「お父様の許へ手書きの報告書を送るから、そのつもりでいなさい。
彼が壊したガラスのせいで、部屋が一週間は人が使えなくなってしまう。
たった一枚壊せば、十分に外へ出られたじゃありませんか。
わかっていてそんな乱暴をするとは何事だ。
それから、なぜストーブを叩き壊したんだ」
ぼくは黙っていた。
叱られるときは、ぼくはいつだって黙っているものだ。
すると、見かねた奥さんが口を挟んできた。
「あなた、報告書と一緒に、いっそもう今日限りで追い出してしまう方がよろしいんじゃありませんか。
こんなことでは、月謝を五人分もらっても割に合いませんよ。
この上が一体何ををしでかすか、分かったもんじゃありません。
明日にも金さんに連れて帰らせればいいでしょう。
ねえ、あなた、そうしてくださいよ。
この子はもうどうしようもないんですから」
校長は普段は非常に威張っているくせに、「ねえあなた」と言われるとまったく頭が上がらない。
「ねえあなた」の言うことなら、大抵のことは何でも聞いてしまうのだ。
もし汽車が走る線路の上に行ってそこで寝ていなさいと言われれば、本当に素直に寝ているかもしれないほどだ。
そんなわけで、大内さんが一生懸命にとりなして謝ってくれたけれども、結局ぼくは学校を追い出されることになってしまった。
ぼくは明日の一番列車で、用務員の金さんに付き添われて家に送り返されるのだ。
家に帰ったら、これからは本当に大人しくしていよう。
まったく、どうやら今回の件は全面的にぼくが悪かったようだ。
またどこかへ奉公に出されたらたまったもんじゃないから、今度こそ大いに大人しくしていようと思う。お島に聞いたら、あれは脅しだと言っていたが、お父さんはだいぶ怒っているようだ。
ぼくみたいな人間は、おとなしくじっと座っていればいいのだ。
ちょっと体を動かして何かすると、それがすぐにイタズラになってしまう。
本当に厄介な生まれつきだ。
ぼくがいない間に、教会の牧師さんが変わった。
今度の牧師さんは若い。
二十七歳だそうだ。
眼鏡をかけていて、顔色が青白く、ひょろりとした男で、甘いお菓子と若い女の子が好きらしい。
今日は夕飯に招かれてやって来た。
花子姉さんと話をしながら、ぼくの頭を撫でてきた。
失敬なことをするものだ。
赤ん坊じゃあるまいし。
おそらく花姉さんのことが目当てなのだろうけれど、花姉さんは清水さんのほかにこの世に男はいないと信じ切っている。
今日もぼくは清水さんのところへ手紙を持っていってやった。
このお使い賃が十銭。
それから清水さんからの返事を持って帰ってきてやった。
こっちは二十銭だった代わりに、誰にも手紙のことは話してはいけないときつく口止めされた。
花姉さんは庭でぼくを待っていた。
生憎なことに歌さんがそばにいる。
ぼくがポケットの手紙をしっかり握りしめたまま近づいていくと、花姉さんが、
「おや、太郎さん、お前どこへ行ってきたの」
と言った。
どこへ行ったもないものだ。
「ああ寒くなってきた。
家に入りましょうかね」
と、また花姉さんが言った。
玄関のところで花姉さんは歌さんを先に上がらせておいて、ぼくのポケットから手取り早く手紙を抜き取った。
その手際の良さには、ぼくもさすがにびっくりしたくらいだ。
そして、「あら、歌さんの肩に松葉がついてるわよ」と言いながら、二人は二階へ上がっていった。
ありがたいとも何とも言いはしない。
昨夜は退屈だったので、ひとつお島を驚かせてやるつもりで、お花姉さんの外套を取りに行った。
部屋にいるかと思ってそっと入ったが、いなかった。
さっそく頭からすっぽり被ってみると、ちょうど手の当たるところにポケットがあったので突っ込んでみたら手紙があった。
清水さんからの手紙だ。
こう書いてある。
「それでは今晩九時と決めましょう。
庭の木戸でお待ちください。
九時ですよ。
間違えないようにね。
馬車はこちらから用意していきます」
ぼくは実際にすごく驚いた。
お花姉さんは清水さんと駆け落ちするつもりなのだ。
九時といえばもうすぐではないか。
ぼくは突然駆け下りて外へ出た。
もしかするともう逃げてしまったかもしれない。
ぼくが隣の家の天水桶の陰にうずくまっていると、馬車が一台そろそろとやってきた。
これだなと思っていると、今度は姉さんが裏の方から出てきた。
外套も着ていなければ、鞄も持っていない。
家にいる時の普段着の格好をしている。
ぼくが姉さんのほうに気を取られている間に、清水さんは馬車から降りてきた。
二人は一言も言葉を交わさない。
花姉さんが先に乗って、清水さんはその後から乗り込んだようだった。
そしてもう大丈夫だろうと思ってぼくが立ち上がると、馬車は動き出した。
ぼくはすぐに家へ引き返した。
ちょうどお島がぼくを探しているところだったので、ぼくはすぐに布団の中に放り込まれた。
そして、お花姉さんはもうだいぶ遠くへ行っただろうか、彼の馬は足が速そうだったななどと考えながら眠りについた。
ところが今朝起きて朝ご飯を食べに下りていくと、お花姉さんがすまし顔でいつもの席に座っていたのには本当にびっくりした。
すると逃げたのは夢だったのかしらと思って、ポケットを探ってみたら、昨夜取った手紙が手に触れた。
この頃はおとなしくしているので少しも叱られないが、しかし毎日退屈で困る。
お父さんも可愛がってくれる。
昨日は松旭斎天一という奇術師の手品を見物に連れていってくれた。
今夜は竹子さんと女学生が二人遊びにやって来た。
歌さんの学校の友達だそうだ。
ぼくはみんなに手品の真似をして見せようと思って、台所から卵を十個ほど持ってきた。
竹子さんと一緒に来た男が一人いる。
洋行帰りのハイカラで、牛乳配達のようにきれいに髪を分けている。
頭のセットも気に入ったが、この男の帽子も気に入った。
山高の低いやつで、最近流行りの形だ。
手品師もちょうどこんな帽子を使っていたと覚えている。
それでぼくは彼の帽子を脱がせて、その中に卵を一つ放り込んだ。
そして客間の隅のほうへ小さな机を持ち出して、その上にいろいろと道具を並べた。
これでフロックコートを着ていれば立派なマジシャンである。
「皆様――諸君、これから面白い手品をお見せします。
入場料は一人十銭です」
みんなは笑った。
ハイカラな男が立ち上がってぼくのほうへ歩いてきた。
ぼくは帽子に入れたのが見つかったのかと心配したが、そうではなかった。
にこにこ笑いながら財布を出して、ぼくになんと五十銭銀貨を一枚くれた。
そして、
「坊ちゃん、今日は初日だから割引があって、これで六人分ですよ」
と笑いながら自分の席に戻っていった。
お歌さんもやはり笑っている。
ぼくはお歌さんが止めるのではないかと最初から心配していたのだ。
お歌さんが止めてくれていあたら、あんなことにはならなかっただろうに。
「諸君、最初にご覧に入れますのは、ハンカチーフの手品でございます。
どなたでもよろしいですから、ハンカチを一つ拝借願います」
と、ぼくは天一の弟子のとおりに真似をした。するとハイカラな男は、絹のハンカチを貸してくれた。
「もう一つお願いがございます。
初級翻訳・いたずら小僧日記 第8話
いたずら小僧日記
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