初級翻訳・ポラーノの広場 第13話

ポラーノの広場

デストゥパーゴは私のことなど気にも留めず、まだ怖そうに顔をゆがめていました。
「どこを刺されたのですか?」
さっきの親方アーティストが、麻のモーニングを着て、大きなフラスコを手ルペインのように持って、みんなをかき分けて立っていました。
そのうちに、二、三人のアーティストたちが、虫捕り網でその小さくて黄色い毒蛾をパッと捕まえてしまいました。
「ここだよ、ここだよ! 早く!」
と言いながら、デストゥパーゴは左目の下を指さしました。
親方アーティストは、大急ぎでフラスコの中の液体をコットンにしみ込ませ、その目の下をゴシゴシとこすりました。
「なんだこの薬は!」
デストゥパーゴが叫びました。
「アンモニアの二パーセント液です。」
親方は落ち着いて答えました。
「アンモニアは効かないって、今朝の新聞に書いてあったじゃないか!」
デストゥパーゴは椅子からガバッと立ち上がりました。
デストゥパーゴはピンク色のシャツを着ていました。
「どの新聞をご覧になったのですか?」
親方はますます落ち着いて答えました。
「センダート日日新聞だ!」
「それは間違いです。
アンモニアが効くことは、県の衛生課長も公式に発表しています。」
「あてにならんね!」
「そうですか。
とにかく、だいぶ腫れてきちゃったようですね。」
親方アーティストは、ちょっとしゃくにさわったのか、プイッと後ろを向いて、フラスコを持ったまま向こうへ行ってしまいました。
デストゥパーゴはプンプンと怒り出しました。
「失礼じゃないか! 明日は僕は陸軍の獣医官たちと大事な約束があるんだぞ。
こんな顔になっちゃったら、相手の気分を害するだけじゃないか。
きさまの店を訴えてやるからな!」
と言いながら、どんどん赤く腫れていく自分の頬を鏡で見ていました。
親方も腹を立てて言い返しました。
「なんだい、毒蛾なんて街中の至るところにいるんだ。
町を歩いていて刺されたからって、市長でも相手に訴えたらいいだろうさ!」
デストゥパーゴは渋々また椅子に座り、
「おい、早くあとを済ませてくれ! 早く!」
と言いました。
そして、しきりにおかしな形に変形していく自分の顔を気気にしながら、残りの半分のヒゲを剃らせていました。
私も急ぎました。
でも、どう考えても私のほうが早く終わるはずです。
それでも、相手が先に終わったらこっちもすぐ出られるようにと、そっと財布を探って大きな銀貨を一枚しっかりと握りしめていました。
ところが、なぜか私担当のアーティストのほうが、私よりもっと焦っていました。
そしてしきりに時計ばかり見ています。
私の顔なんて、まるで三十五秒くらいで一気に剃り上げてしまいました。
「さあ、お顔を洗いましょう!」
私はデストゥパーゴに気づかれないように、手で顔を隠しながら大理石の洗面台の前に立ちました。
アーティストは冷たい水で「シャアシャア」と私の頭を洗い、時々は自分の指で私の顔も拭いてくれました。
そして私は自分で勝手に顔を洗い、もう一度椅子に腰かけました。
その時、親方が叫びました。
「さあ、もう一分しかないぞ! 電気が消えるうちに大事なところは終わらせちまえ!
それから、アセチレンの準備はいいか!?」
「すっかりできています!」
小さな白い服を着た男の子が答えました。
「持ってこい! 持ってこい! 明かりが消えてからじゃ遅いんだ!」
親方が言いました。
そこでその見習いの子供が、アセチレン灯を四つ運び出して鏡の前に並べ、水を入れて火をつけました。
「プシュー」と激しい音を立てて、アセチレンが燃え始めたのです。
その時でした。
あちこちの工場の汽笛が一斉に鳴り響き、子供たちが叫び、教会やお寺の鐘まで鳴り出し、そして次の瞬間、電気がスッと消えて真っ暗になったのです。電球の代わりにアセチレンガスが使われたことで、あたりはすっかり青い光に包まれました。
それから私は、鏡に映る海の中のような、青い室内の黒く透き通るガラス戸の向こうで、昔の赤く染まるインドを思わせるような炎が燃え盛っているのを見ました。
一人のアーティストが、そこでせっせと薪をくべていたのです。
「今夜は、毒蛾もこれで全滅だな」
誰かが向こうで言いました。
「さあ、どうでしょうねえ」
私の担当のアーティストは、私の頭に金口の小瓶から香水を振りかけながら答えました。
それからアーティストは、私の顔をもう一度丁寧に拭ってから、戸口の方を振り返って、
「ちょっと見てくれ」
と言いました。
アーティストたちは、戸口に立ったり、たき火のそばまで行ったりして外の景色を眺めていましたが、このとき大急ぎでみんな私の後ろに集まってきました。
そして鏡に映る私の顔を、それはそれは真剣な表情でチェックしてから、
「うん、いい具合だな」
と言いました。
私はそこで椅子から立ち上がりました。
ずっと握りしめていてすっかり温かくなった銀貨を一枚支払いました。
そして、あの大きなガラスの戸口を出て表通りに立ちました。
デストゥパーゴの後をつけようと思ったからです。
外に出てみると、私は何とも不思議な気分になり、胸のドキドキを抑えることができませんでした。
それは、あのセンダードの市の立派な西洋造りの建物が並ぶ通りに電気が一つもなく、並木のヤナギの木には黄色くて大きなランプが吊るされ、道路には真っ赤な焚き火がずらりと並んでいて、その煙が優しく深い夜空へと昇り、カシオペヤ座もぐらぐらと揺れ、こと座もうっすらとまたたいていたからです。
どう見てもこれは、はるか南国の夏の夜の風景のように思われました。
私は、お店の窓から何かを覗き込むふりをしながら待ちました。
さまざまな羽虫が、本当にその火の中に飛び込んでいくのも見えました。
あっちでもこっちでも、頭に包帯を巻いたり、布を顔にあてがったりしながら、町の人たちが火を焚いていたのです。
そのうちに私は、向こうの方から、高くて鋭く、そしてどこか不思議な力を含んだ声がこちらに向かってやって来るのを聞きました。
だんだん近づいてくると、それはがっちりとした体つきで、腰が妙に曲がった小さなおじいさんでした。
一枚の板きれのうえに4本のクジラ油のろうそくを立てたものを両手でしっかりと掲げ、しきりにこう叫びながら歩いてくるのでした。
「家の中の灯火を消せーい! 電燈を消したって、ほかの明かりを点けちゃなんの意味もない! 家の中の明かりを消せーい!」
 明かりを点けている家があると、そのおじいさんは一軒一軒の戸口に立って大声で叫ぶのでした。
「家の中の明かりを消せーい! 電燈を消したって、ほかの明かりを点けちゃなんの意味もない! 家の中の明かりを消せーい!」
 その声はガランとした通りに何度も反響してから、闇の中に消えていきました。
この人は、みんなから相当敬われているようでした。
誰もがみな、丁寧に頭を下げてお辞儀をします。
おじいさんはさらに声を張り上げて叫び歩いていきました。
「家の中の明かりを消せーい! 電燈を消したって、ほかの明かりを点けちゃなんの意味もない! 家の中の明かりを消せーい! いやあ、今晩は!」
 叫びながらも、左右にいる人たちにペコリと挨拶を返していくのでした。

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