そのとき、ふいと戸があいて、化けそうに年とったばあさんが、しゅもく杖にすがって、よちよち出て来ました。
ヘンゼルもグレーテルも、これにはしたたかおどろいたものですから、せっかく両手にかかえたものを、ぽろりとおとしました。
ばあさんは、でも、あたまをゆすぶりゆすぶり、こういいました。
「やれやれ、かわいいこどもたちや、だれにつれられてここまで来たかの。
さあさあ、はいって、ゆっくりお休み、なんにもされやせんからの。
」
こういって、ばあさんはふたりの手をつかまえて、こやの中につれこみました。
中にはいると、牛乳だの、お砂糖のかかった、焼きまんじゅうだの、りんごだの、くるみだの、おいしそうなごちそうが、テーブルにならばりました。
ごちそうのあとでは、かわいいきれいなベッドふたつに、白いきれがかかっていました。
ヘンゼルとグレーテルとは、その中にごろりとなって、天国にでも来ているような気がしていました。
このばあさんは、ほんのうわべだけ、こんなにしんせつらしくしてみせましたが、ほんとうは、わるい魔女で、こどもたちのくるのを知って、パンのおうちなんかこしらえて、だましておびきよせたのです。
ですから、こどもがひとり、手のうちに入ったがさいご、さっそくころして、にてたべて、それがばあさんのなによりうれしいお祝い日になるというわけでした。
魔女は、赤い目をしていて、遠目のきかないものなのですが、そのかわり、けもののように鼻ききで、人間が寄ってきたのを、すぐとかぎつけます。
それで、ヘンゼルとグレーテルが近くへやってくると、ばあさんはさっそく、たちのわるい笑い方をして、
「よし、つかまえたぞ、もうにげようったって、にがすものかい。
」と、さもにくてらしくいいました。
そのあくる朝もう早く、こどもたちがまだ目をさまさないうちから、ばあさんはおきだして来て、ふたりともそれはもう、まっ赤にふくれたほっぺたをして、すやすやと、いかにもかわいらしい姿で休んでいるところへ来て、
「こいつら、とんだごちそうさね。
」と、つぶやきました。
そこで、ばあさんは、やせがれた手でヘンゼルをつかむと、そのまま小さな犬ごやへはこんで行って、ぴっしゃり格子戸をしめきってしまいました。
ですからヘンゼルが、中でいくらわめきたいだけわめいてみせても、なんのやくにもたちません。
それから、ばあさんは、またグレーテルの所へ出かけて、むりにゆすぶりおこしました。
そうして、
「このなまけもの、さあおきて、水をくんで来て、にいさんに、なんでもおいしそうなものを、こしらえてやるんだ。
そとの犬ごやに入れてあるからの、せいぜいあぶらぶとりにふとらせなきゃ。
だいぶ、あぶらののったところで、おばあさんがたべるのだからな。
」と、わめきました。
こうきいて、グレーテルは、わあっと、はげしく泣き立てました。
けれどなにをしたってむだでした。
このたちのわるい魔女のいいなりほうだい、どんなことでも、グレーテルはしなければなりませんでした。
こんなしだいで、きのどくに、たべられるヘンゼルには、いちばん上等なお料理がつきました。
そのかわり、グレーテルには、ザリガニのこうらが、わたったばかりでした。
まい朝まい朝、ばあさんは犬ごやへ出かけて行って、
「どうだな、ヘンゼル、指をだしておみせ。
そろそろあぶらがのって来たかどうだか、みてやるから。
」と、わめきました。
すると、ヘンゼルはたべあましのほそっこい骨を、一本かわりに出しました。
ところで、ばあさんはかすみ目しているものですから、見わけがつかず、それをヘンゼルの指だとおもって、どうしてヘンゼルにあぶらがのってこないか、ふしぎでなりませんでした。
さて、それから、かれこれひと月たちましたが、あいかわらずヘンゼルは、やせこけたままでした。
それで、ばあさんも、とうとうしびれをきらして、もうこの上待ちきれないとおもいました。
「やいやい、グレーテル。
」と、ばあさんは妹の子にむかってわめきたてました。
「さあ、さっさといって、水をくんでくるのだ。
ヘンゼルのこぞうめ、もうふとっていようが、やせていようが、なにがなんだって、あしたこそ、あいつ、ぶっちめて、にてくっちまうんだからな。
」
やれやれ、どうしましょう。
かわいそうに、この妹の子は、むりやり水をくまされながら、どんなにはげしく泣きじゃくったことでしょう。「神さま、どうか私たちをお助けくださいまし!」
少女は声をあげて泣きました。
「いっそ森の中で、猛獣に食べられてしまったほうがよかったわ。
そうすれば、ふたり一緒に死ぬことができたんだもの」
「うるさいぞ、この小娘め!」と、ばあさんは怒鳴りました。
「いくら泣いたってわめいたって、どうにもなりゃしないんだからね」
翌朝早くから、グレーテルは外へ出され、水がいっぱいに張られた大鍋をつるして、火をつけなければなりませんでした。
「まずはパンを焼くんだよ」と、ばあさんは言いました。
「パン焼きかまどにはもう火が入っているし、練り粉もちゃんとこねてあるからね」
こう言うと、ばあさんはかわいそうなグレーテルを、パン焼きかまどのほうへ荒々しく突き飛ばしました。
かまどの中からは、すでに赤く長い炎が舌を出してゆらめいていました。
「中へはいってごらんよ」と、魔女は言いました。
「火がちゃんと回っているか確かめるんだ。ちょうどよければ、すぐにパンを入れるからね」
もしここでグレーテルが中に入ったら、ばあさんはすぐにかまどのふたをぴしっと閉めてしまうつもりでした。
そして、グレーテルを中でこんがりと焼き上げて、一緒に食べちゃおうと企んでいたのです。
でも、グレーテルは魔女の腹の中を、一足先に見抜いていました。
そこで、こう言いました。
「あたし、やり方がわからないわ。どうしたらいいのかしら? 中に入るって、一体どういうふうにするの?」
「バカだねぇ、このくそガキが!」と、ばあさんは怒鳴りました。
「口はこんなに大きいでしょ、目をよく開けて見てごらんよ。このとおり、おばあさんだってすっぽり入れるじゃないか」
そう言いながら、ばあさんは這うようにして近づき、パン焼きかまどの中に首をつっこみました。
ここぞとばかりに、グレーテルは後ろから思いっきりどんっと突き飛ばしました。
その勢いで、ばあさんはかまどの奥へころげ落ちました。
グレーテルはすぐに鉄の戸をバタンと閉め、かんぬきをしっかりとかけてしまいました。
「うおっ、うおっ!」
ばあさんは恐ろしい声でわめき声をあげました。
けれどグレーテルはお構いなしに駆け出しました。
こうして、罰当たりな魔女は、哀れな姿のまま焼き殺されたのです。
グレーテルはまっしぐらに、ヘンゼルが閉じ込められている場所へと駆け戻りました。
そして、犬小屋の戸を開けるなり、こう叫びました。
「ねえヘンゼル、私たち助かったわ! 魔女のばあさん、死んじゃったのよ!」
戸が開くと同時に、ヘンゼルはまるで鳥がカゴから飛び出すように、勢いよく飛び出してきました。
ああ、あのときふたりがどれほど喜び合ったことでしょう! お互いの首にしがみつき、ぐるぐる回り、頬ずりし合ったことか。
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