初級翻訳・ふしぎな池 第3話

ふしぎな池

 雪の降った日は、どうにもなりません。
 その日は仕事を止めて、竹馬に乗ったり、雪合戦などをして遊びます。
 そうした雪の降ったあとのある朝、みんなで誘い合って、野原に植えておいた木を見まわりに出かけました。
 どこもかしこも、雪でまっ白です。
 それにぱっと朝日がさして、とてもきれいです。
 池の上には、うすく湯気が立っています。
 池の水はわき出している水ですから、冬はまわりの空気よりもいくらかあたたかいので、湯気が立つのです。
「おや、なんだろう」
「なんだろう」
 池の中の、あのいかだの上に、まっ白な物がいます。
 まっ白な物が、すっとまっすぐ立っています。
 みんなは土手のところまでしのび足で近づいていきました。
 とたんに、白い物がぱっと飛び上がりました。
 白サギです。
 大きな白い翼をひろげ、長い足をうしろにのばして飛び上がり、山の方へ飛んでいってしまいました。
 とてもきれいです。
 さつ、さつと、翼で風をきる音が、みんなのいるところまで聞こえます。
 みんなはぽかんと見とれていましたが、それから急いで、白髪のご隠居のところへそうだんに行きました。
 白サギが、またいかだにきっと来るでしょう。
 どうかしてつかまえたいものです。

七
 みんなはまた白サギが来るだろうと考え、なんとかしてつかまえたいものだと、白髪のご隠居にそうだんしました。
 ご隠居はみんなの話を聞くと、こう言いました。
「それはいかんよ。
白サギは亀とちがって、飼っておくのが大へんだ。
そんなに白サギがほしいなら、何かかわりの物をわしが見つけてやってもよい。
何がいいかね」
「ツルはどうでしょう」
と、政雄が言いました。
「ツルかね。
なお大へんだ」
「ガチョウは」
と、一郎が言いました。
「やかましくていかんよ」
「アヒルは」
と、英吉が言いました。
「きたなくていかんよ」
 子どもたちは困ってしまいました。
 ご隠居は言いました。
「きみたちは池のことばかり考えるからいかんよ。
それより、八幡様にハトを飼ったらどうだい。
ハト小屋を作って、たくさんハトをふやしてみないかね」
 なるほど、ハトならすてきです。
みんなは、
「それがいい!」
と、さんせいしました。
 ご隠居は言いました。
「けれども、まだ寒いから、春まで待つんだね。
そのうち、わしがハト小屋を作ってあげるよ」
 でも、子どもたちは待ち遠しくてたまりません。
それで、寒いあいだ、この池で何か面白い遊びができないものかとそうだんしました。
「よいことを教えてやろうか」
と、ご隠居がへんなことを言い出しました。
池の水を、外の平らな野原にまいておけ、と言うのです。
「そんなことをしたら、水たまりになってしまいますよ」
「まあやってごらん。
面白いことになるから」
 みんなはよくわかりませんでしたが、とにかくご隠居の言う通りにしました。
 次の日に行ってみると、あたり一面しめっていました。
 その次の日にも、また行ってみました。
 ひときわ寒い日でした。
するとそこら一面、まあどうでしょう、きらきら光っていて、氷の原っぱになっているのです。
 みんなはその上をすべり出しました。
 なだらかな野原です。
その上に、厚く氷がはりつめているのです。
 よくすべります。
 それから毎日、スケートをはいたり、ぞうりをはいたりして、すべって遊びました。
「舟に乗ってすべってみようか」
と、政雄が言い出しました。
 そこでみんなは、八幡様のお社の中にしまってある、白ぬりの八幡丸を取りに行きました。
 そして、「あっ」とおどろきました。

八
 八幡様のおくから八幡丸をひき出そうとすると、何か白い物が動いています。
 小さくてかわいいハツカネズミです。
 舟の中に、かれ草やわらくづで、巣を作っているのです。
 どこからやって来たのでしょうか。
 いつの間に、こんなにたくさんふえたのでしょうか。
「かわいいなあ。
そっとしておこうよ」
「大きな金網を作ってやろう」
 針金を買ってきて、それで金網を作るのです。
 けれど、学校も始まりました。
今度は上の学年に進むのですから、しっかり勉強しなければなりません。
 もう春休みもすぐそこです。
「早く春休みが来ればいい」と、みんなは思いました。
 今度の春休みは、うれしいことばかりです。
 池はきれいになっています。
 金魚やそのほかの魚が、たくさん泳いでいます。
 亀も、もう時々水の上に出てきています。
 野原に植えた木は、元気に芽を出しかけています。梅は、もう、つぼみを持っています。
桜も美しい花を咲かせるでしょう。
桃や、栗や、柿や、みかんなど、そのうちには、一年中くだものが絶えないようになるでしょう。
原っぱは、もう、スケートができませんから、水を流してしまいました。
八幡様の屋根には、鳩小屋がたくさんできました。
白髪のご隠居が、鳩を入れてくださるはずです。
八幡丸の中には、まっ白なハツカネズミが元気です。
早く金網に入れてやりましょう。
考えてみると、すばらしいことになりました。
池を中心にして、本当に公園です。
はじめは、政雄さんのおもちゃの舟からです。
そして、ことに、あの池からです。
「ふしぎな池だなあ。」
 そう言って、子どもたちは得意です。
うれしくてたまらないのです。
まだ寒い中にも、少し春めいてきた、お天気のいい日曜日でした。
政雄、一郎、太郎、英吉、花子、そのほか大ぜい、白髪のご隠居を真ん中に、うちそろって、八幡様にお参りしました。
それから、池の土手に腰を下ろしました。
広々とした野原には、麦が青々と風にゆれています。
「そうだ、畑もほしいなあ。」
と、政雄が言いました。
「そうだ、いいなあ。」
「ご隠居さん、この原っぱに、畑ができるでしょうか。」
 みんな、わいわい言いました。
「できるとも、立派にできるよ。」
 みんな目を見合わせました。
四月になったら、運動場のすみの方に、畑もこしらえましょう。
またまた、うれしい仕事が一つ増えました。

九
 暖かい春になりました。
学校は春休みです。
子どもたちは毎日、八幡様の池のほとりに行って、遊んだり、働いたりしました。
そのへんは、もう公園のようです。
思った通りのことが、すっかり出来上がりましたけれど、まだ、大へんな仕事が残っています。
鳩にやる豆や、ハツカネズミにやるさつまいもを、自分たちで作りたいのです。
池のわきの野原を、もっと耕して、そこを畑にしなければなりません。
子どもたちはめいめい、くわや、すきを持ち出してきて、野原を耕しました。
そのうちに、あやしいことが起きてきました。
ある時、ハツカネズミの金網がなくなりました。
ねずみも大分いなくなったようです。
誰かが、盗んだのでしょうか。
子どもたちは憤慨して、白髪のご隠居に訴えました。
ご隠居は、しばらく考えてから、言いました。
「まあ、いいさ。
ねずみも、金網なんかかぶせられて、窮屈だったろう。
もう、金網は、やめるのだな。」
「そうだ、そうだ。
僕たちだって、金網なんかかぶせられたら、いやだなあ。」
と、子どもたちも言いました。

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