これは見事に一杯食わされたと気づいたら、お歌さんは「エイプリルフール、かかったかかった」と笑った。
お春さんも笑った。
お島は初めから笑っていた。
畜生め。
ぼくは学校へ行くつもりで家を出たが、あまりにしゃくに障るので、郵便局へ行って電報を打ってやった。
「ハルコビヨウキ、キテクレ」
森川さんは馬車で駆けつけるだろう。
もっともお春さんは元気でも一日置きには大抵やって来るんだけどさ。
それからぼくは花屋へ行った。
この花屋はほんの先ほど引っ越してきたばかりだから、当然ぼくの顔を知らない。
ぼくは、この間井上さんが「遊びに来たまえ」と言ってくれた名刺を出して、上等の花を五円ばかりの束にして、お春さんのところへ届けてくれと注文した。
家へ行く道はちゃんと教えたから、間違えるはずっこない。
学校の方へブラブラ歩いて行ったら、岡本さんの清野さんに会った。
おそらく女学校へ行くのだろう。
まだ少し時間があるから、一つからかってやるつもりで後ろをついて行ったが、どうやってだましていいか、ちょっと見当がつかない。
けれども、一旦思い立ったことを途中でやめると立派な人間になれないそうだから、ぼくはなおもついて行った。
するとそのうちに、清野さんがレースのハンカチを落とした。
ぼくはさっそく拾い上げて声をかけた。「清野さん、ハンカチが落ちましたよ」
「今日は四月の一日(ばか)ですよ」
と返事をしただけで、清野さんは振り返りもしない。
「本当ですよ。清野さん、ご覧なさい」
今度は返事もしないでズンズン歩いていく。
「清野さん、清野さん」
「学校に遅れますよ」
と清野さんはとうとう走っていってしまった。
ぼくは仕方がないからハンカチをもらっておいた。
もう学校には遅刻するだろうし、遅刻して小言を言われるのもなんだか恥ずかしいから、今日は学校を休むことにして、ぼくは田んぼの方へ遊びに行った。
田んぼの方が学校よりもずっと景色がいい。
ぼくは草の上に座ってお弁当を開けた。
今日は卵焼きかと思ったらパンだった。
道理で少し軽いと思った。
それではバターか、ジャムかと思ってパンを割ってみたら、中にはノコギリくずが入っていた。
ぼくはお島をぶんなぐってやるつもりで、すぐに家へ帰った。
みんなに見つかると面倒だから、ぼくは自分の部屋へと駆け上がった。
三時までは戸棚の中にでも隠れようかと考えていたら、お島が入ってきた。
ぼくはとっさに組みついた。
女性と喧嘩する時は、髪を引っ張るに限る。
ぼくはとうとうお島を転ばせて、謝らせた。
そして内緒でビスケットを持ってこさせ、さらに三時までぼくが帰ってきたことを黙っているように約束させた。
もしぼくがノコギリくずなんか食べて病気になったらどうするつもりなんだろう。
ないしょのイタズラにもほどがある。
お春さんもお歌さんもぼくとは口をきいてくれない。
今日はお歌さんは自分で郵便を出しに行った。
それ見たことか、すぐにこうやって自分でやるのは不便じゃないか。
もうお前のような者は弟とは思わないなんて言いやがった。
ぼくだってお歌さんなんかお姉さんと思ってやるものか。
森川さんとお父さんがこんな話をしていた。
「あれは一種の病気ですよ。何かイタズラをしてみたい病気なんです」
「いくら医者でもそういう病気はちょっと手に余りますな」
いくら医者でもなんて、聞いて呆れる。
気取った鼻血たれめ。
「催眠術ではどうかなりませんかね。ずいぶん色々な癖が直るそうですが」
「そうですね、かかれば幾分かは効くでしょうが、かかりませんな。まだ人の注意を集中させる力がありませんからね」
生意気なことを言う。
「まあ足でも切って外へ出さないようにするのが一番近道でしょうよ。ハッハハハハ」
お春さんもそばにいて笑っているようだった。
お父さんとお母さんがお花さんのところへお客さんに出かける。
ぼくとお春さんとお歌さんとお島と、それから使用人たちでお留守番をするのである。
留守中はことにおとなしくするようにとお母さんが頼んだから、ぼくはちゃんと学校に通い、お稽古が済んだら釣竿のようにまっすぐに家へ帰り、お姉さんたちに面倒をかけないという約束をした。
もしこれから一週間、特別なイタズラをしないなら、お父さんはぼくにお四十円の小馬を買ってくれるはずだ。
自転車を十台もらうよりも、その小馬一匹がほしい。
四十円なんて安いものだと言っていたから、ぼくは毎晩その馬の夢を見る。
昼間でもときどき人の顔が馬の顔のように長く見えるくらいだ。
一週間くらい少し我慢すればおとなしくできるなんて、わけはないとお島が言った。
けれどもお島は女だし、男の子だった経験がないから、それが簡単か難しいかなんてわかるわけがない。
あんなやつの言うことなんてあてになるものか。
しかしとにかくおとなしくしよう。
首尾よくいけばあの馬が手に入るのだから、嬉しいなあ。
そしたら馬に乗って学校に通おう。
そうすれば決して学校を休まない。
お花さんのところへも馬に乗って遊びに行こう。
明日からは日記も毎日ていねいに書こう。
お父さんとお母さんは今朝出発した。
ぼくは今日一日、かなりおとなしく過ごした。
お母さんの鏡を壊してしまったが、これは本当の過失である。
ぼくとおおむぎ(忠公)が部屋の中でボール遊びをして遊んだ。
ボールがよく跳ねないから、お春さんのゴム靴を少し削ってボールにくっつけたんだ。
すると馬鹿みたいによく跳ねて、つい鏡にぶつかってしまったんだ。
それがまた跳ね返って今度は香水の瓶を倒してしまった。
床の間の天井にネズミが巣を作っている。
お母さんはこれをすごく気にしていた。
ぼくは留守の間に退治してやろうと思って、天井へ登った。
天井へは浴室の梁(はり)を這っていけば簡単に上がれる。
いつか大工さんが来たときに見ておいたんだ。
ネズミの巣は取ったが、ぼくは足を滑らせて床の間へ落ちてしまった。
けがは特になかったけれど、お父さんの大事な盆栽を折ってしまった。
これは縁日に行って買ってきて直せばいいから構わない。
少し腰を痛めたから、そのあとは何もしなかった。
最初の日はまずまず大成功だろう。
朝は馬喰(ばくろう)のところへ寄って、あの馬を大事にするように頼んだ。
ちょっと乗ってみなさいと言うから、ぼくは鞄を投げ出してあっちこっちと乗り回した。
途中で先生に会ってしまったのには困った。
それから馬喰の子どもと牛ごっこをして遊んだ。
あの子が牛になって、ぼくが牛飼いになった。
もし馬喰が知らなかったら、あの子らかわいそうに首が締まって死んでしまったかもしれない。
けれどもぼくのせいじゃない。
向こうが無闇に引っ張るから悪いんだ。ぼくはただロープの端をしっかりとにぎっていただけだ。
もう学校へ行ったらいいだろうと言われたので、ぼくは学校へ行った。
たった三時間遅れただけだ。
三時に家へ帰ったが、家で遊んでまた何か壊すと悪いから、ぼくは釣りにでかけた。
いつかうまく水車を動かせなかった水車のそばに釣り糸をたらしたが、ざっこが二匹釣れただけだった。
退屈だからぼくは持ってきていたパンやビスケットやワッフルを食べていた。
初級翻訳・いたずら小僧日記 第16話
いたずら小僧日記
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