初級翻訳・いたずら小僧日記 第19話

いたずら小僧日記

「人間は神様じゃないんだから、失敗をしないわけにはいきませんよ」と、あの牧師さまだって言っているじゃないか。
例えば、お父さんの杖を折ってしまったのは失敗だった。
でも、その失敗を直すために、コウモリ傘の柄を切っただけなんだ。
もっともうまくつなぎ合わせることはできなかったけれど。

学校の帰りがけに、また森川さんのところへ寄ってみた。
午後はたいてい留守に違いないと思って行ってみたら、案の定、誰もいなくて留守だった。
どうせ書生くらいはいるだろうと思っていたのに、この奴め、どこにもいない。
お手伝いさんだけが、庭で忙しそうに洗濯をしていた。
ぼくはさっそく薬の部屋へと忍び込んだ。
サナダムシっていったいどれくらい長いものなのか気になって、瓶の中から引っ張り出してみた。
三上山のムカデほどではないけれど、本当に信じられないくらい長いものだ。
部屋の中をぐるぐると一回り巻きつけても、まだ余るくらいだった。
おかげで絨毯がぐちゃぐちゃになってしまった。
今度は、部屋の隅にある骸骨の模型を下ろそうとしたけれど、これがなかなか引っかかってうまく出せない。
困っているところへ、どこかの小僧がやってきた。
歯が痛くてたまらないのか、泣きそうな顔をしている。
「すぐに治してやるから少し手伝え」と言って、二人掛かりでその骸骨を診察室の真ん中まで引っ張り出した。
そして、「歯はいつから痛いんだ?」と聞いてみると、「昨日からです」と答えた。
ぼくはクロロホルムの瓶を取ってきて、「さあ、この瓶の匂いを嗅いでみなさい」と言った。
小僧のやつは、言われた通りに一生懸命くんくんと匂いを嗅いでいる。
「少しハンカチにしみ込ませてから嗅ぎなさい」と言っても何も返事をしない。
きっと、もう虫歯の痛みがすっかり治ったんだろう。
安心して椅子の上でぐっすり眠っているみたいだ。
なんだかクロロホルムの匂いが強すぎて嫌な気分になってきたから、ぼくはそのまま家に帰ってきた。

夜になってから、森川さんがものすごい剣幕で怒鳴り込んできた。
なんでも、患者の家を回ってから家に帰ってみると、小僧とお手伝いさんが倒れていたそうだ。
お手伝いさんは、部屋の真ん中に置かれた骸骨の姿を見て驚きすぎて気絶してしまったらしい。
そりゃそうだろう、棚にあるはずの骸骨が、部屋の真ん中で椅子にドカッと座っていれば、誰だって腰を抜かすほどびっくりするに決まっている。
「こんなことでは病院の商売あがったりだ! もう二度と太郎くんをこちらへ寄こさないでくれ!」と、そう言い残して怒って帰っていった。
お春さんが必死に引き止めたけれど、森川さんはカンカンに怒っていてまったく聞く耳を持たない。
そのままぷりぷりと怒りながら帰っていった。
森川さんは本当に短気な人だ。
ぼくはもちろん、家の人みんなからこってりとしかられた。
これでお花さんも、絶対にぼくを連れて行ってくれなくなってしまった。
おまけに、森川さんはお春さんとの婚約を解消してしまった。
お姉さんはもうお嫁に行くための支度をほとんど済ませてしまっているというのに、今更こんなことになっては大損である。
これからまた新しく結婚の相手を捜し出すころには、せっかく作った着物や帽子も流行遅れになってしまうかもしれない。
ぼくだって、ただ黙っているわけにはいかない。
特に、今回の事件の引き金を作ったのがこのぼく自身なのだから、こんな風に雲が通り過ぎるのを待つように知らん顔して見過ごすわけにはいかないのだ。
すべての発端は、ただの一匹の猫なのだから。
猫一匹が原因で、結婚する前から破談にするなんてそんなバカな法律があるものか。
誰が何と言おうと、こんなことで怒る森川さんが悪いのに決まっている。
そこでぼくは、忠公と一緒に森川さんのところへ忍び込み、あの電気の機械をこっそりいじって遊んでやった。
ぼくはなんともなかったけれど、忠公のやつは電流とかいうものに触れて、その場で気絶してしまった。すると森川さんは、お医者さんの家で人がそんなに何度も気絶しては商売に響くと怒った。
まるでぼくが森川さんの仕事の邪魔をしているような態度だ。
ぼくは少しも悪くない。
悪いのはエジソンだ。
誰も頼んでもいないのにこんな危ない機械を発明したもんだから、忠公は三日も床の中で苦しがったのだ。
それをまるでぼくの罪であるかのように言うのは、ちょっとお門違いというものだ。

森川さんの薬の部屋には鼠が出て困る。
現に書生の間宮が、何か鼠退治の方法はないかと言ってぼくの意見を求めてきたくらいなのだから。
目に見えないバクテリアをやっつけるくせに、あんな大きな鼠の始末ができないとは、よほど矛盾した野郎だ。
ぼくは忠公の家の三毛猫を借りて森川さんのところへ行った。
この猫はメスで鼻が黒いから、鼠を捕るのがとても上手だ。
この間なんか、近所の鶏さえ捕まえたほどだ。
もう薬の部屋には入らないという約束だったから、ぼくは猫を抱えて窓のところに立っていた。
中には誰もいないが、鼠もいない。
それでぼくは三十分ばかりも待っていた。
すると鼠が一匹見えたので、窓を開けて猫を入れてやった。
鼠が棚へ上がったものだから、猫も棚へ飛び上がって薬の瓶をひっくり返してしまった。
薬の部屋はめちゃくちゃになったけれども、薬の部屋よりもめちゃくちゃな目に遭ったのは猫のほうだ。
硫酸を浴びたものだから、苦しがって鳴きながら部屋の中を跳ね回った。
この物音に驚いて、森川さんは薬の部屋の戸を開けた。
猫は森川さんの顔に飛びついた。

翌朝、森川さんがお父さんに会いにやってきた。
顔は硫酸で火傷したので、三つ四つ膏薬が貼ってある。
鼻は二倍ほど大きく腫れ上がっている。
お春さんは笑い出した。
もちろんぼくも笑った。
だけど姉さんは転げるくらい笑っていた。
森川さんは少しも笑わない。
顔が突っ張っていて笑えないんだろう。
何かお父さんと話をして、ぷりぷり怒りながら帰っていった。
家の者はみんなぼくを叱った。
お春さんはその日から金魚のように何も食べないで生きている。
お歌さんは寄ると触るとぼくの耳を叩く。
梅が枝の手水鉢じゃあるまいし、ぼくを叩いたって森川さんが帰ってくるわけでもあるまいし。
だけどこれはひとつの悲しむべき過失にすぎない。
ただ鼠を取ってあげよう、お医者さんの家にペストの子が威張っていてはかっこ悪いと思って、まったくの親切心からしたことで、決してやお姉さんを一生売れ残りの老嬢にしようなどという企みからやったわけではない。
もしこれが悪いと言うなら、世の中に一つとして良いことなどないはずだ。

今日はお春さんがまた泣いた。
お歌さんのお友達が二人も遊びに来て、言わなくてもいいのに、森川さんが富子さんの家へ昨日も一昨日も遊びに行ったとペラペラ喋ったのだ。
女というものは雛人形のように人の顔を見るとおしゃべりをせずにはいられないらしい。
晩ご飯を食べながらお春さんのことを考えたら気の毒になって、六杯しか喉を通らなかった。
いっそ森川さんの家へ談判に出かけようと思ったけれど、間宮の野郎が玄関払いをするに決まっていると気づいた。
それでもとにかくお島に声をかけて、ぼくは家を出た。

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