むかしむかし、あるところに、奥さんに先立たれたお父さんと、旦那さんに先立たれたお母さんがいました。
お父さんには一人娘がいて、お母さんにも一人娘がいました。
ふたりの娘はお互いのお友達でした。
ある日、ふたりでお散歩から帰る途中、お母さんのほうの家に立ち寄りました。
すると、お母さんがお父さんの娘に向かってこう言ったのです。
「ねえ、お父さんにこう伝えておくれ。
私がお父さんのお嫁さんになりたいってね。
そうすれば、あんたには毎朝ミルクで顔を洗わせてあげるし、美味しいブドウ酒も飲ませてあげるよ。
もっともうちの娘には、水で顔を洗わせて、水だけ飲ませておくけどね」
娘は家に帰ると、お母さんが言ったことをそのままお父さんに話しました。
すると、お父さんは言いました。
「いったいどうしたものかな。
お嫁さんをもらうのはうれしいことだが、そのぶん苦労もあるからなあ」
お父さんはどちらにするか決めかねて、ついに自分の長い靴を脱いでこう言いました。
「この長靴を持って行ってくれ。
この靴には底に小さな穴がひとつあいているんだ。
これを屋根裏部屋へ持っていって、大きなくぎに引っ掛けて、中に水を注ぎ込んでみておくれ。
もし水がもれなかったら、もう一度お嫁さんをもらうことにしよう。
だが、もしも水がもれてしまったら、お嫁さんをもらうのはやめだ」
娘は言われた通りにしました。
ところが、不思議なことに水のせいで靴の穴がふさがってしまい、長靴の中は一番上まで水がいっぱいになったのです。
娘はこのことをお父さんに話しました。
お父さんが自分で屋根裏へ上がって確かめてみると、確かに娘の言う通りでした。
そこで、さっそくその後妻の家へ行って、お嫁さんになってほしいと頼みました。
こうして、結婚式が無事に挙げられました。
次の日の朝、ふたりの娘が目を覚ますと、お父さんの娘の前には顔を洗うためのミルクと飲むためのブドウ酒が置いてありましたが、お母さんのほうの娘の前には顔を洗う水と飲む水が置いてありました。
二日目の朝には、お父さんの娘の前にもお母さんの娘の前にも、顔を洗う水と飲む水が置いてありました。
そして三日目の朝になると、お父さんの娘の前には顔を洗う水と飲む水が置いてあったのに、お母さんのほうの娘の前には顔を洗うミルクと飲むブドウ酒が置いてありました。
そして、それからはずっとそのままでした。
お母さんは、連れ子であるお父さんの娘が、まるで蛇やサソリのように憎くてたまりませんでした。
なんとかして毎日ひどいめにあいしてやろうと、そんなことばかり考えていました。
そのうえ、連れ子の娘は美しくて愛らしいのに、自分の本当の娘といったらみにくくてぞっとするほどでしたから、なおさらねたましくて仕方がなかったのです。
ある冬の日のことでした。
地面は石のようにカチカチに凍りつき、山にも谷にも一面に雪が降り積もっていました。
お母さんは紙で作った着物を用意すると、連れ子の娘を呼んでこう言いました。
「さあ、この着物を着て森へ行き、かごいっぱいにイチゴをとってきておくれ。
私はイチゴが食べたいんだよ」
「まあ、お母さん!」
と娘は言いました。
「こんな冬の時期に、イチゴなんかいやしませんわ。
地面は凍っていますし、おまけに雪がすっかり積もっていますもの。
それに、どうしてこんな紙の着物を着ていかなければいけないんですの。
外は息も凍ってしまうくらい寒いんですよ。
こんな着物じゃ風もスースー通りますし、いばらに引っかかってすぐにちぎれてしまいますわ」
「また口答えをする気かい?」
とお母さんは言いました。
「さっさとお行き!
このかごにイチゴがいっぱいになるまでは、二度と戻ってくるんじゃないよ」
それから、お母さんはかたいパンをひと切れ手渡し、
「これだけあれば一日ぶんの食事になるよ」
と言いました。
でも心の中ではこう思っていました。
(外へ出たら、寒さで凍えて飢え死にするだろうから、もう二度と私の目の前に姿を現すことはないだろうさ)
娘はおとなしく言いつけを守り、紙の着物を着て、かごを持って出かけました。
外は見渡す限り雪ばかりで、緑の草などはどこにも見当たりません。
娘が森の中へ入っていくと、ぽつんと一軒の小さな小屋が見えました。
その窓からは、三人の小人が顔をのぞかせていました。
娘は「こんにちは」と言って、おずおずと戸を叩きました。
すると小人たちは「お入りなさい」と言いました。
そこで娘は部屋に入り、暖炉のそばの椅子に腰を下ろしました。そして、冷えた体をあたためながら、持ってきたいちごのパン(朝ごはん)を食べようと思いました。
それを見て、小人たちがおねだりしました。
「ねえ、ぼくたちにもすこし分けておくれよ」
「いいわよ、あげますとも!」
女の子はそう言ってパンをふたつに割り、半分をみんなに気前よく分けてあげました。
「こんな真冬のまっさいちゅうに、きみはそんなうすっぺらい着物を着て、この森の中でいったいなにをするつもりだい?」
と、小人たちがたずねました。
「それがね……このかごがいっぱいになるまで、イチゴをさがさなきゃならないの」
と、女の子は困った顔で答えました。
「イチゴを見つけて持って帰らないと、おうちに帰れないのよ」
女の子がパンを食べおわると、小人たちは一本のほうきをわたして、こう言いました。
「それじゃあ、これでうら口のところの雪をきれいに掃いておくれ」
女の子が外へ出ていってしまうと、そのあとで、三人の小人たちは顔を見合わせ、相談を始めました。
「あの女の子は、あんなにおとなしくて心優しく、それに大切なパンだってぼくたちにわけてくれた。
お礼に、なにか素晴らしい魔法をかけてあげようじゃないか。なにが良いだろう?」
すると、一人の小人が言いました。
「ぼくは、あの女の子が日ましにどんどん美しくなるようにしてやろう」
二番目の小人が言いました。
「ぼくは、あの女の子が口をきくたびに、そのかわいい口からきらめく金貨がぽろぽろととびだすようにしてやろう」
そして三番目の小人はこう言いました。
「ぼくは、どこかの立派な王さまがやってきて、あの女の子をお妃さまにするようにしてやろう」
そのころ女の子は、小人たちにいわれたとおり、小さな家のうしろへまわって、ほうきで雪をきれいに掃きよけていました。
ところでみなさん、このとき、女の子がなにを見つけたと思います?
なんと、真っ赤にじゅくしたイチゴの実ばかりが、もうすっかり黒っぽくうれるほど、あたり一面に雪の中からむくむくと顔をだしていたのです!
女の子は大よろこびで、さっそくイチゴをかごいっぱいに大急ぎでつみとりました。
それから、小人たちに心からのお礼をいって、一人ひとりとやさしく握手をしました。
「まま母さまがきっと喜んでくれるわ」
女の子は、のぞみのものを持っていってあげようと、うれしさで走りながら家へ帰りました。
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