白と赤と、赤白縞模様の巨大なまりが、四人の道化師によって次々と投げられたり受け止められたりする光景は、見ていると実に美しいものでした。ただ投げるだけでなく、ゴロ玉にして転がしてやり、それを相手が受け止めることもあります。そのときには、子どもの首と手足が出た玉が、ゴロゴロと横に転がっていくのです。
しばらくすると、赤のゴムまりに入っている少年が転がされて、ひとりの道化師に受け止められたとき、大きな声でこう叫びました。
「ちょっと、待って……」
「なんだ、いくじのないやつだな。これくらいで、もう参ってしまったのか?」
道化師が叱るように言います。
「ううん、ぼく、こんなこと平気だよ。そうじゃないんだ。いま、変なものが見えたんだ。ちょっと止めて……」
「なに、変なものだって?」
道化師がそう言ってゴムまりの回転を止めてやると、少年はゴムまりから出している右手で向こうを指さしながら言いました。
「あの樽だよ。あの樽の中から、いま、変なものが覗いたんだよ」四人のまり投げの道化師たちから少し離れたところに、大きな西洋酒の樽がちょこんとおいてあります。
樽の化け物のような道化師が、樽の中で座って休んでいるのです。
首や手もひっこめて座っているので、ただ大きな樽がおいてあるように見えます。
「変なものがのぞいたって? どこに。」
道化師は樽のほうを見ましたが、べつに変わった様子もありません。
「なんにもありゃしないじゃないか。ぐるぐる回されて目が回ったので、そんな気がしたんだよ。あの樽の中には、丈吉君が座ってなまけているばかりさ。」
「ううん、そうじゃない。ぼく、たしかに見たんだよ。あの中には変なやつが隠れている。お化けみたいなやつだよ。」
少年がいいはるので、道化師も思わずその樽を見つめました。するとそのとき、びっくり箱の中から人形の首が飛び出すように、樽の上にヒョイと何かが飛び出しました。
それを見ると、道化師は思わず「アッ!」と叫びました。そして、立ちすくんだまま身動きもできなくなってしまいました。
「アッ!」と言ったときにはもう、その変なものは樽の中へひっこんで見えなくなっていましたが、ひと目見れば十分でした。
そいつは真っ黒な大きな目をもっていました。鼻が三角の穴になっていました。上下の歯がむき出しになっていました。骸骨です。樽の中には道化師の丈吉でなくて、骸骨が隠れていたのです。
「おい、みんな!」
その道化師がほかの三人に目くばせをしました。そして、抜き足差し足で向こうにおいてある樽のそばへ近寄っていきました。三人もおずおずとその後から続きます。樽のそばによって、おっかなびっくりそっと上からのぞいて見ました。
するとそのとき、大きな樽がいきなりゴロンと横倒しになりました。みんながアッとひるむまに、樽の中からぴったりと身についた真っ赤なシャツとズボン下の男が飛び出して、恐ろしいいきおいで向こうへ逃げていきます。そいつの顔は、あの恐ろしい骸骨でした。骸骨は道化師丈吉に化けて、真っ白な顔のお面をかぶって、さっきまでみんなをごまかしていたのです。
空中のおにごっこ
真っ赤なシャツの骸骨男は、丸い演技場の向こうの端まで走っていくと、そこにさがっている長い丸太にとびつきました。その丸太の両側には、三十センチぐらいの間隔で三センチほどの木ぎれが打ちこんであります。骸骨男は、その木ぎれに足をかけてするすると丸太の上にのぼっていき、大テントの天井のぶらんこ台にたどりつきました。そして、台の上から下をのぞいて、あの長い歯でニヤニヤと笑っているではありませんか。
道化師たちは体が重くて、とても丸太をのぼることはできません。空中サーカスの男たちを呼ぶほかはないのです。
「おうい、三太、六郎、吉十郎、みんな来てくれえ。骸骨がぶらんこ台にのぼったぞう。あいつをひっとらえてくれえ。」
水玉もようの道化師が、ありったけの声で空中サーカスの名人たちを呼び立てました。すると楽屋口から、肉じゅばんに金糸の刺繍があるさるまたをはいた屈強な男たちが、つぎつぎと飛び出してきました。
「あそこだ、ほら、あのぶらんこ台の上だ。」
道化師が指さすところ、地上五十メートルの大テントの天井、ぶらんこ台の小さな板の上に、真っ赤なシャツをきた変なやつがうずくまっているのが小さく見えました。
「やあい、おりてこい! でないと、おれたちがのぼっていって突き落としてしまうぞう。そこから落ちたら命がないぞう!」
空中サーカスの吉十郎が、両手で口をかこって高い天井へどなりました。すると、それに答えるように天井から、
「ケ、ケ、ケ、ケ、ケ、ケ……。」
とお化け鳥のなくような声がおりてきました。骸骨が長い歯をパクパクやって笑っているのです。
「ようし、いまにみろ!」
吉十郎はふたりの仲間を手まねきして、天井からぶらさがっている丸太の下まで駆けつけると、いきなりそれをのぼりはじめました。さすがは空中サーカスの名人たち、まるでサルのようにやすやすと丸太をのぼり、天井のぶらんこ台にたどりつきました。
そして、そこにうずくまっている骸骨男をとらえようとしたときです。真っ赤なシャツがパッと空中にもんどりうって、天井の横木からさがっているぶらんこにとびうつりました。そしてぶらんこは、みるみるツーッ、ツーッと前後にゆれはじめたのです。ぶらんこ台の上の三人の曲芸師は、もうどうすることもできません。骸骨の乗ったぶらんこは、ますます激しく揺れるばかりです。
見てください! ぶらんこは、もう大テントの天井に届くほどの勢いで揺れています。
しかしその時、ぶらんこを吊り下げている横木の丸太の上を、ひとりの男がヘビのように這い出してきたではありませんか。
空中サーカスの名人、吉十郎です。
彼は横木の上に身を横たえ、両手をぶらんこの縄にかけて、揺れるぶらんこを上へ引き上げようとしているのです。
その力で、ぶらんこは奇妙な揺れ方をしました。
このまま引き上げられたら、骸骨男はぶらんこから振り落とされて、五十メートル下の地面へ叩きつけられるほかありません。
しかし骸骨男もただ者ではありません。
それに気づくと、とっさにパッと身をひるがえして、ぶらんこから離れました。
真っ赤なシャツが、宙に踊り上がったのです。
下から見上げている道化師たちは、思わず「アッ!」と声を上げて、手に汗を握りました。
ぶらんこを離れた骸骨男は、そのまま真っ逆さまに地上へ落ちてくるように見えたからです。
落ちれば当然、命はありません。
「ケ、ケ、ケ、ケ、ケ、ケ……。」
あのお化け鳥のような笑い声が、天井から降ってきました。
でも、降ってきたのは声だけで、骸骨男の体は、ぶらんこから五メートルも離れた天井の横木へ、見事に飛び移っていたのです。
地面の道化師たちの口から、「ワアッ!」という叫び声が上がりました。
それから、高い天井の、丸太を組んだ足場の上で恐ろしい鬼ごっこが始まりました。
逃げるのは真っ赤なシャツの骸骨男、追っかけるのは三人の空中曲芸師。
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