そのうちに、椅子に座った若者は目が痛くなってきたらしく、ついまばたきをしてしまいました。
皿の上のテジマアは、じりじりと顔をそっちへ近づけていきます。
若者はまた五回ほど続けてまばたきをして、ついに我慢できなくなったのか、両手で目を覆い隠してしまいました。
皿の上のテジマアは、落ち着いた様子でにゅうと顔を差し出しました。
若者は、ガタンと椅子から転げ落ちました。
テジマアは皿の上にスッと立ち上がると、ひらりと飛び降りて、自分が椅子にどっかりと座りました。そして床の上に倒れている若者を、いとも簡単に皿の上につまみ上げました。
その時、給仕がキラキラ光る金でできたナイフを持ってきて、テーブルの上に置きました。
テジマアはちょっとうなずくと、ポケットから財布を取り出し、大きな紙幣を一枚引き抜いて給仕に握らせました。
「今度の旦那は、なんて太っ腹なんだ」
給仕のばけものはそうつぶやきながら、幕の中へ消えていきました。
そこでテジマアは、ナイフを手に取ると、皿の上の若者を「もにゃもにゃもにゃっ」と切り刻んで、フォークに刺して「むにゃむにゃむにゃっ」と食べてしまいました。
その時、「バアッ!」と声がして、食べられたはずの若者が床の下から飛び出してきました。
「君、無事でよかったね」
テジマアはそう言いながら若者の手を取って、五、六回ほどぶんぶんと振りました。
「テジマア、テジマア!」
「うまいぞ、テジマア!」
みんなはどっと大歓声を送りました。舞台の上の二人は、手をしっかり握ったまま、ふいっとおじぎをして、それから、
「バラコック、バララゲ、ボラン、ボラン、ボラン」と変な歌を大きく歌いながら、幕の中に引っ込んでいきました。
ボロン、ボロン、ボロロンと、どらがまた鳴り響きました。
舞台が月光のようにさっと青くなりました。
それからだんだんとのんびりした、いかにも春らしい桃色に変わっていきました。
まっ黒な着物を着たばけものたちが、右と左から十人ほど、大きなシャベルを持ったり、キラキラ光るフォークをかついだりして出てきました。
「おキレの角はカンカンカン
ばけもの麦はベランべランベラン
ひばり、チッチクチッチクチー
フォークのひかりはサンサンサン。
」
と、ばけもの世界の農業の歌を歌いながら、畑を耕したり種をまいたりするようなまねを始めました。
すると、床からベランベランベランと大きな緑色のばけもの麦の木が生え出し、あっという間に立派な茶色の穂を出し、小さな白い花をつけました。
舞台が燃えるように赤く光りました。
「おキレの角はケンケンケン
ばけもの麦はザランザララ
とんびトーロロトーロロトー、
鎌のひかりは シンシンシン。
」
と、みんなは足踏みをして歌いました。
たちまち穂は立派な実になって、頭をずうっと垂れました。
黒い着物を着たばけものどもは、いつの間にか大きな鎌を持っていて、それをサクサクと刈り始めました。
歌いながら、踊りながら刈っていきました。
見る見るうちに麦の束は山のようになって、舞台の真ん中に積み上げられました。
「おキレの角はクンクンクン
ばけもの麦はザック、ザック、ザ、
からすカーララ、カーララ、カー、
唐箕(とうみ)のうなりはフウララフウ。
」
みんなはいつの間にか棒を持っていました。
そして麦束がポンポンと叩かれたと思うと、もうあっという間に粒がぽろぽろと落ちていました。
麦の茎や葉は青い炎を上げてめらめらと燃え、あとには黄色い麦粒の小さな山が残りました。
みんなはいつの間にかそれをすり臼にかけていました。
大きな唐箕がもう据え付けられて、フウフウフウと回っていました。
舞台が急に透き通るような黄金色になりました。
立派なひまわりの花が後ろの方にずらりと並んで光っています。
それから、青や紺や黄色のいろいろな色ガラスで作られた羽虫が、波になったり渦巻になったりしながら、キラキラキラキラと飛び回りました。
後ろのまっ黒なビロードの幕が両方にさっと開いて、顔が紺色で髪が火のようにきれいな女の子が、まっ白でひらひらした着物に宝石をいっぱい身につけて、まるで青や黄色の炎のように踊りながら飛び出してきました。
見物客たちはもうみんな、まるで正気を失ったクジラのようなどなり声で、
「ケテン! ケテン!」と叫びました。
女の子は笑ってうなずきながら、みんなに挨拶を返して舞台の前の方へ出てきました。
黒いばけものたちはみんなで麦の粒をつかみました。
女の子も五、六粒それをつまんで、見物客の方に投げました。
それが落ちてくるときには、みんなまっ白な真珠に変わっていました。
「さあ、投げてごらん」と言いながら、十人の黒いばけものたちもみんな真似をして投げました。
バラバラバラバラと真珠の雨が見物客の頭に降り注ぎました。
女の子は笑いながら、何かかすかに呪文のような歌を歌いながらみんなに指図しています。
ペンネンネンネンネン・ネネムはその女の子の顔をじっと見つめました。
たしかに、たしかにそれこそは妹のペンネンネンネンネン・マミミだったのです。
ネネムはついに我慢しきれなくなって、大声で叫びました。
「マミミ!
マミミ!
おれだよ!
ネネムだよ!」
女の子はぎょっとしたようにネネムの方を見ました。
それから何か叫んだようでしたが、声がかすれてこちらまでは届きませんでした。
ネネムはまた叫びました。
「おれだ!
ネネムだ!」
マミミはまるで頭のてっぺんから足の先まで火がついたようにはねあがって、舞台から飛び下りようとしました。すると、黒い助手のばけものどもが麦を投げるのをやめて、ばらばらと走ってきてしっかりと押さえつけました。
「マミミ!
おれだ!
ネネムだよ!」ネネムは舞台へとびあがりました。
幕の後ろから、さっきのテジマアが黄色いゆったりしたガウンのようなものを着て、いかにも落ち着いた様子で出てまいりました。
「騒がしいねえ。
どうしたんだい。
おや、このお方はどうして舞台へお上がりになったのかな」
ネネムはその顔をじっと見つめました。
それこそは、あの飢饉(ききん)の年にマミミをさらったあの黒い男でした。
「黙れ!
忘れたのか?
おれはあの飢饉の年の森の中の子供だぞ!
そしておれは今は世界裁判長だぞ!」
「それは大変よろしい。
だからこそわしもあの時、男の子は強いし大丈夫だと言ったのだ。
女の子の方を見ろ。
このくらい立派になっている。
もうスターというものになっているぞ。
お前も裁判長なら、よく裁判をして礼をよこせよ」
「しかしお前は、なぜしんこ細工なんかで興行をしているんだ?」
「いやいや、いやいややや。
それは実に野蛮な古くからの習慣だな—」この世界がまだなめくじでできていたころの遺風だ。
」
「するとお前のところでは、しんこ細工の興行はしないのかい。」
「もちろんさ。
おれのところの舞台は、みんな美学にしっかりかなっているからね。」
「いや、お前はたいしたもんだ。
それじゃあ、マミミを返してくれ。」
「いいとも。
連れて行きなさい。
けれども、本人が望むなら、またこちらへ寄越してくれてもいいよ。」
「ああ。」
どうです。
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