大正八年九月
相州小田原木兎の家にて
白秋
とんぼの眼玉
とんぼの眼玉
とんぼの眼玉は大きいのかな、
銀ピカ眼玉の青い眼玉、
丸い丸い眼玉、
地球儀の眼玉、
大いそがしの眼玉、
眼玉の中に、
小人が住んでいて、
千人も万人も住んでいて、
めいめい虫めがねで、あっちもこっちも覗いている。
上を向けばピカピカピカ。
下を向けばピカピカピカ。
クルクル回せばピカピカピカ。
トウモロコシにとまればトウモロコシが映る。
ケイトウの花にとまればケイトウが映る。
千も万も映る。
きれいな、きれいな、
五色のパノラマ、きれいな。
そこへ、子どもが飛び出してきた、
とりもちざおをヒュウヒュウと飛ばして飛び出してきた。
さあ、逃げろ、
わあ、逃げろ、
麦わら帽子が追いかけてきた。
千人も万人も追いかけてきた。
うわあ怖い、
ああ怖い。
ピカピカピカピカ、ピッカピカ、
クルクル、ピカピカ、ピッカピカ。
夕焼けとんぼ
大きな、赤い蟹が出てきて、
イグサをチョッキリ切り取ります。
イグサの中から火が燃えて、
その火がとんぼに燃えついた。
とんぼは逃げても逃げきれない、
トウモロコシ畑に逃げてくる、
トウモロコシの頭が赤くなった。
タデの花に飛んでくる、
タデの花にも火がついた。
野川のススキにとまった、
ススキの穂先も火になった。
お庭のケイトウで休みましょう、
ケイトウもいっぱい火事になる。
助けてくれ、焼け死んでしまう、
とんぼはイグサにしがみつく。
とんぼの眼玉は丸いぞよ、
くるくる回せば山が見え、
山の中から猿が出て、
あっちを向いては、あっかんべー、
こっちを向いては、あっかんべー。
八百屋さん
大きなビワ、小さなビワ、
水密桃(すいみつとう)、ブドウ、
イチゴや野菜、
お籠(かご)に入れて、
頭にのせて、
かっこう、かっこう、と歩いて行けば、
うす紫の、
ジャガイモ畑の花盛り。
あちらでもかっこう、
こちらでもかっこう、
カッコウが鳴いて、
雨が晴れて、
田舎は涼しい、涼しいな。
かっこう、かっこう、
私もいそいそと口笛を吹いて、
足拍子をとって、
お靴でかっこうかっこう、踊りましょう。
かっこう、かっこう、かっこな、
たららら、らるら。
おばさん、こんにちは、
おじさん、こんにちは。
お祭り
わっしょい、わっしょい、
わっしょい、わっしょい。
祭りだ、祭りだ。
背中には花笠、
胸には腹掛(はらがけ)、
ねじり鉢巻、おそろいの法被(はっぴ)で、
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい、
わっしょい、わっしょい。
神輿(みこし)だ、神輿だ。
神輿のお練りだ。
山椒(さんしょう)は小粒でもピリッと辛いぞ、
これでも意気軒高(いきげんこう)な山王(さんのう)の氏子だ。
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい。
真っ赤だ、真っ赤だ、夕焼け小焼けだ。
しっかり担いだ。
明日も天気だ。
さあ、もめ、もめ、もめ。
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい。
俺たちの神輿だ。
死んでも離すな。
泣き虫やすっとんで行け。
差し上げて回した。
もめ、もめ、もめ、もめ。
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい、
わっしょい、わっしょい。
回すぞ、回すぞ、
金魚屋も逃げろ、ほおずき屋も逃げろ。
ぶつかっても知らないぞ。
さあどけ、どけ、どけ、
わっしょい、わっしょい。わっしょい、わっしょい、
わっしょい、わっしょい。
子供のお祭りだ、お祭りだ、お祭りだ!
提灯(ちょうちん)を点(つ)けろ、
ご神灯をささげろ、
十五夜のお月さまがまんまるだよ。
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい、
わっしょい、わっしょい。
あの声はどこだ、
あの笛の音は何だ。
あっちもパーティーだ、こっちもお祭りだ。
さあ、もっともめ、もめ、もめ!
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい、
わっしょい、わっしょい。
お祭りだ、お祭りだ。
山王(さんのう)さまのお祭りだ、子供のお祭りだ。
お月さまが真っ赤だぞ、ご神灯も真っ赤だぞ。
さあ、もっともめ、もめ、もめ、
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい。
わっしょい、わっしょい。
のろまのお医者
蚊の声がぶんぶん。
ゴロスケホーウ。
今夜はお盆の十六日。
おえんまさまの盆踊り。
カエルの音頭(おんど)で始めようか。
カエルの母さんはものが言えない。
のどが腫(は)れたのかな、お腹が痛いのかな?
お腹が痛いならお医者さんを呼んでこよう。
お医者さんはどこの医者? 帰ろ医者(かえろいしゃ)。
蚊の声がぶんぶん。
ぱあくぱく。
空には真っ赤なお月さま。
草むらの中ではヒキガエルが丸くなっている。
今夜のおかずはとってもおいしそう。
そこへウサギがぴょんと飛んできて、
「もしもし、お願いがあります、早く来てください!」
「よしよし、待ってなさい、今すぐ行くよ!」
お腹が減っては戦(いくさ)ができぬ。
蚊の声がぶんぶん。
雨がしょぼしょぼ。
いそいで出かけないと間に合わない。
それでは行こうかと、のっそのそ。
両手にステッキ、折れたカバン、
山高帽(やまたかぼう)をかぶってやってきたけど、
踊りももう終わって、だれの声もしない。
こいつはうっかりしたな、顔向けできないぞ。
田んぼの中はまっくら、真っ暗闇(くらやみ)。
蚊の声がぶんぶん。
ゴロスケホーウ、
ゴロスケホーウコウ、むだぼうこう。
お山の上ではフクロウが笑い出す。
雨はざあざあと降ってくる。
おやおやおやおや、これはどうしたことだ!
目だけをぱちくりさせる、のろまな医者。
のろくさ動いて、困って逃げ込んだ。
おえんまさまの、そうさ、縁の下(えんの下)!
ほうほう蛍
ほうほう蛍、篠(しの)蛍、
昼間は赤い豆ずきん、
日暮れはピカピカ豆ばかま。
一(ひと)つのお宮で灯(ひ)をもらって、
二(ふた)つのお宮の田んぼへ灯をともしに、
三(みっ)つの鳥居は藪(やぶ)の中、
四(よっ)つのお宮をくぐればタヌキ堀、
タヌキが鳴き出したら、雨が降る。
早く早くお帰り、夜は怖いからね。
真夜中を過ぎたら帰れなくなっちゃうよ。
ほうほう、蛍、篠蛍、
水神(すいじん)さまはまだ遠い。
鳰の浮巣(におのうきす)
鳰の浮巣に灯がついた、
灯がついた。
あれは蛍かな、それとも流れ星のしっぽかな?
それともマムシの目の光かな。
カエルもころころ鳴いている、
鳴いている。
ねんねんころころ、ねんころよ。
フクロウもぽうぽう鳴き出した。
金魚
お母さん、お母さん、
どこへ行ったの?
赤い金魚と遊びましょう。
お母さんが帰ってこない、
さびしいな。
金魚を一匹突き殺す。
まだまだ帰ってこない、
くやしいな。
金魚を二匹締め殺す。
どうしてどうして帰ってこないの、
おなかがぺこぺこ、ひもじいな。
金魚を三匹ねじり殺す。
涙がこぼれる、
日は暮れていく。
赤い金魚も死んじゃう、死んじゃう。
お母さん、怖いよ、
目が光る、
ピカピカ、金魚の目が光る。
雨
雨が降ります。
雨が降る。
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