初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第29話

ニールスのふしぎな旅

ひとりの男の子が、小リスぐらいしかない小人にされてしまいましてね。それからはガチョウに乗って、ラプランドへ旅をしに行ったという話ですよ」

「そりゃ、珍しいニュースですね。ほんとうに珍しいニュースだ。その子はもう人間にはなれないでしょう? 森フクロウさん。ねえ、もう人間にはなれないでしょう?」

「これはほんとうは秘密なんですがね、沼フクロウさん。でも、あなたには特別にお話ししますよ。小人が言うのには、もしその子がガチョウの世話をよくしてやって、ガチョウが無事に帰れれば――」

「で、それから? 森フクロウさん、そして、それからどうなるんです?」

「あたしといっしょに教会の塔までいらっしゃいな。そしたら、すっかりお話ししてあげますよ。ここだと、下の道でだれか聞いているかもしれませんもの」

それから、二羽のフクロウは飛んでいきました。でも、ニールスはうれしくて、帽子を空に放り投げました。

「ガチョウが無事に家に帰れるように、ぼくがよく世話をしてやりさえすれば、また人間になれるんだ。ばんざい! ばんざい! また人間になれるんだ!」

ニールスは「ばんざい! ばんざい!」と叫びましたが、ふしぎなことに家の中の人たちには聞こえませんでした。ニールスはできるだけ急いで、濡れた沼地にいるガンの群れのところへ戻っていきました。

7 三つの段々

次の日に、ガンの群れはスモーランドのアルブー地方を通って、北へ旅行しようと考えました。そこでその前に、仲間のユクシとカクシをやって、その地方の様子を見に行かせました。ふたりは帰ってくると、水はすっかり凍っていて、地面も見渡すかぎり雪でおおわれていると知らせました。

「それじゃ、ここにいるほうがいい」と、ガンたちは言いました。「水もたべものもないところになんか、飛んでいけやしないよ」

「もしここに居座るなら、あと一ヶ月は待たなきゃならないだろうね」と、アッカは言いました。「だから、ブレーキンゲを通って東へ進むほうがいいと思うよ。そうして、メーレ地方を通ってスモーランドへ行けるかどうか、見きわめるのが賢明だろう。メーレ地方は海岸に近いから、春の訪れも早いはずさ」

こうして、ニールスはあくる日、ブレーキンゲの上空を飛んでいました。あたりはすっかり明るくなっていて、ニールスの気持ちも晴れ晴れとしていました。昨夜の悩みなんて、まるで忘れてしまったかのようです。もちろん今は、ラプランドへの旅を諦めようとも、こののびのびとした野外生活をやめようとも思っていませんでした。

ブレーキンゲのあたりには、濃い霧が立ち込めていました。そのせいで、下の様子は少しもわかりません。
「ここは良い土地なのだろうか? それとも、良くない土地なのだろうか?」とニールスは考えました。そして、学校で習ったことを一生懸命思い出そうとしました。でも、ろくに勉強をしてこなかったのですから、思い出せるはずもありません。

そのとき、急に、目の前に学校の教室がありありと浮かび上がってきました。ほかの生徒たちは小さな椅子に腰かけて、みんな手を挙げています。先生は教壇に座って、不満そうな顔をしています。ニールスは地図の前に立たされ、ブレーキンゲについて先生から質問されているのです。でも、ひとことも答えることができません。先生の顔はだんだん曇ってきました。先生はほかの教科よりも、地理のことを特に厳しく言うのです。そのとき、先生は教壇から降りてきて、ニールスの手から指示棒を取り上げると、ニールスを席へ帰しました。

「こいつはまずいぞ」と、ニールスは心の中で思いました。

しかし、先生は窓のそばへ歩み寄ると、しばらく外を眺めていました。そして、機嫌のいいとき特有の癖で、そっと口笛を吹きはじめました。それからまた教壇にもどると、ブレーキンゲについてみんなに少し話しておきたいことがあると言いました。そして、先生は話しはじめました。それはとても面白い話だったので、このときばかりはニールスも熱心に聞いていました。だから、先生が言った一言、一言まで今でも思い出せるのです。

「スモーランドは、屋根にエゾマツの生えている高い家のようなものです。この家の前には広い階段があって、それには三つの段々がついています。この階段にあたるところをブレーキンゲと呼んでいるのです。この階段はたいそうよくできています。それはスモーランド家の前面に沿って、八マイルほどのびています。そして、この階段を通ってバルト海まで行こうとする人は、四マイルばかり歩かなければなりません。この階段がつくられたのは、ずいぶん昔のことです。そして、スモーランドとバルト海とのあいだに便利な道をひらくため、この階段が平らに、なめらかにされてからも長い年月がたっているのです。階段はこんなに古いのですから、今ではそれが新しかったときのように見えなくても、少しも不思議ではありません。わたしは、そのころの人たちが、この階段のことにどのくらい気を配っていたかは知りませんが、とにかくこれほど大きいと、すべてをきれいにしておくことはできなかったのです。ですから、二年ばかりたつと、そこにはコケ類が生えてきました。秋には枯れ葉や枯れ草が落ちかかり、春には崩れ落ちた石や砂利がたまりました。そうして、こういうものがみんなそこにそのままになっていましたから、しまいには階段の上に土がたくさんたまってしまったのです。そして、草ばかりでなく、やがては大きなやぶや木々までも根を下ろすようになりました。けれども、それと同時に、三つの段々のあいだには大きなちがいができてしまいました。スモーランド家のすぐ近くにある、いちばん上の段は、大部分がやせた土地で、小石が一面に見えています。そこに育つ木といえば、わずかにシラカバやカンバやエゾマツぐらいのものです。こういう木は、高い土地の寒さにも耐え、わずかな土壌でも我慢できるのです。そこがどんなに貧弱でやせた土地であるかは、森のあいだに切りひらかれている畑がごく少なく、そこに立っている家もひどくちっぽけで、教会と教会とのあいだもずいぶん離れているのを見れば、よくわかります。けれど、真ん中の段になりますと、さっきよりは土地もよくなって、寒さもそれほどではなくなります。それは、一番上の段よりも、高くて質のいい木々が生えているところからも、すぐにわかるのです」そこには、カエデや、カシワや、ボダイジュや、シダレカバや、ハシバミなどが生えています。
しかし、針葉樹はありません。
さらに畑地がたくさんあるのと、大きな美しい家々がたっているのが目につきます。
それから、ここには教会もたくさんありますし、そのまわりには大きな村もあります。
どこから見ても、いちばん上の段よりは、美しくていいようです。
でも、なんといっても、いちばんいいのは、いちばん下の段です。
そこは、ゆたかなよい土地にめぐまれていて、海につづいているところなどでは、スモーランドほど寒くはありません。
ここにはブナの木や、クリの木や、クルミの木が生えています。
しかも、教会の屋根よりも高くおい茂っているのです。
それから、たいへん大きな穀物畑も見られます。

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