、池をゆったりと泳ぎました。
「だんろのそばに座って、すてきにのどを鳴らして、お手々をぺろぺろなめたり、顔を洗ったり。抱っこすると本当にふわふわで、それにネズミを捕まえるのも上手なのよ――あら、ごめんなさい!」
またやっちゃった、とアリスは声を上げました。そのときにはネズミも毛を全身逆立てていたからです。絶対に怒らせてしまったと思って、「お気を悪くされました?」と聞きました。
「されたともよ!」とネズミは声を張り上げました。どう見ても怒りに震えています。
「うちは代々ずっとネコが大嫌いなんだ! いじわるで下品な乱暴者! 二度とその話はするな!」
「いたしませんとも!」とアリスはあわてて話を変えようとしました。
「あなた……あの、犬はお好き?」
ネズミは返事をしません。アリスはこれはいいと思って続けました。
「お屋敷のそばに、とってもかわいい子犬がいるのよ。すんだ目の、ちっちゃなテリアでね。そう、あの子の茶色の巻き毛といったら! 物を投げると拾ってくるし、ちんちんをしてごはんをおねだりしたり、ほかにもいろいろ……半分も思い出せないけれど。飼い主は地主さんで、お話ではみんなやっつけるって。畑のネズミを……ああっ!」
アリスはまたやってしまった、と思いました。
「またお気を悪くさせてしまったかしら」
ネズミはもう全力で泳いで離れていこうとしていて、進むたびに池がばしゃばしゃと波打っています。
そこでアリスは後ろから優しく声をかけました。
「ネズミさん! 戻ってきて! もう犬やネコの話はしないから。あなたが嫌いなら!」
それを聞いて、ネズミはぐるりと回って、ゆっくりと泳ぎ戻ってきました。
顔は真っ青です(怒っているんだな、とアリスは思いました)。それから、か細く震える声で言いました。
「岸辺へ上がるぞ。そこで私の昔話をしてやるから、あんたもどうして私が犬やネコを嫌いなのか、わかるってもんだ」
もうそろそろ岸へ上がる頃合いでした。池の中は、落っこちてきた鳥やケモノたちでいっぱいになりかけていたからです。
そこにはアヒルやドードー、インコに子ワシ、そのほかいろいろな変わった生き物がいました。アリスを先頭に、みんな一緒に岸辺まで泳いでいきました。
なんともへんてこな絵づらの一行がほとりに集まりました。羽を引きずった鳥たちや、毛がぴたーっと張り付いた獣たち。みんなずぶ濡れで、気持ちが悪くていやな気分でした。
さて、ここで考えなければならないのは、どうやってみんなを乾かすかということです。
乾かし方を話し合ううちに、アリスはもうそれほど驚かなくなっていました。気づけば鳥たちと仲良くお話ししていて、まるで生まれたときからの知り合いのようになっていたのです。
もっとも、インコとは長々と言い争ったので、しまいにはむすっとされてしまいました。「わたしの方がお姉さんなの。だから物事をよくわかっているに決まっているわ」なんてインコが言うものだから、アリスだってインコのお年なんて知らないし、そんなの受け入れられません。インコも自分から年齢を口にしたがらないので、結局どちらもそれ以上は何も言えなくなってしまったのでした。ようやくハツカネズミが、それももっともなことだと言わんばかりに声を張り上げました。
「みんな、座って耳をかっぽじりなさい! すぐにみんなをカラカラに乾かしてあげるから!」
みんなはすぐに震えながらも大きな輪になって座り込みました。アリスは、すぐにでも乾かさないとひどい風邪をひいてしまいそうだと心配していたので、じっとネズミを見つめていました。
「おほん!」とネズミはもったいぶった様子で言いました。
「いいかい、みんな。今から話すのは、私が知るかぎりで一番カラッとするお話だよ。どうか静かに聞いておくれ!
ウィリアム征服王は、その大義が教皇さまのお眼鏡にかなったとあって、イングランドの民はすぐさま彼にひれ伏した。当時、イングランドは外から攻め込まれて平らげられるのが常だったからだ。エドウィンとモーカー、つまりマーシアとノーサンブリアの領主たちは――」
「うげっ!」とインコが身震いしました。
「失礼ですが」とネズミは顔をしかめながらも、ていねいに言いました。「今、何か言いましたか?」
「いいえ、何も!」とインコはあわてて答えました。
「そうですか」とネズミ。
「では続きを。エドウィンとモーカー、つまりマーシアとノーサンブリアの領主たちも、彼に味方するとした。カンタベリ大司教スティガンドも、国を憂いてエドガー親王を連れ、ウィリアムに会って冠を差し出すのが得策だと考えた。ウィリアムのふるまいは初めのうち穏やかだったが――さて、今の気分はどうだい?」と言いながら、ネズミはアリスの方を向きました。
「まだびしょびしょよ」と、かわいそうなアリスは答えました。「ちっとも乾きそうにないわ」
「ならば」とドードーが立ち上がり、大まじめな顔で言いました。「この集まりを一度休会にすることを提案する。なぜなら、より効果的な改善策を速やかに採用する必要があるからで――」
「もっとわかりやすい言葉でしゃべりなさい!」とアヒルが言いました。「そんな長ったらしい言葉、半分も意味がわからないし、君自身だって言葉の意味を理解していないだろう!」
ここでアヒルは自分に受けて、グヮグヮと大笑いしました。ほかの鳥たちも、あちこちでクスクスと忍び笑いをしています。
「私が言いたかったのは」とドードーは少し気を悪くしたようでしたが、「この近くに小屋があるから、そこでならこのお嬢さんも集まりのみんなもカラカラに乾かせるし、ネズミさんも続きのお話をしてくれるだろうと思ったからだ。君も私たちに話をする約束を守りたいだろう?」と言って、うやうやしくネズミにおじぎをしました。
ネズミもこれには納得したようで、みんなは川のほとりに沿って動き出しました(このときには池の水ももう広間からあふれ出し、岸辺にはイ草やわすれな草が並んでいました)。ドードーを先頭に、ゆっくりと一列になって進んでいきます。
そのうちにじれったくなったドードーは、あとのみんなをアヒルにまかせると、足早に先へ進みました。アリスとインコ、そして子ワシを連れて、あっという間に小屋に到着しました。そこで暖炉を囲んでひと息つき、毛布にくるまっていると、やがてほかのみんなもやってきて、全員すっかりカラカラに乾いたのでした。
さて、ふたたびほとりでみんな大きな輪になって座ると、ネズミに続きのお話をおねだりしました。
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