初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第19話

ニールスのふしぎな旅

」
でもニールスが泣いたのは、毎日心配しないで楽しく過ごせること、ワクワクする冒険、自由なこと、そして空高く旅をすること、これらが全部できなくなっちゃうって思ったからでした。その悲しさで、涙があふれてきたのです。
「ぼくはもう、人間なんかに戻りたくないよ!」と、ニールスは声を上げて泣きながら言いました。
「みんなと一緒に、ラプランドへ行きたいんだ!」
「いいかい、あの小人さんはね、とっても怒りっぽいんだよ。」と、アッカは答えました。
「だから、今あの子の言う通りにしないと、次にまたうまくお願いするのは、なかなか難しいだろうね。」
もともと、ニールスはちょっと変わった子でした。
これまで、一人として人間を好きになったことはありません。
お父さんもお母さんも、学校の先生も、学校のお友達も、近所の子供たちも、誰一人好きになれませんでした。
みんながニールスにさせようとすることは、お仕事でも遊びでも、何から何までうんざりするばかりでした。
だから、ニールスが心から「いいな」と思ったり、「会いたいな」と思ったりする人は、一人もいなかったのです。
少しだけ仲良くしていたのは、ガチョウ番のオーサっていう女の子と、その弟のマッツっていう子だけでした。
この二人は、ニールスと同じように、ガチョウのお世話をする係だったんです。
でも、この二人のことも、心から大好きだったわけではありませんでした。
「ぼくはもう、人間なんかに戻りたくない!」と、ニールスは泣きながら言いました。
「みんなについてラプランドへ行きたいんだ!だから、ぼく、一週間もおとなしくしてたんだよ。」
「ニールス君が、私たちと一緒に行きたいって言うなら、ダメだとは言わないわ。」と、アッカは言いました。
「だけど、その前に、本当に家へ帰りたくないのかどうか、よーく考えてごらん。後で、『やっぱり帰ればよかった』って後悔するかもしれないよ。」
「いや、後悔するなんてことは、絶対にないよ!」と、ニールスはきっぱりと言いました。
「みんなと一緒にいることくらい楽しいことなんて、今までなかったんだもん!」
「じゃあ、好きなようにしなさい。」と、アッカは言いました。
「ありがとう、ありがとう!」と、ニールスは大きな声で叫びました。
そして、心から幸せを感じて、嬉しさのあまり涙を流してしまいました。
――まるで、さっき悲しくて泣いたかのように。
4 グリムミンゲ城

黒ネズミと灰色ネズミ

スコーネ地方の南東のほうで、海からそんなに遠くない場所に、グリムミンゲっていう古ーいお城があります。
とっても頑丈な石でできた大きなお城で、周りの広い平野の、4〜5マイル(約6〜8キロメートル)も離れたところからでも、よく見えるんです。
高さは4階までしかないけれど、ものすごく大きいから、同じ広い土地にある普通の農家と比べたら、まるで子供のおもちゃの家みたいに見えるくらいです。
この大きな石の建物は、壁も天井もとーっても厚いので、中に入ると、ただ厚い壁だけがある、って感じになっちゃいます。
階段も廊下もせまくて、お部屋はほんの少ししかありません。
しかも、壁はできるだけ壊れないように頑丈に作ってあるから、窓も上のほうに少しだけしかついていません。
下のほうには、小さな明かり取りの穴があるだけで、窓は一つもありませんでした。
昔、戦争があった時代には、人々はこういう大きくて丈夫なお城に、喜んで閉じこもっていたものなんです。
ちょうど、今の私たちが寒い冬に、あったかい毛皮にくるまっているのと同じようなものですね。
けれども、やがて楽しい平和な時代がやってくると、こんな古くて、薄暗くて、ひえひえする石のお部屋なんかには、とても住んでいられなくなりました。
それで人々は、もうずっと前に、この大きなグリムミンゲ城に見切りをつけて、空気と光がいっぱい入ってくる、気持ちのいいお家に引っ越していってしまったのです。だから、ニールス・ホルゲルッソンがガンの仲間たちとやってきたときも、グリムミンゲ城には人間はだーれもいませんでした。
でもね、ぜんぜん誰も住んでいなかったわけじゃないんだ。
夏になると、コウノトリのおしどり夫婦が必ずやってきて、屋根の上に大きなお家(巣)を作って住んでいたよ。
それから、屋根裏部屋にはフクロウが2羽住んでいたし、廊下にはコウモリがぶーらぶらぶら下がっていたんだ。
台所のかまどには、年老いたネコが1匹、ひっそりと暮らしていたよ。
そして地下室には、何百匹もの黒ネズミたちが、わらわらと住みついていたんだ。
ネズミっていう動物はね、ふつう、ほかの動物たちの間では、あまり評判がよくないものなんだ。
だけど、このグリムミンゲ城の黒ネズミたちだけは特別で、いつもみんなから尊敬されていたんだよ。
どうしてかっていうと、敵と戦うときにはとっても勇ましかったし、このネズミたちの仲間(しゅぞく)に降りかかったたくさんの大変なことにも、最後までよくがんばりぬいたからなんだ。
つまりね、この黒ネズミたちは、昔はすごくたくさんの仲間がいて、力も強かったネズミたちだったんだけど、今ではもう、ほとんどいなくなってしまいそうだったんだ。
実際、ずーっと昔から、黒ネズミたちはスコーネ地方だけじゃなくて、国じゅうを自分たちのものにしていたんだ。
本当に、どこの地下室にも、屋根裏にも、教会にも、お城にも、お酒を作る場所にも、小麦粉を作る工場にも、そのほか人間が住んでいるところなら、ありとあらゆるところに住んでいたんだよ。
それが今では、すっかり追い出されてしまって、もう全部いなくなってしまう寸前なんだ。
人里離れた、ほんの2、3ヶ所でしか、その姿を見かけなくなっていたんだ。
その中でも、このグリムミンゲ城ほどたくさんの黒ネズミがいる場所は、ほかにどこにもなかったんだ。
ある動物の仲間が、いなくなってしまうのは、たいてい人間たちにやっつけられてしまうからだよね。
だけど、黒ネズミの場合はそうじゃなかったんだ。
もちろん、人間も黒ネズミと戦ったけれど、そこまでひどくやっつけることはできなかったんだ。
つまりね、黒ネズミたちを追い出して、その場所を奪い取ったのは、同じネズミの仲間の、灰色ネズミたちだったんだ。
灰色ネズミっていうのはね、黒ネズミみたいに、ずーっと昔からこの国に住んでいたわけじゃないんだ。
今から100年くらい前に、リビア人の船からマルメーっていう港にやってきた、かわいそうな引っ越しネズミの夫婦が、そのご先祖さまなんだ。
この港に着いた2匹の家なしネズミは、橋の下の柱の間を泳ぎ回りながら、水の中に捨てられたゴミを食べて、お腹の空っぽなのをしのいでいたんだ。
その頃は、もちろん、黒ネズミたちの縄張り(なわばり)だった町の中へ入っていく勇気なんてなかったよ。
でもね、灰色ネズミたちの数が増えてくると、だんだん大胆になって、町の真ん中まで入ってくるようになったんだ。
最初は、黒ネズミたちが捨てた古い空き家にお引っ越ししたんだ。
そして、ドブやゴミ捨て場から食べ物を見つけてきては、黒ネズミたちがぜんぜん見向きもしなかった、汚い残り物で我慢していたんだ。

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