ガチョウが殺されれば、自分が人間にもどれるなんてことは、いまはすっかり忘れていました。ただ、長い間いっしょに苦労してきたガチョウを救いたい気持ちでいっぱいだったのです。
「おかあさん、おかあさん、ガチョウを殺しちゃいけない!」ニールスは気ちがいのようにどなりながら、部屋の中にとびこみました。
「まあ、おまえはニールス! ニールスじゃないの! なんて大きく、なんて立派になったんでしょう!」と、さけんだおかあさんの声は、うれしさにふるえていました。
そうです、この瞬間、小人の魔法がとけて、ニールスは立派な若者になっていたのです。
ガンの群れとの別れ
あくる朝早く、ニールスはガンたちと約束しておいた海岸に行きました。きょうはまたすばらしいお天気で、渡り鳥の群れがひっきりなしに飛んでいきます。
やがて、アッカたちの群れが飛んできました。みんなはニールスに気がつかないのか、そのまま通りすぎようとします。ニールスはあわてて呼びとめようとしました。でも、どうしたことか、きょうは舌がこわばって、ちっとも動きません。アッカが空で呼んでいるのが聞こえても、何を言っているのかさっぱりわかりません。
ニールスはがまんができなくなって、「ここだよォ! ここだよォ!」と、帽子を振りながらさけびました。ところが、それはかえってガンの群れをこわがらせてしまったのでしょう。みんなはさっと高く舞いあがって、海のかなたへと飛んでいってしまいました。
けれども、すぐまたガンたちの羽ばたきが聞こえてきました。アッカも、このままオヤユビくんと別れるのがつらかったのです。みんなはニールスのまわりに舞いおりてきて、くちばしでニールスのからだをなでまわしました。
それから、ニールスは長い間のすばらしい旅のお礼を言おうと思って、ガンたちに話しかけました。すると、ガンたちは急に静かになりました。「ああ、オヤユビくんはもう人間になってしまったんだ! だから、オヤユビくんにはこっちの言うことがわからないし、わたしたちにもオヤユビくんの言うことがわからないんだ!」とでも言いたげな様子で、ニールスのそばを離れていきました。
やがて、楽しそうに鳴き交わすほかのガンの群れにまじって、アッカたちの群れだけは、さびしそうな気配を漂わせながら空の彼方へ飛んでいきました。
ニールスは、いつまでも、いつまでもその姿が見えなくなるまで見送っていました。
そして、もう一度だけ、ガンたちと一緒に空を飛びまわることができるあの小人の姿に戻りたいような、そんな切ない気持ちに包まれるのでした。
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