初級翻訳・トム吉と宝石 第2話

トム吉と宝石

この青みがかった穴のあいている石は、大昔の「曲玉(まがたま)」であり、光っているのは何とダイヤモンドだったのでした。
トム吉は、宝石店にいた間に、これとそっくりなものを一度だけ見たことがありました。
そして、それが驚くほど高値で取引されていたのを記憶していたのです。
いま、この珍しい宝物の曲玉が、砂漠の中で見つかったというのは、昔、隊商のグループがここを往来していたからなのだと分かりました。
「これが俺のものだったら、どんなに大金持ちになれるだろう……」
と、トム吉は悔しがりました。
彼は、若者がこの石の値打ちを全く知らないことをいいことに、この砂漠を旅している間に何とかして自分のものにしてやろうと企み、わざと平気な顔をして言いました。
「ボタンにしては、あまりにもお粗末な代物ですね。
どうせ、現地の子供が首にかけて遊んでいたものかもしれないですよ」
こう言って、若者の手に石を返しました。
陽気な若者は、荷物のひもをほどいて糸を作り、曲玉に通すと、おどけた調子で自分の首にかけて歩き出しました。
そして、いつの間にかその石のことなどすっかり忘れ、別の楽しげな話で盛り上がり、笑い合っていました。
しかしトム吉だけは、若者の首にかかった曲玉が歩くたびに揺れるのを見つめたり、ダイヤモンドが長い間砂に埋もれていたせいで少し曇ってはいるものの、磨けばどこまでも眩しく輝くはずだと思ったりして、すっかりそのことに気を取られてしまいました。上の空で生返事を返すだけで、これまでのように会話に身が入らなかったのです。
それどころか、トム吉の頭の中は、
「どう言えば、うまく騙してあの曲玉を自分のものにできるだろうか」
ということだけで一杯でした。
トム吉は、どこまでも果てしない砂漠の空にぽつんと浮かぶ白い雲を仰ぎ見ながら、こう思いました。
「人間の運命なんて、本当にわからないものだ。
いま僕たちはこうして同じように貧乏をしているけれど、これからあちらの町へ着いて、あの曲玉が宝石商に買い取られたら、その瞬間からこの男はもう貧乏人ではなく、大金持ちになれるんだ。
そして自分は、相変わらずこのままの冴えない姿でいるのだろう」
そんなことを考えていたのでした。

やがて日数が経ち、二人はついに砂漠を通り抜けました。
ある日の夕暮れ時、二人は目の前に紫色の海を見つけました。
「あ、海だ!」
「海だ!」
二人は声を合わせて叫びました。
真っ赤な夕日が、ちょうど波間に沈もうとしているところでした。
二人は遠く歩いてきた道を振り返りながら、岩の上に腰を下ろして休みました。
押し寄せる波が足もとに砕けては引き返し、また押し寄せてきています。
トム吉にも、そして若者自身にも、おそらく分かっていなかったことでしょうが、若者は首にかけていた糸をいつの間にかはずし、人さし指にはめてクルクルと回していました。
そして、トム吉が「はっ」と息をのんだその瞬間、糸から指輪が離れ、曲玉は波の中にポチャンと落ちて、すっかり飲み込まれてしまったのです。
若者はそんなことには一向に気づきもせず、口笛を鳴らしながら、この限りなく美しい景色に見とれていました。しかしトム吉は、失望と後悔とやり場のない悔しさで、顔の色がすっかり青ざめていました。

翌日、ここまで道連れとして一緒に旅をしてきた二人も、いよいよお別れしなければなりませんでした。
若者はトム吉に向かって、
「もし僕が成功して大金持ちになったら、きっとあなたの町へ尋ねに行きます。
そしてあなたをお助けします。
どうかお元気でいてください」
と言って、しっかりと力強く手を握り合いました。
そして、二人はそれぞれの道、右と左へと分かれて歩き出したのでした。トム吉は立ち止まって、だんだんと遠ざかっていく若者の後ろ姿を見送っていましたが、完全にその姿が見えなくなってしまうと、その場に崩れ落ちるように倒れ込み、声を上げて泣きはじめました。

「どうしてあのとき、自分があんな卑しい企みなんて起こしてしまったのだろう。もしあのとき正直にしていれば、自分が骨を折ってあの宝石を高く売ってあげたら、あの男は思いがけない大金を手にして喜び、きっと半分のお金を分けてくれたに違いない。
そうしていれば、二人とも幸せに、今ごろは楽しい旅を続けていたはずなのに……」
と、トム吉は激しく後悔しました。

トム吉はしばらくの間そうして泣いていましたが、やがてよいしょと立ち上がりました。
「これからはいつでも正直でいよう。自分だけが得をしようなどというセコい考えはもう二度と起こさない。
そうだ、俺には優しい姉さんがいたんだ。
町へ帰ったら、これからは姉さんのために尽くそう……」
そう心に誓い、トム吉は目指す町の方角へと歩き出していきました。

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