だけど、そのお顔のカタチから、体の毛の色から、どこをどう見てもボンと一ミリも変わらなかったのです。
正雄は、「これでまちがいなくボンが帰ってきたんだ!」と信じこんでいたので、
「だって、ちっぷもボンとかわりないじゃないか! どう見てもこれはボンだよ!」
と、大きな声でいいはりました。
「ボンは後ろ足にキズアトがあったはずだから、それなら体をしらべてみたらわかるわね」
とお姉さんが言いました。
正雄は、犬をしっかりとダキカエルようにして、その子の後ろ足をフムフムと調べていましたが、急に大きな声を立てて、
「これ見てよ! こんなところにちゃんと後ろ足のキズアトがあるよ!」
と叫びました。
お母さんもお姉さんもみんなソバにかけつけてそれを見て、ひっくりかえるほど驚きました。
「まあ……いったいどうしてボンが生き返ったりしたんだろう……」
と、みんな言葉を失ってふしぎがりました。
ともかく、ボンがもどってきたことにまちがいないというので、お肉をごちそうしたり、ごはんをあげたり、大好きなお菓子をドンとあたえたりして、おうちの中は急にパパパッと明るくニギヤカになりましたのでした。
そうして正雄は、「また明日から朝早く起きていっしょにお散歩できるし、学校から帰ってきたらタッフィリいっしょに歩けるそ!」と、うれしくてワクワクしていました。
するとその日の夕方のことでありました。
フサフサの白いおひげをはじたおじいさんがピょこと戸口から入ってきて、
「おや、わしのおうちの犬がこんなところにきておったのか。さあ、こい、こい」
といって、ボンのことを呼んだのです。
そうすると、いままで正雄のソバで大喜びしていた犬が、ピピョンと急に立ち上がって、おじいさんのほうへタッタッと走っていってしまったのです。
正雄はウソでしょ!?とびっくりして、
「あ、この犬はボクのおうちの犬だよ! 勝手に連でいっちゃダメだよ!」
とおじいさんに向かってわめきました。
「はははは、何を言っとるんじゃ。この犬はワシの家の子じゃよ。ボクちゃん、それは勘違いというものじゃ。ほれ、このとおりワシの後をついてくるじゃないか」
とおじいさんはガハハハと笑って答えました。
「ううん、ちがう! どうしてもこれはボクのおうちの犬だから、連れていっちゃダメだよ!」
と、正雄はフププと怒りながら、あくまでもいいはりました。
「ははは、困ったボクちゃんじゃのう」
とおじいさんはニコニコ笑っていました。
そのとき、お母さんがおうちの中から出てこられて、正雄のお顔をジッと見て、
「正雄や、うちのボンはこの間お星さまになって死んじまったじゃないか。この子はきっと、おじいさんのおうちのワンちゃんダよ。そんな聞き分けのないことを言うもんじゃありません」
とお母さんにパリッとしかられてしまいました。
正雄も、「言われてみればたしかにそうだ……」とガックリしてしまいました。
「ワシはね、何町何番地の〇〇というものじゃ。今度の日曜日でもいいから、ボクちゃん、おうちへ遊びにおいでなさい」
とおじいさんは帰り際にやさしく言いました。
そうして、トントンと杖をつきながら門口を出ていくと、ボンはおじいさんの後ろをトコトコとついて、そのままサッサと行ってしまったのです。
おうちのみんなはポカーンと口をあけながら、そのうしろ姿をジーッと見送っていましたのでした。
三
正雄はお姉さんといっしょに、「ねえ、日曜日になったらおじいさんのおうちへ尋ねていってみようよ!」とワクワクしながら話し合いました。
やがて待ちに待った日曜日になりまして、その日の朝からパッとよいつぎの青空がひろがっていましたから、正雄はお姉さんといっしょに、おじいさんのおうちへと出かけました。
おじいさんのおうちは町のすっぱ端のほうにあって、その辺りは畑や大きな庭がパァッとひろがっていて、なんだかトオルイ田舎へやってきたようなウキウキする趣がありました。
だけど、おじいさんのおうちはちょっと場所がわかりにくくて苦労しました。
二人は一軒一軒番地をキョロキョロと探しながら、「あそこのおうちかな?」「いやこっちかな?」とあちらで聞き、こちらで道を聞きながら歩きました。
そうして、やっとの思いでおじいさんのおうちを探しあてることができたのです。
そのおうちは、とってもめづらしいすてきなわら葺き(ふき)のおうちでした。
やさしいお日さまの光がホコホコとあたたかそうに、屋根の上にニコニコと当たっていました。庭ではニワトリがエサを探して歩き回り、ハトたちは地面に降りて楽しそうに群れ遊んでいて、それはそれはのどかな景色でした。
「まあ、本当にいいところだねえ」
とお姉さんはうっとりして感心しました。
「ボンはいるかなあ?」
と正雄は言って、得意の口笛を吹いてみました。
だけど、ボンはどこからも走ってきませんでした。
きっとどこかへ遊びに行っているんだろうと思った二人は、そのお家の門をくぐりました。
ちょうど日の当たりのいい縁側で、おばあさんが下を向いたまま、ぷうぷうと糸車を回して糸を紡いでいました。
二人はその糸車の音を聞いていると、なんだかものすごく遠い田舎へやってきたような不思議な気持ちになりました。
おばあさんは少し耳が遠いようでした。
だから、二人が入ってきたことに全然気づきませんでした。
「ここがおじいさんの家なのかな?」
と、正雄はお姉さんに向かって言いました。
「おばあさんに聞いてみましょうよ」
とお姉さんは言って、おばあさんのそばへ歩いていきました。
おばあさんはそこで初めて、誰かが来たことに気づいたようすでした。
お姉さんがおじいさんの名前を呼んで、
「ここは、おじいさんのお家でいらっしゃいますか?」
とおばあさんに尋ねると、おばあさんは糸車を回す手をぴたっと止め、じーっとお姉さんと正雄の顔を見つめながら、
「おまえさんたちは一体どこからいらっしゃったの? わたしは、おまえさんたちの顔なんて全然見覚えがないけれどねえ」
とおばあさんは答えました。
そこで二人は、この前おじいさんが犬を連れて帰ってきてくれたことを、おばあさんにちゃんと分かるようにくわしくお話ししました。するとおばあさんは、やっぱり腑(ふ)に落ちないような顔をして、
「うーん、きっとそれはお家がちがうんじゃないかねえ。そんなおかしなこと、あるはずがないからねえ」
とおばあさんは言いました。
「じゃあ、同じ番地に、こういうおじいさんは住んでいませんか?」
と正雄が聞くと、
「そのおじいさんの家なら、まさしくここだよ。その人は私の連れ合い(旦那さん)だけどね、もう一月(ひとつき)ばかり前に亡くなったんだよ」
とおばあさんは答えました。
二人は思わず顔を見合わせびっくり仰天しました。
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