むかしむかし、とある国のお城に一人の王さまが住んでいました。
王さまはぴっかぴかの新しい服が大好きで、お給料も貯金もぜんぶ、すてきな服を買うことにつぎ込んでいました。
王さまの願いといえば、「いつでもきれいな服を着て、みんなから『わぁ、すてきですね!』とうらやましがられること」、これだけでした。
戦いなんて大きらいだし、おしばいを見るのも全然おもしろくありません。
だって、おしゃれな服を着られるだけで、王さまはもうおなかいっぱい大満足だったのです。
新しい服ならなおさらで、なんと一時間ごとに着がえては、みんなに見せびらかしていました。
ふつう、お城の人につかえてい人に「王さまはどこにいらっしゃいますか?」と聞くと、「はい、王さまは会議室にいらっしゃいます」と答えるものですが、この国の王さまはちがいます。
「はい、王さまは衣装部屋(いしょうべーや)にいらっしゃいます!」と答えるのです。
お城のまわりには大きな町が広がっていて、いつもお祭りみたいににぎやかでした。
世界中のあちこちから、毎日たくさんのめずらしい人がやって来ます。
ある日、そんな町に二人のさぎ師がやって来ました。
二人は町の人たちに、「自分たちはすごい布織り(ぬのおり)職人なんだ」と大ウソをつきました。
しかも、「世界でいちばんすごい布が作れるんだ」と言い張って、すっかりみんなに信じこませてしまったのです。
「ぼくたちが作る布は、ものすごくきれいな色をしていて、もようもとびきりなんだ。でもね、この布にはとくべつなひみつがあるんだよ」
と、さぎ師は言いました。
「なんと、自分にふさわしくないダメな仕事をしている人や、頭のわるい人には、まったく見えないとうめいの布なのさ!」
その話を聞いた町の人たちは、「なんだってそりゃすごい!」とたいそうびっくりしました。
うわさはあっという間に広がり、めずらしい布の話は王さまの耳にも届きました。
「ほう、そんなすごい布があるのか! それはぜひ見てみたいものじゃ」
と、服が大好きな王さまはわくわくしました。
「もしもわしがその布でできた服を着れば、家来(けらい)の中から、お仕事ができないダメな人間や、頭のわるい人間が一発でわかるはずじゃ。そうすれば、服がちゃーんと見えるかしこい奴らだけをそばに集められるから、この国はもっともっとすばらしくなるにちがいない! さっそく、あのさぎ師たちにこの布で服を作ってもらおう!」
王さまはさっそくたくさんのお金を準備して、さぎ師たちに手渡しました。
そして、「このお金ですぐに、最高の一着を作ってくれ!」と頼んだのです。
さぎ師たちはよろこんで、「おまかせください!」と引き受けました。
部屋の中に、はた織り機(き)を二台ならべると、さっそくお仕事にとりかかりました。
でも、はた織り機の上には、何もありません。
糸だって一本も置いてありませんでした。
それでも、さぎ師たちはものすごい真剣な顔で、せっせと布を織るしぐさをしているのです。
いや、ちがいます。
ほんとうは布なんてこの世のどこにもなくて、からっぽのはた織り機に向かって、ただ織っているフリをしているだけなのです。
ときどきさぎ師たちは、「材料がなくなってしまったみたいです! いちばん値段の高い最高の絹(きぬ)と、キラキラ光る金の糸をください!」と王さまにおねだりしました。
王さまが言われたとおりに最高の材料を渡すと、さぎ師たちはそれを自分たちのポケットにしまいこんで、相変わらずからっぽのはた織り機で織るフリを続けました。
夜おそくまで明かりをつけて、がんばって働いているように見せかけていたのです。
しばらくすると王さまは、「いま、どれくらい仕事が進んでいるかなぁ」と気になってしかたなくなりました。
じぶん自分でじかに見に行ってもいいのですが、もしも「自分には布が見えない」なんてことになったらどうしよう……と、少し不安になりました。
「もし見えなかったら、自分は頭のわるいダメな王さまってことになってしまうぞ……」
でも、王さまは王さまです。国いちばんのえらい人なのですから、こんなことでこわがる必要はありません。
……とはいえ、やっぱり自分の足で行くのはちょっぴりドキドキします。
そこで王さまは、自分が直接行く前に、まずは家来を一人だけさぎ師の部屋に行かせることにしました。
「あの布が今どうなっているのか、見てきてもらおう」と思ったのです。
このころには、町の人はみんな、王さまが作らせている布の「とくべつなひみつ」を知っていました。
だからみんな、「ご近所のあの人は、ほんとうに頭がよくて服が見えるのかな?」と、人のバカさをこっそり確かめたくてうずうずしていたのです。
そこで王さまは、家来の中でも「うそをつかない正直者」として有名だった、お年寄りの大臣(だいじん)を向かわせることにしました。
この大臣はものすごく頭がいい人だから、きっとすばらしい布が見えるにちがいない、と思ったからです。
「あの布を見に行かせるなら、この人しかいない!」というぴったりの人選でした。
人のよさそうなお年寄りの大臣は、王さまに言われてさぎ師の家へと向かいました。
そして、さぎ師たちがからっぽのはた織り機で作業をしている部屋に入っていきました。
「神さま、どうかお助けください!」
大臣は心の中でいのりながら、両目をぱっちり見開きました。
けれども……何も見えません。
はた織り機の上には、やっぱり何もなかったのです。
「ど、どういうことじゃ……?」
大臣は思わず口から出しそうになりましたが、あわててぐっとがまんしました。
そのとき、さぎ師の一人が声をかけてきました。
「おお、大臣さん! どうですか? もっと近くに来て、よく見てくださいよ。このすばらしいもよう、いろいろなテクニックが使われていて最高でしょう? それに、この美しい色合いだって、思わずうっとりしちゃいますよねぇ?」
さぎ師はそう言いながら、何もないからっぽのはた織り機をピシッとゆびさしました。
大臣は目をしょぼしょぼさせて、どうにかして布を見ようと必死にがんばりましたが、何度見てもやっぱり何も見えません。
だって、そこにはほんとうに何もないのですから!
「こりゃあ大変なことになったぞ……」
と、大臣は青ざめました。
「もしかしてわしは、頭がわるいダメな人間なのだろうか?」
大臣は自分の頭を抱え込み、首をかしげずにはいられませんでした。でもそう思いたくありませんでした。
大臣はまわりを見まわしました。
いるのは二人のさぎ師だけです。
よいことに、自分がまだ布が見えていないということを、誰も気がついていません。
「見えない」と言わなければ、誰も気づかないのですから。
「あのう、どうしておっしゃらないんですか?」と、さぎ師の片われがたずねました。
もう一人のさぎ師は、からっぽのはた織り機でいっしょうけんめい働くふりをしています。
急に声をかけられて、大臣はあわてました。
「あ……ふぅん。
とてもきれいで、たいそう美しいもんじゃなぁ。」
大臣はメガネの位置をなおして、何もないはた織り機をじっくりと見つめました。
「なんとみごとな柄じゃろう。
コメント