あるおばあさんは、人の下になって、つぶされそうになりました。
イワンは大笑いしました。
「おやおや、お前たちは馬鹿だなあ」
とイワンは言いました。
「何だってそうおばあさんを押すんだ。
静かにしろ、そしたらもっとやる」
と言いました。
そしてまたまきました。
人々はイワンのぐるりを取りまいて拾いました。
イワンは持っているだけ金貨をすっかりまいてやりました。
人々はもっとまけと言いました。
それでイワンは言いました。
「もう何もないよ。
今度またまいてやる。
さあ踊ろう。
唄を歌っとくれ」
女たちは歌い出しました。
「お前たちの唄はだめだ」
とイワンは言いました。
「じゃ、これより上手がどこにいる」
と女たちは言いました。
「すぐ見せてやる」
とイワンは言いました。
イワンは納屋へ行って麦束を取り出すと、穂をたたいて地べたへとんとたてました。
そして、
麦束よ麦束よ
おれの家来に命いつける
一本一本の麦藁から
兵隊一人ずつ飛び出して来い。
と言いました。
すると藁束はバラバラに倒れて、数だけの兵隊になりました。
太鼓やラッパを鳴らしはじめました。
イワンは兵隊たちに、音楽を奏し唄を歌うように言いつけました。
兵隊たちは音楽を奏し、唄を歌いました。
イワンは兵隊に村中を練り歩かせました。
村の人々は胆をつぶしてしまいました。
やがてイワンは(だれにも来てはいけないといって)兵隊を麦打ち場へつれて行きました。
そしてまたもとの藁束にかえて、納屋の中へ入れておきました。
それからイワンは家へ帰って、厩の中へころがってねてしまいました。
七
あくる朝、兵隊のシモンはそれを聞いて、イワンのところへ出かけました。
「おい、お前はあの兵隊をどこからつれて来て、どこへつれて行ったんだ」
とたずねました。
「それを聞いてどうするんだね」
とイワンは言いました。
「どうするってお前、兵隊さえありゃ何でも出来るよ。
国一つでも自分のものになる」
イワンはびっくりしました。
「ほう? じゃ何だって早くそう言わなかったのだね。
私はいくらでも好きなだけこさえることが出来たのに。
まあよかった。
妹とわしとでたくさん麦を打っといて」
イワンは兄を納屋へつれて行って言いました。
「だがいいかね、わしが兵隊をこさえたらお前さんはすぐつれて行かなきゃいけないよ。
兵隊をこっちで養うことになると、一日で村中食いつぶされてしまうからな」
シモンは、その兵隊をみんなつれて行くことを約束しました。
そこでイワンは、こさえにかかりました。
イワンが一束の麦藁を麦打場へほうり出すと、ぽんと一隊の兵隊があらわれました。また一束ほうり出すと、別の一隊があらわれました。
こうしてたくさん作ったので、畑中一ぱいになってしまいました。
「もういいかね?」
とイワンは聞きました。
シモンは大へん喜んで、
「いいとも、いいとも。イワンよ全くありがとう」
と言いました。
「なあに」
とイワンは言いました。
「もっと入るようなら、また来なさるがいい。今年は麦藁はたくさんあるし、いくらでもこさえてあげるから」
兵隊のシモンは早速その兵隊を指揮をして、隊伍をととのえると、戦に出かけました。
兵隊のシモンが出かけてまもなく、肥満のタラスがやって来ました。
タラスは昨日のことを聞いたのです。
タラスはイワンに、こう言いました。
「お前はどこから金貨を手に入れたのだね。資本さえありゃ、おれは世界中の金をみんな手に入れることが出来るんだがな」
イワンはおどろきました。
そして言いました。
「そりゃ本当かね。なら、もっと早くわしに言ってくれればよかった。わしはお前さんの好きなだけこさえてあげることが出来たに」
タラスは喜びました。
「じゃ、手桶に三ばいだけおくれ」
「いいとも、いいとも。じゃ森の中へ来なさるがいい。いや、待ちなさい、いいことがある。馬をつれて行こう。とてもお前さんだけじゃ持って来られそうにもないからな」
そこで二人は馬をつれて森へ行きました。
イワンは樫の葉をもんで、たくさん金貨をこさえました。
「さあ、これでいいかね?」
タラスはすっかり喜びました。
「さしあたってそれだけありゃたくさんだ。イワンよ、ありがとう」
とタラスは言いました。
「なあにまた入るときには来なさるがいい。葉っぱはどっさり残っているからな」
とイワンは言いました。
タラスは馬車一台に金貨をつみ込んで、商売をしに出かけました。
こうして二人の兄は出て行きました。
シモンは戦に、タラスは商売に。
そして、シモンは一国を平げて自分のものにし、タラスは商売で、たくさんお金をもうけました。
ところで二人の兄弟は逢ったとき、どうして兵隊を手に入れたか、どうして金を手に入れたかを話し合いました。
兵隊のシモンはタラスにこう言いました。
「おれは国一つを平げて大へん立派な暮しをしている。がしかし、部下の兵隊に食わして行くだけの金がない」
すると肥満のタラスはこう言いました。
「おれはまた金はどっさりもうけたがそれを番するものがない」
すると兵隊のシモンは言いました。
「じゃ二人でイワンのところへ行こうじゃないか。あれに言っておれはもっと兵隊をこさえさせて、それにお前のお金の番をさせる。またお前はもっとあれに金をこさえさせてもらってそれでのおれの部下に食べさせればいい」
そこで二人は、イワンのところへ行きました。
そして兵隊のシモンは、イワンにこう言いました。
「ねえイワン、おれのところには兵隊がもっとたりない。もう二、三把分こさえておくれ」
イワンは頭をふりました。
「いいや、わしはもう兵隊はこさえない」
とイワンは言いました。
「でもお前はこさえてやると約束したじゃないか」
「約束したのは知っているが、わしはもうこさえない」
「なぜこさえない、馬鹿!」
「お前さんの兵隊は人殺しをした。わしがこの間道傍の畑で仕事をしていたら、一人の女が泣きながら棺桶を運んで行くのを見た。わしはだれが死んだかたずねてみた。するとその女は、シモンの兵隊がわしの主人を殺したのだと言った。わしは兵隊は唄を歌って楽隊をやるとばかり考えていた。だのにあいつらは人を殺した。もう一人だってこさえてはやらない」
こう言っていつまでもがんばって、イワンは兵隊をこさえませんでした。
肥満のタラスも、もっとお金をこしらえてくれとイワンにたのみました。
しかしイワンは頭をふって、
「いいや、もうこさえない」
と言いました。
「お前はこさえると約束したじゃないか」
「そりゃした。だがもうこさえない」
「なぜこさえない、馬鹿!」
「お前さんのお金がミカエルの娘の牝牛を奪って行ったからだ」
「どうして?」
「ただ持って行ってしまったんだ。ミカエルの娘は牝牛を一匹もっていた。その家の子供たちはいつもその乳を飲んでいた。ところがこの間その子供たちがわしの家へやって来て、乳をくれと言った。で、わしは『お前んとの牝牛はどうしたんだ』とたずねた。すると『肥満のタラスの家の支配人がやって来て金貨を三枚出した。するとお母は牝牛をその男にくれてしまったので、おれたちの飲むものがなくなった』と言った。
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