初級翻訳・ガリバー旅行記 第9話

ガリバー旅行記

そのため、二ヵ月とたたないうちに、私はもう少しで殺されるところでした。

さて、私が敵の艦隊を引っ張って戻ってから、二週間ばかりすると、ブレフスキュ国から、和睦を求めて、使がやって来ました。
この講和は、わが皇帝側に非常に都合のよい条約で、結ばれました。
使節は六人で、それに、約五百人の従者がしたがいました。
彼等が都に入って来るときの有様は、いかにも、君主の大切なお使いらしく、実に壮観でした。
我也彼等使節のためには、何かと宮中で面倒をみてやりました。
条約の調印が終ると、彼等は私のところへも訪ねて来ました。
私が彼等に好意を持っていたことは、それとなく彼等も聞いてわかったのでしょう。
彼等はまず、私の勇気とやさしさをほめ、それから、
「われわれの皇帝も、かねてから噂であなたのことを聞いています。あなたの力業を、ひとつ実地に見せてもらいたいと言っています。どうかぜひ一度お出かけください。」
と言うのでした。
私も、すぐ承知しました。
しばらくの間、私は使節たちを、いろいろともてなしましたが、彼等もすっかり満足し、私に驚いたようです。
そこで、私は彼等にこう言っておきました。
「あなた方がお国へ帰られたら、陛下によろしくお伝えください。陛下のほまれは、世界中に知れわたっていますから、私もイギリスに帰る前に、ぜひ一度お目にかかりたいと存じます。」
そんなわけで、私はリリパット皇帝にお目にかかると、さっそくこんなお願いをしました。
「そのうち私はブレフスキュ皇帝に会いに行きたいと思っているのですが、どうか行かせてくださいませ。」
皇帝は許してくれましたが、ひどく気の乗らない御様子でした。
これはどうしたわけなのか、私にはその頃わからなかったのですが、間もなく、ある人から、こんなことを聞かされました。
私が使節たちと仲よくするのを見て、
「あれはああして、いまにブレフスキュ国の味方になるつもりです。」
と、皇帝に告げ口した者がいたのです。
大蔵大臣のフリムナップと海軍提督のボルゴラムの二人がそれです。
ここでちょっとことわっておきますが、私と使節たちとの面会は通訳つきで行われたのです。
なにしろ両国の言葉はひどく違っているのでしたが、リリパットの方でも、ブレフスキュの方でも、自分の国の言葉こそ、一番、古くからあって、美しく、立派な、力強い、言葉だ、と自慢しているのです。
そして、お互に相手の国の言葉は、野蛮だ、と軽蔑しているのでした。しかし、リリパットの皇帝は、敵の艦隊を捕虜にしたのですから、鼻っぱしが強かったわけです。
使節団には、書類も談判も、みんなリリパット語を使わせました。
もっとも、この両国は、絶えずお互に行ったり来たりしているので、両方の国語で話ができる人もたくさんいます。
世間を見たり、人情風俗を理解するために、貴族の青年や、お金持たちが、互に行き来していましたから、貴族でも、商人でも、人夫でも、海岸に住んでいる人々なら、大がい、両方の言葉を知っていました。
前に私が釈放してもらうとき、あの誓約書には、いろいろと情ない役目が決められていたものです。
ところが、私は今この国の一番高い位のナーダックになったのですから、あんな仕事は私に似合いません。
皇帝ももう、そんなことは一度もお命じにならなかったのです。
ところが、間もなく、陛下に対して、大変な働きをしなければならない事件が起きたのです。
ある真夜中のこと、私はすぐ門口で、数百人の人が大声で何か叫んでいるのを聴きました。
はっとして目を覚ましたが、私も多少びっくりしました。
外では、

バーラム
バーラム

という言葉が絶えず聞こえてきます。
と思うと、群衆を押し分けながら、宮廷の人たちが私のところへやって来ました。
「火事です! 宮殿が火事です! 早く来てください!」
聞けば、皇后の御殿で、一人の女官が本を読みながらうたた寝していると、いつの間にか火がついて、大ごとになったというのです。
私はすぐ、はね起きました。
私の通り路をあけろ、という命令は前もって出ていました。
月夜で路は明るかったし、私は一人も人を踏みつけないで、宮殿まで来ました。
見ると、宮殿の壁には、もう、いくつも梯子がかけられ、バケツが運ばれています。
でも、なにぶん、水は遠くから運ばれているらしいのです。
人々はどんどんバケツを私のところへ持って来ますが、バケツといっても、大きさは指袋ぐらいですから、これでは、ちょっと、あの火は消せそうもありません。
私は上衣さえあれば、すぐ消してしまうのですが、急いだので、つい着てくるのを忘れたのです。
着ているのは革チョッキだけでした。
これでは、もうダメかなあ、あぁ、あの立派な御殿が、みすみす焼ける、と私は悲観しかけていました。
ところが、ふとこのとき、私には、素晴らしい考えが浮んできました。
その晩、私はグリミグリムという、非常においしい、お酒をたんと飲んでいました。
火事騒ぎで、動き回っていると、身体はカッカとほてって、お酒のききめがあらわれてきました。
私は今にも、おしっこが出そうになったのです。
そこで、私は思いきって、火の上に、おしっこを振りかけていきました。
三分間もしないうちに火事はすっかり消えてしまいました。
これでまず、綺麗な宮殿は、丸焼けにならないで助かったのです。
火事が消えたとき、もう夜は明けていました。
私は皇帝に、喜びの挨拶も申し上げないで、家に戻りました。
私は消防夫として、非常な手柄をたてたのですが、しかし、皇帝が私のやり方をどう思われるか、心配でたまらなかったのです。
この国の法律では、たとえどんな場合でも、宮城の中で、立小便をするような者は、死刑にされることになっていました。
しかし私はその後、皇帝から、特別に罪を許すよう取りはからってやる、と、お手紙をいただいたので、これで少し安心していました。
けれども、それもやっぱりダメでした。
皇后は私のしたことを、大変ご立腹になり、
「今にきっと思い知らせてやる。」
とおそばの者に言われたそうです。
そして、もとの建物はもう嫌だから、修繕させないことにされて、宮中の一番遠い端へ引っ越されました。
さて、私はここで、リリパット国の風俗を少し説明しておきたいと思います。
この国の住民の身長は、平均して、まず六インチ以下ですが、その他の動物の大きさも、これと、正比例してできています。
まず一番大きい牛や馬でも、せいぜい四インチか五インチぐらい、羊なら一インチ半ぐらい、鵞鳥なんか、ほとんど雀ぐらいの大きさです。
だんだんこんなふうに小さくなってゆきますが、一番小さな動物など、私の目では、ほとんど見えません。
ところが、リリパット人の目には、非常に小さなものでも、ちゃんと見えるのです。
彼等の目は、細かいものなら、よく見えますが、あまり遠いところは見えません。
雲雀は普通の蠅ほどもない大きさですが、リリパットの料理人は、ちゃんと、その毛をむしることができます。
それから私が感心したのは、若い娘が、見えない針に、見えない糸を通しているのです。

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