そのうえ、皇帝さまがお食事を召し上がるところも見られるようにしてやる。皇帝さまが、今夜ナイチンゲールを連れてくるようにとおっしゃっているのだ」
それからみんなで、ナイチンゲールがいつも歌っているという森へ出かけました。宮中の役人たちも半分ほどがぞろぞろとついていきました。こうしてみんなが意気揚々と歩いていくと、一匹の雌牛が鳴き始めました。
「ああ、あれだ!」と小姓たちが言いました。
「やっと見つかったぞ。だが、あんなちっぽけな動物なのに、ずいぶん力強い声を出すんだなあ。だけど、あれなら前にも確かに聞いたことがあるぞ」
「いいえ、あの声は雌牛でございます」と台所の小娘が言いました。「その場所までは、まだまだかなりございます」
今度は沼の中でカエルが鳴きました。
「なるほど、素晴らしい! おお、聞こえる、聞こえる。まるで、お寺の小さな鐘が鳴っているようだの」と、宮中勤めの中国人の坊さんが言いました。
「いいえ、いいえ、あれはカエルでございます」と小娘は言いました。「ですが、もうじき聞こえるはずです」
やがて、ナイチンゲールが鳴き始めました。
「あれでございます」と小娘が言いました。「お聞きください! お聞きください! そら、そら、あそこにおりますわ」
こう言いながら、娘は上のほうの枝にとまっている、小さな灰色の鳥を指さしました。
「これは驚いたな」と、侍従は言いました。「あんなものだったなんて、思いもしなかった。ごく普通の、つまらない鳥と少しも変わらないじゃないか。きっと、これほど大勢の偉い人間がやってきたものだから、鳥のやつ、すっかり色を失ってしまったんだな」
「かわいいナイチンゲールさん!」と、台所の小娘は大きな声で呼びかけました。
「わたしたちの、お恵み深い皇帝さまが、あなたに歌を歌ってもらいたいとおっしゃっているのよ」
「この上ない幸せでございます」
ナイチンゲールはそう言うと、言葉にできないほど美しい声で歌い出しました。
「まるで、ガラスの鈴が鳴っているようではないか!」と侍従が言いました。
「あの小さなのどを見てごらん。なんとまあ、よく動くこと。わたしたちが今までこんな素晴らしい歌を聞いたことがなかったなんて、本当に不思議なくらいだ。これなら、宮中でもきっと大人気になるだろう」
「もう一度、皇帝さまに歌ってさしあげましょうか?」
ナイチンゲールは、皇帝もそこにいるものだと思ってそう言いました。
「これはこれは、素晴らしいナイチンゲール殿!」と侍従は言いました。
「今夜、あなたを宮中の宴会にお招きするのは、わしにとって大きな喜びです。宮中へ参りましたら、あなたの美しい声で、どうか皇帝陛下のお心をお慰め申し上げておくれ」
「わたしの歌は、この緑の森の中で聞いていただくのが一番でございます」とナイチンゲールは言いましたが、皇帝が望んでいると聞くと、喜んでついていくことにしました。
御殿の中は、きらびやかに飾り付けられました。瀬戸物でできている壁や床は、何千もの金のランプの光でキラキラと輝いていました。本当に鈴のような音を立てて鳴る、この上なく美しい花々がいくつも廊下に飾られました。そこを人々が走り回ったり、風が吹き込んだりすると、花がいっせいにリンリンと鳴り響き、人の話し声も聞こえないほどでした。
皇帝のいる大きな広間の中央には、金のとまり木が置かれました。そこにナイチンゲールがとまることになっていたのです。広間には宮中の役人たちが一人残らず集まり、台所の小娘も、扉の後ろに立っていることを許されました。なにしろ、今ではこの小娘も「宮中お料理人」という肩書きをいただいているのですから。
だれもかれもが一番立派な服を着て、みんなで小さな灰色の鳥をじっと見つめていました。そのとき、皇帝が鳥に向かってうなずくと、ナイチンゲールはそれはそれは美しい声で歌い始めました。
みるみるうちに皇帝の目には涙が浮かび、やがて頬を伝って流れ落ちました。するとナイチンゲールは、さらに美しい声で歌いました。それは人の心の奥底までしみとおるほどでした。
皇帝は心から喜び、自分の金のスリッパをナイチンゲールの首にかけてやるようにと言いました。ところがナイチンゲールはお礼を述べ、ご褒美はもう十分いただきましたと答えました。
「わたくしは、皇帝陛下のお目に涙が浮かびましたのをお見受けいたしました。それこそ、わたくしにとってはなににも勝る宝でございます。皇帝陛下の涙には不思議な力があるのです。本当に、ご褒美はそれで十分でございます」
そう言うと、また人の心をうっとりさせる、美しく甘い声で歌いました。
「まあ、なんてかわいらしいお世辞を言うのでしょう!」と、まわりにいた貴婦人たちが言いました。それからというもの、この婦人たちはだれかに話しかけられると、口の中に水を含んでのどをコロコロと鳴らしました。こうして、自分たちもナイチンゲールになったような気でいたのです。
いや、侍従や侍女たちまでもが満足した様子を見せました。けれど、これは大変なことなのです。なぜって、この人たちを満足させるなどということは、とてもとても難しいことだったのですから。
こういうわけで、ナイチンゲールは大成功をおさめました。ナイチンゲールは宮中にとどまることになり、自分の鳥かごも与えられました。そして、昼には二度、夜には一度、毎日散歩に出かける許しもいただきました。でも、散歩に行くときにも十二人の召使がお供についていき、おまけに召使たちは絹のリボンをナイチンゲールの足に結わえつけて、それをしっかりと持っているのです。これでは、散歩に出かけたところで、少しも楽しいはずがありません。
町中の人たちは、顔を合わせるたびに、この不思議な鳥の噂話をしていました。
二人の人が道で出会うと、決まって一人が「ナイチン……」と言い、もう一人が「……ゲール」と答えます。
そして二人は、ほっとため息をつくのでした。そうすることで、お互いの気持ちがよく分かり合えるのです。
それだけではありません。食料品屋の子供たちなど、十一人もの子供に「ナイチンゲール」という名前が付けられました。もっとも、名前は立派でも、歌声のいい子は一人もいませんでしたが。
ある日のこと、皇帝のもとに大きな包みが届きました。包みには「ナイチンゲール」と書かれています。
「また、この有名な鳥についての新しい本が届いたようだな」と皇帝は言いました。
けれども、それは本ではありませんでした。箱の中に入っていたのは、小さな置物だったのです。
見れば、生きている本物にそっくりな、実によくできたナイチンゲールでした。そのうえ、体中にはダイヤモンドやルビー、サファイアがちりばめられています。この作り物の鳥は、ねじを巻けば本物の鳥が歌う歌の一つを歌いました。そして、歌いながら尾を上下に振り動かすので、そのたびに金や銀がピカピカと輝きました。
首の周りには小さなリボンが下がっていて、そこにはこう書かれていたのです。
「日本のナイチンゲールの皇帝の鳥に比べると、中国の皇帝のナイチンゲールは見劣りします」
「これは素晴らしい!」と誰もが口をそろえました。
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