初級翻訳・イーダちゃんのお花 第2話

イーダちゃんのお花

ほかには、ほうきに乗ったまじょで、だんなさんを鼻に引っかけているのとか。
そんなの、相談役の人はきらいでね、そこでこんなふうにいうんだ。
「そんなことを、子どもにふきこみおって! たわけた作り話だ!」
でもイーダちゃんは、学生さんがお花について教えてくれたことが、心の底からおもしろくて、なんダムなんども思い出すんだ。
お花はぐにゃりとしてるんだけど、だってそれはひとばんじゅうダンスをしてへとへとだからで、病気かもしれない。
それでね、お花をほかのおもちゃのところに連れてって、その子たちはこぢんまりしたテーブルにならんでいて、引き出しにはたからものでいっぱいでね。
お人形のベッドには、ソフィっていうお人形さんがいて、ねむってたんだけど、イーダちゃんはその子にこういうんだ。
「起きてちょうだい、ソフィ、ごめんね、今日は引き出しでねてくれるかな、かわいそうに、お花さんが病気なの、だからね、ベッドでねたほうがいいと思うの、たぶん元気になるから!」それでね、お人形を持ち上げたんだけど、すごくすごくふきげんで、口もきいてくれなくて、そりゃあお人形さんおこるよ、だって自分のベッドを使わせてくれないんだもん。
イーダはね、お花さんたちを人形のベッドにねかせて、小さな毛布を上までかけて、いうんだ、いいこと、おとなしく横になっててね、お茶を入れてあげるから、そうしたら元気になって、朝も起きられるからって、その子はベッドわきのカーテンをぐっと引いて、日ざしが目にさしこまないようにしたんだ。
夜のあいだずっと、その子の頭にうかんでくるのは、学生さんの教えてくれたことばかりで、じぶんがベッドに入る時間になると、なによりまどにかかっているカーテンのうしろに首をつっこんで、そこにはママのすてきなお花があって、ヒヤシンスとチューリップのふたつなんだけどね、ひそひそとこういうんだよ。
知ってるんだから、今日ダンスパーティに行くんでしょ! でもお花さんは知らんぷりして、葉っぱをぴくりともさせないんだけど、イーダちゃんは知ってるんだからって、ぐっとする。
ベッドに入ってしばらく横になってても、考えるのは、向こうの王さまのおしろで、すてきなお花がおどっているところが見られたら、どんなにいいだろうってこと。
「あたしのお花も、ほんとに行ってたのかな?」でもね、ねむっちゃうんだ。
真夜中に、また目がさめて、ちょうどゆめに見てたんだよ、お花のこととか、学生さんのこととか、相談役の人におこられて、そんなことふきこんでっていわれたこととか。
そこはしぃんとしずまりかえっていたんだ、イーダがおやすみしている部屋のことだよ。わきのテーブルに小さなランプをつけたまま、パパもママもぐっすり眠っていました。
「あたしのお花さん、ちゃんと言われたとおりソフィのベッドですやすやねてるかな?」って、イーダちゃんはひとりごとをつぶやいて、「どうしてもたしかめたくて、もううずうずしちゃう!」
ベッドの中でからだを起こしてドアの方を見ると、ドアは少しだけ半開きになっていて、その向こうの部屋では、花もおもちゃもみんな静かにねむっているようでした。
イーダちゃんがじっときき耳を立ててみると……なんと、まるで自分たちがきいているのがわかっているみたいに、部屋のなかからピアノの音が流れてきたのです! それはほんとうにかすかな音だったけれど、とってもかわいらしくて、今まできいたこともないようなステキな音楽でした。
「うわあ、今、なかでお花たちがみんなでダンスしてるんだわ!」って、イーダちゃんは思わず声をひそめて言いました。「やったあ、今すぐ見たくてうずうずしちゃう!」
でも、すぐにベッドから飛び出すわけにはいきません。だってお父さんやおかあさんが起き出しちゃうかもしれないからね。
「こっちの部屋にきてくれたらいいのに!」って心の中で願ってみても、お花たちはやってきません。そのうえ、かわいい音楽はずっと鳴り響いているものだから、イーダちゃんはもうベッドのなかにじっとなんていられなくなってしまいました。だって、何もかもがあまりにもかわいらしかったんだもの!
ついにその子は小さなベッドからそっとぬけだすと、忍び足でドアのほうへ近づいて、そおっと部屋の中をのぞきこみました。
すると、そこには、目を見張るような、それはそれは楽しい楽しい景色が広がっていたのです!

 お部屋のなかに明かりはひとつもついていなかったのに、それでもびっくりするくらいお部屋の中は明るくて、なんと月の光が窓からまっすぐ床の真ん中にさしこんでいたのです! それはもう、お昼と見まちがえてしまうくらいの明るさでした。
ヒヤシンスもチューリップもみんな、床のうえにきちんと二列にならんでいました。窓のところにはもう何もなくて、からっぽの植木ばちがぽつんとあるだけ。下の床の上では、お花さんたちがみんなで楽しそうにダンスを踊っていたのです!
お花さんたちはすごくかわいらしくおたがいのまわりをぐるぐるとまわり、じゅんじゅんにきれいな輪(クサリ)を作って、緑色の長い葉っぱをつなぎあわせながら、楽しそうにまわっていました。
でも、ピアノのそばにすわっているのは、大きな黄色のユリでした。イーダちゃんには、そのユリが、夏のあいだに絶対にどこかで見たことのある人にそっくりだと思えました。だって、そういえば、あのとき学生さんがこんなことを言っていたっけ。
「ああ、あれはリーヌおじょうさんみたいだな!」ってね。でも、そのときそばにいたみんなは、お兄さんのその言葉を笑いとばしていたっけ。
だけど今となっては、イーダちゃんにとっても、それがほんとうのことに思えてなりませんでした。あの黄色くて細いユリは、きっとおじょうさんにちがいないんだわ! それに、ピアノのひきかたもまったく同じで、細長い顔をあっちにかたむけてはこっちにかたむけ、かわいい音楽のテンポに合わせて優しくうなずいたりしているのです!
だけど、お部屋で夢中になって踊っているお花たちは、だれひとりとして、ドアのすきまから見つめているイーダちゃんには気づいていませんでした。

 するとね、イーダちゃんの目のまえで、大きな青いクロッカスが、ぽんとテーブルの真ん中へとびあがりました。そのまわりには小さなおもちゃたちがたくさんならんでいます。
クロッカスはお人形のベッドに近づくと、そのカーテンをわきにガーッと引きました。そこには、さっきまで病気でねていたはずのお花がねていたのですが、その子がひょいと起きあがって、下にいる仲間たちに向かって、自分たちだっておどりたいんだよって首をこくんとうなずかせたのです。
するとね、テーブルの上にあった、あの「けむりをはくおじいさんのお人形」――下くちびるがぷっくりふくれている、あの人形が立ち上がって、お花たちにおじぎをしました。そのお花さんはもうすっかり元気になっていて、病気だったころのぐったりした様子はみじんもありません。仲間のあいだにぴょんと飛びおりると、もうはしゃいで、はしゃいで、大喜びです。

 そのとき、テーブルの上から何かがぽろっと落ちたのを、イーダちゃんは見逃しませんでした。

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