こんな調子で、だれかひとりでも生き残れたものかしら!」
逃げのびる手立てをさがしながら、すがたを見られずに立ち去れるのかしらと思っていたところ、気づけばお空のなかにパッとへんてこなものが登場しました。
はじめは何がなにやらわけがわからなかったけど、ものの数分もながめていると、そいつが笑い顔だとわかってきたので、ひとりごとを言いました。「これはチェシアのネコね。やっと話し相手ができてよ」
「うまくやってるかにゃ?」とネコは、話せるだけの口が出たとたんに言いました。
アリスはお目々が出てくるまで待ってから、うなずきました。「まだ話しかけてもむだ」と思ってね。「あの子の耳が、せめて片方でも出てから」1分もすると頭がまるまるあらわれたので、それからアリスは持っていたフラミンゴを下ろして、ゲームのことをかくかくしかじか、聞いてくれる相手ができて、もううれしくってたまらなかったのです。
ネコはそれだけ見えればじゅうぶんと思ったらしく、そこから先は出てきません。
「あのひとたち、たぶんまともにゲームできていなくてよ」と言い出すアリスの口ぶりはちょっぴり不満たらたらでした。「それにみんなひどくさわぎ立てるものだから、自分が何言ってるかもわからなくって――それにルールにちっともこだわらないみたいで。どうせあったとしても、だれも耳なんかかさないし――それにもうわけがわからないのが、何から何まで生き物だってこと。たとえば、次に通さなきゃいけないゲートがあっても、そいつはグラウンドのはしっこまでてくてく歩いて行っちゃうし――あたくしがクイーンさまのハリネズミに当て打ちしようとしたら、そいつはあたくしが来たのを目にしてにげていっちゃうんだもん!」
「クイーンはどうにゃい?」と小声で聞くネコ。
「もうだめ」」とアリス、「だってめちゃくちゃ――」と、ちょうどそこでクイーンが背後で聞いているのに気がついて、言葉の先をこんなふうに変えました。「――お強いんですもの、もうゲームなんてやっていられないわ、という気持ちになってしまって」
クイーンはにっこりと笑って通り過ぎていきました。
「だれと話しているんだ?」とキングがアリスに近づいてきて、ものめずらしそうにネコの頭を見つめました。
「お友だちの――チェシアのネコです」とアリス。
「どうぞ、よしなに」
「面構えがまったく気に食わん」とキング。「だが、もしのぞみとあらば、わが手に口づけしてもよいぞ」
「べーつにぃ」と答えるネコ。
「こらえ性のないやつめ」とキング。「そのような目でわしを見おって!」と言いながら、アリスの後ろにかくれました。
「ネコだって王さまを見る権利くらいあるわ」とアリス。「そう読んだ本にも書いてあったもの。でも、何の本だったかしら」
「むう、やつを追い払わねば」と言い切ったキングは、そのとき通りがかったクイーンに声をかけて、「おまえ、あのネコを追い払ってはくれまいか」と頼みました。
クイーンは大小問わず、やっかいごとを収めるときにはこれしかありません。「こやつの首をちょん切れ!」と、あたりに目をやることもなく言い放ちます。
「処刑人をじきじきに連れてこようぞ」とやる気満々のキングは、いそいそとその場を外れました。
アリスは自分も戻ってゲームのゆくえを見守ったほうがいいかなと思いましたが、そのあいだもクイーンの声が遠くから聞こえてきます。心のままに叫んでいるのです。
プレイしている人たちのなかでも、すでに3人が打つ順番を間違えたという理由で処刑を言い渡されたと耳にしていたし、自分としてもこんなひどいありさまは見ていられません。だってゲームは、自分の番かどうかもわからないくらい、しっちゃかめっちゃかなのですから。
なのでとりあえず、自分のハリネズミを探しに行くことにしました。
ハリネズミはほかのハリネズミと取っ組み合いのけんかをしていて、今ならそのふたつをうまい具合に当て打ちできるとアリスは考えました。ただ困ったことに、自分のフラミンゴが遠く庭の端っこまで行ってしまっていて、アリスの目には、そいつが木のひとつに飛び移ろうと無駄な足掻きをしているのが見えたのです。
ようやく捕まえたフラミンゴを抱えて戻ってくるころには、けんかはお開きになっていて、ハリネズミは2匹とも姿を消していました。
「もうどうでもいいわ」と思うアリス。「ゲートだって、みんなグラウンドのこっち側にはいなくなっているんだもの」
そこで逃がさないようにそいつを脇にぎゅっと抱えて、お友だちともう少しお話でもしようと引き返していきました。
チェシアのネコのところへ戻ると、びっくりしたことに、気づけばまわりに人だかりができていました。
それになんと、処刑人とキングとクイーンとのあいだでいざこざが起きています。みんながいっせいにしゃべるものだから、その場にいるほかの人たちは完全に押し黙ってしまって、なんとも気まずい雰囲気でした。
アリスが現れたとたん、その3人には助けの船のように見えたのか、それぞれが自分の方を向いて言い分を繰り返すのですが、やっぱりみんなバラバラに喋るものだから、だれが何を言っているのか聞き取ろうにも本当にややこしいのです。
処刑人の言い分は、切り離す胴体がないのに首は切れないということ。それから、そんなことはこれまでしたこともないし、今さらこの年になってやってみる気もないとのことでした。
キングの言い分は、頭がある以上は打ち首にできるはずだ、たわけたことを言うなというもの。
クイーンの言い分は、今すぐただちに手が下されないのであれば、だれかれ構わずみな処刑するというもの。
(この言葉が決め手となって、その場の一同はすっかりざわざわとしてしまいました。)
アリスにはもう、こう言うしかないと思えてきました。
「ネコの飼い主は御前さまです。その方にうかがうのがよろしいかと」
「あやつは牢屋のなかじゃ」とクイーンは処刑人に言いました。「ここへ連れてこい」
すると処刑人はひょうふっと走り去ります。ネコの頭はそのとたんに消え始めて、御前さまを連れて戻ってきたときには、もうすっかり姿がなくなっていました。
そこでキングと処刑人はむやみやたらにそこらを捜し回りましたが、そのうちその場のみんなもゲームに戻っていってしまいました。
9 ウミガメフーミのものがたり
「うれしいこと、いかばかりか。また顔を合わせられるとは、なつかしいことよの」と御前さまはなれなれしくアリスの脇に腕を通してきて、ふたりは連れだって歩き出すことになりました。
アリスも御前さまのご機嫌がよろしいとわかって、とてもほっとしました。台所で会ったときあんなにつっけんどんだったのも、よもやコショウのせいかなとも思えてきたのです。「もしあたしが御前さまだとしたら、」とアリスは独り言をつぶやきました(もっとも、そんなことには一生なれそうもありませんが)。「コショウなんて台所には置かせないわ。ひとつだってね。スープにはコショウなんてなくても、じゅうぶんおいしくできるもの。
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