むかしむかし、おおかみがきつねを自分の家においていました。
きつねは動物の中でも、とても弱い生きものでした。
だから、おおかみの言うことには、なんでも従わなければなりませんでした。
きつねは、なんとかしてこの意地悪なご主人さまのところから逃げ出したいと思っていました。
ある日のこと、きつねとおおかみはふたりで森の中を歩いていました。
そのとき、おおかみが言いました。
「おい、あかぎつね。
なにか食べるものを持ってこい。
そうしないと、おまえをバリボリ食べちまうぞ!」
すると、きつねは答えました。
「わたしは、子ひつじが二、三びきいる農家を知っています。
もしお望みでしたら、そいつを一ぴき取ってきたらどうでしょう」
おおかみはその案が気に入りました。
そこで、ふたりで出かけていきました。
きつねは子ひつじをこっそり盗み出して、おおかみのところへ持ってきました。
そして、自分はそのままさっさと行ってしまいました。
おおかみはぺろりとごちそうをたいらげました。
でも、まだまだ足りません。
ほかのも食べたくなりました。
そこで、もっともらおうと、のそのそ出かけていきました。
ところが、おおかみのやり方は下手くそです。
たちまち、子ひつじのお母さんに見つかってしまいました。
子ひつじのお母さんは大声をはりあげて泣きわめきました。
それを農家の人たちが聞きつけて、飛んできました。
みんなはおおかみを見つけると、さんざんにぶったたきました。
そのおかげで、おおかみは足をひきずり、ヒーヒー泣きながら、きつねのところへ戻ってきました。
「やい、きさま、よくもおれをだましたな!
おれはほかの子ひつじもさらってこようと思ったんだ。
そしたら農家どもにとっつかまってな、このとおり体がぐにゃぐにゃになるまでぶちのめされたぞ!」
とおおかみは言いました。
「あんたは、どうしてそんなに食いしん坊なんですねえ」
と、きつねは答えました。
あくる日、ふたりはまた野原に出かけました。
食いしん坊のおおかみが、またもや言いました。
「おい、あかぎつね。
なにか食べるものを持ってこい。
そうしないと、おまえをバリボリ食べちまうぞ!」
すると、きつねは答えました。
「わたしは、ある農家を知っているんですがね、そこのおかみさんが今夜たまごパンを焼くんです。
そいつを取ってきてあげましょうよ」
ふたりは出かけていきました。
きつねはお家のまわりをこそこそ歩きまわりました。
長いこと中をのぞいてみたり、くんくんにおいをかいでたりしてから、ようやくお皿のある場所を見つけました。
きつねはそのお皿からたまごパンを六つだけ引きずり下ろして、おおかみのところへ持ってきました。
「さあ、ごちそうを持ってきましたよ」
と、きつねはおおかみに言うと、自分はさっさと行ってしまいました。
おおかみはたまごパンを六つとも、あっという間にのみこんでしまいました。
「もっと食いたいなあ!」
おおかみはそう言うと、今度はひとりで出かけていきました。
ところが、おおかみときたら、たまごパンをお皿に入ったまま引きずり下ろしたのです。
さあ、大変です!
お皿は下に落っこちて、こなごなに割れてしまいました。
ガラガラ、ピシャンというすさまじい音に、おかみさんが飛び出してきました。
おかみさんはおおかみの姿を見ると、大声で男たちを呼びました。
男たちはすっとんできて、思いっきりおおかみをたたきのめしました。
そこで、おおかみは足をひきずり、ワーワー泣きながら、森の中のきつねのところへ戻ってきたのです。
「やい、きさまはとんでもない目に合わせてくれたな!
農家どもがおれをとっつかまえて、さんざっぱらなぐったんだぞ!」
とおおかみはどなりました。
「あんたはなんて食いしん坊なんでしょうねえ」
とだけ、きつねは言いました。
三日めです。
ふたりはまたそろって出かけました。
おおかみは、今日は足をひきずりひきずり、やっと歩いている状態です。
それなのに、また言い出しました。
「おい、あかぎつね。
なにか食べるものを持ってこい。
そうしないと、おまえをバリボリ食べちまうぞ!」
すると、きつねは答えました。
「わたしは、ある男を知っているんですがね、その男は動物を殺して、塩づけにした肉をたるにつめて、地下室にしまっているんですよ。
そいつを取ってきましょうよ」けれども、おおかみは、こんどはこう言いました。
「それじゃあ、おれもいっしょに行くぞ。おれが逃げられなくなったときに、おまえに助けてもらえるようにな」
「どうぞ、おすきなように」
と、きつねは言って、おおかみに抜け道やら近道やらを教えました。
ふたりはそこを通って、ようやく地下室の中へ入り込みました。
中を見ると、お肉がうんとこさありました。
おおかみは、何も言わずにがぶりとかぶりつきました。
(こいつをぜんぶ片づけるには、時間がかかるな)
とおおかみは思いました。
きつねも、おいしそうに食べました。
けれども、しょっちゅうあたりをきょろきょろ見回していました。
そのあいだにも、ときどきさっき通ってきた穴のところへ行って、自分の体がまだ通りぬけられるかどうかを試していました。
それを見て、おおかみが言いました。
「おい、きつね。いったい何だって、そんなにあっちへうろうろ、こっちへうろうろ、飛び出したり飛び込んだりしているんだ?」
「だれか来やしないか、よく見張っていないといけませんからね」
と、きつねは答えました。
そして、付け加えて言いました。
「それより、あんまり食べすぎないほうがいいですよ」
けれども、おおかみは言いました。
「このたるをからっぽにするまでは、ここを動きやしないぞ」
そうしているうちに、農家のおじさんが、きつねの飛び跳ねる音を聞きつけて、地下室へやってきました。
きつねはおじさんを見ると、ピョンとひと飛び跳ねて、穴から逃げていってしまいました。
おおかみも、あわててついていこうとしました。
ところが、あんまり食べすぎて、おなかがぱんぱんにふくれていおます。
入ってきたときの穴を、通りぬけることができません。
体がひっかかって、抜けなくなってしまいました。
おじさんはまるたをつかまえてきて、おおかみを、殴って殴って殴り倒してしまいました。
きつねは森の中へとんで帰りました。
こちらは、食いしん坊のおおかみからうまく逃げ出すことができて、大喜びでした。
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