初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第69話

ニールスのふしぎな旅

鳥にしたって、人間とおなじように、家のことや子どものことが、いつもいつも気になるにちがいありません。
たしかに、人間と鳥のあいだには、そんなに大きなちがいはないのです。
そのとき、おかあさんは、ふと、湖を干す話を思いだしました。
これはもうほとんど、きまったもおなじですが、そうなったら、いく千という白鳥や、カモや、モグリドリが、このトーケルン湖の住みかを失うことになるのです!
「鳥にとっては、この上もなく悲しいことね」と、おかあさんは思いました。
「そうなったら、みんな、いったいどこへいって、ヒナを育てるのかしら?」
おかあさんは立ちどまって、いろいろと考えてみました。
「たしかに、湖を干して、畑や牧場にするのは、利益のある、いい計画にちがいないわ。でも、トーケルン湖でない、ほかの湖だっていいわけだわ。こんなにもたくさんの鳥が住んでいない湖にすればいいんだわ」
「あしたは、湖を干すかどうかが、いよいよきまるんだったわ」と、おかあさんは考えつづけました。
それが、そのまえの日のきょう、かわいい、わが子がいなくなったのには、なにかわけがあるのではないだろうか、と思ってみました。
神さまが、ああいうひどい行いをやめさせるために、きょうのうちに、こんな悲しみをくだされて、あたしの心を動かそうとなさっているのではないかしら?
おかあさんは、いそいで家にもどって、オーラのおとうさんに、このことを話しました。
湖のこと、鳥のこと、それから、オーラがいなくなったのは、つまりは、神さまが、じぶんたちにくだされた罰にちがいないと思われること、などを話しました。
すると、おとうさんも同じ考えでした。
このふたりは、すでに大きな土地をもっていましたが、もし湖をうまく干すことができれば、それこそ、その土地が、倍ちかくにもなるのです。そんなわけで、ふたりは、ほかの地主たちよりも、この計画にたいしては、ずっと熱心でした。
ほかの人たちは、費用がかかりすぎることや、またこんども、まえのときのように、うまくいかないのではないか、と心配していました。
それをオーラのおとうさんが、説きつけて、この計画をたてることになったのです。
それは、おとうさんもよく知っていました。
オーラのおとうさんとしては、じぶんが親からもらった土地を、子どもには、倍にして残してやりたいと思っていたからです。
そこで、おとうさんは弁舌のかぎりをつくして、みんなを説きつけたわけでした。
それが、おりもおり、いよいよ、その相談がきまろうというまえの日になって、わが子の命がトーケルン湖にうばわれたということは、きっとなにか神さまの思し召しがあるのにちがいありません。
ですから、おかあさんがいろいろ言うまでもなく、おとうさんもすぐに、
「うん、湖を干すのは、神さまの御心に反するのかもしれない。あした、このことをみんなに話してみよう。おそらく、湖はもとのままにしておくことになるだろうよ」と、言いました。
ふたりがこんな話をしているとき、セーサルは炉の前にねそべっていました。
そして、頭をおこして、じっと耳をすまして聞いていました。
やがて、事のなりゆきがわかりますと、おかあさんのところへあるいていって、すそをくわえて、戸口に引っぱっていきました。
「まあ、セーサル!」と、おかあさんは言いながら、すそをふりはなそうとしました。
そして、「おまえ、オーラがどこにいるのか、知ってるのかい?」と、ききました。
すると、セーサルはうれしそうに、ワン、ワン吠えては、戸にからだをぶっつけました。
おかあさんが戸をあけますと、セーサルはトーケルン湖のほうにむかって駆けだしました。おかあさんも、セーサルがきっと、オーラのいどころを知っているにちがいないと思いましたので、そのあとについて走っていきました。
そして、岸まできますと、たちまち湖のむこうから、子どもの泣き声が聞こえてきました。
ペール・オーラは、オヤユビくんや鳥たちといっしょに、ほんとに楽しい一日をすごしました。
けれども、いまは、おなかがすいてきたのと、暗くなってきたのがこわくて、泣きだしたのでした。
でも、おとうさんとおかあさんとセーサルが、むかえにきてくれたのを見て、オーラは大よろこびしました。
トーケルン湖の鳥たちは、うれしそうに羽ばたきながら、美しいお月さまの光をあびて、みんなが家へ帰っていくのを見送っていました。

20 予言

八月二十二日 金曜日
ある晩、ニールスがトーケルン湖の中の小島で眠っていますと、かいの音がするので、びっくりして目をさましました。
けれども、目をあけたとたんに、まぶしい光が目にさしこんで思わずパチパチとやりました。
湖の上で、こんなにキラキラ光るのは、いったいなんだろうと考えてみましたが、さいしょのうちは、さっぱり見当がつきません。
でも、だんだん目がなれてきますと、一そうの小舟がアシのきわにいるのが見えました。
そして、その船尾(せんび)にとりつけた鉄の棒の上で、大きなたいまつがさかんに燃えているのでした。
赤いほのおは、暗い夜の湖に、あかあかとうつっていました。
そして、そのあかるい光が、魚をよび集めたのにちがいありません。
ほのおの下の水の中には、たくさんの魚が集まって、ひっきりなしに泳ぎまわっていました。
小舟には、年とったふたりの男が乗っていました。
ひとりは、すわって、かいをにぎっていました。
もうひとりは、かかりのあるみじかいもりを持って、船尾に立っていました。
こいでいるほうの男は、見たところ、貧しい漁師のようでした。
小柄で、やせこけて、いかにも雨風に打たれたという顔をしていました。
そして、うすっぺらな、すりきれた上着を着ていました。
どんな天気にでも、外にいるのになれているらしく、寒いのなどは、平気のように見えました。
もうひとりのほうは、太っていて、身なりもりっぱで、何不足ないお百姓さんのようでした。
小舟が、ニールスのいる小島のむこうがわにきたとき、お百姓さんが、「とめろ!」と、言いました。
と、同時に、はげしく水の中にもりを突っこみました。
もりを引きあげたときには、みごとなウナギが突きささっていました。
「こいつを見てくれ!」と、お百姓さんは、ウナギをもりからはずしながら、言いました。
「いいウナギじゃないか。もうこのくらいでたくさんだ。ぼつぼつ帰ろうか。」

けれども、もうひとりの男は、かいも動かさないで、あたりをながめていました。
そして、「こんやは、すごくいいなあ!」と、言いました。
じっさい、そのとおりでした。
湖の上は風一つなく、水の上は鏡のように、なめらかで、ただ小舟の通ったあとだけが、たいまつの光に照らされて、黄金の道のように、キラキラと光っています。
すみわたった、あい色の空には、お星さまがいちめんにきらめいていました。
岸べは、アシの小島にかくされて見えませんが、西のほうには、オムベルイ山が高く、黒ぐろとそびえていて、いつもよりもずっと大きく見えました。
そして、まるい大空の一角を、三角形にくぎっていました。
お百姓さんは、まぶしい光から顔をそむけながら、あたりを見まわしました。
「なるほど、ここはきれいだなあ。

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