剛子さんは、この財産を私自身が使うよりも、もっと世の中のために役立つ使い方をしてくれるだろうと、心から信じて疑いません。
私は今朝までかかって必要な書類をすべて揃えておきましたから、あとは私の弁護士が海外の銀行との手続きをすませて、遅くとも今年のクリスマスごろまでには、それを剛子さんにお渡しできるように尽力してくれることでしょう」
山本さんはそう言うと、キャラコさんのほうへ体を向け、こんなふうに尋ねました。
「剛子さん、あなた、この相続を引き受けてくれますね」
するとキャラコさんは、あっさりとこう答えました。
まるで、お菓子の箱でももらったときのような、あっさりとした短いお礼の言葉だったので、集まったみんなは思わず声を合わせて笑い出しました。
そこへ、秋作さんが突然立ち上がり、こんなことを言いました。
「剛子の美しい心根は、質素な家庭で育ったからこそ、いっそう磨かれることになったとも言えるのです。
……この子にそんな大金をお渡しくださるのは大変ありがたいことですが、その大金のせいで、剛子のすぐれた性質をダメにしてしまいはしないかと、それがとても心配なのです。
……失礼な物言いをするようですが、人間の美しい心に比べたら、お金なんてたいして価値のあるものではありませんからね」
すると山本さんは優しい笑みを浮かべ、胸のベストから一枚の小切手をスッと取り出してこう言いました。
「お言葉ですが、私は、剛子さんがお金ごときで性格が損なわれるような人ではないと深く信じています。
……それでは、最終的な決定を下す前に、こんなテストをしてみましょう。
……ここに、今すぐ自由に使っていい二十万円のお金があります。
このお金を、あなたはどのように使うつもりなのか、明日の朝までに返事を聞かせていただきましょう。
その使い道が、誰もが『当然だ』と思うような、最も自然で、最も役に立つ使い方であったなら、私は安心して財産を彼女にお任せすることにしましょう。
さて、それでいかがでしょうか?」
次の朝、「社交室」で、槇子さんと猪股さんの婚約が取り消され、なんと槇子さんと秋作さんの婚約が新たに発表されました。
山本さんも、「社交室」に集まった一同も、この二十万円の使い道を聞いて、それが最も自然で、もっとも正当な使い道であると満場一致で認めました。
ホテルの一同は、この日開通したばかりの伊豆の停車場まで山本さんを見送りに行き、プラットホームで元気よく万歳を三唱しました。
山本さんの白髪が混じったもみあげのあたりに、まばゆい朝日がキラキラと輝いていました。
山本さんは列車の窓から上半身を乗り出し、しっかりと口を引き結んだまま、みんなの万歳に深くうなずき返していました。
キャラコさんは胸がいっぱいになり、感動のあまり声が出なくなってしまいました。
喉の奥にまるで固いしこりのようなものができたように詰まってしまい、何度咳払いをしてみても、ちっとも楽になりませんでした。
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