だからこそ、空の色も光も形も、すべてごまかさずに、あるがままの姿を映し出すのだ。」
従者「だんな様。」
領主(やはり聞こえていないかのように)「それにしても、今日の海はなんて美しく、穏やかなのだろう。これまでにも、ずいぶんと穏やかで美しい夕暮れはあった。だが、今日のように小さな波一つ立たず、トビウオ一匹さえ跳ねないほど静かな夕暮れは、一度もなかったな。今日のこの静けさは、まるで美しいお姫様が静かに息を引き取ったときのようだ。」
従者(心配そうな顔をして)「……美しい人の、死のようだ、ですって!」
領主(急にくるりと振り返って)「おや、お前はいつからそこにいたのだ?」
従者「はい、さっきからずっとお呼びしておりました。」
領主「そうだったか、まったく気がつかなかったな。(と言って、また窓の方を向きます。)どうだ、今日の夕日の美しさは。まるで、この国が新しく生まれたお祝いの日のようではないか。お前の年老いた目にも、少しはきれいで立派に見えるだろう? ほら、見てごらん。半分だけ白い帆を広げた小船が、岩の陰からすーっと現れたぞ。あの船の帆は、夕日を浴びて燃えるように真っ赤に輝いている。そして、その姿が水面に映っている様子は、まるで美しい人魚の姿そっくりだ。あれこそは、人魚の乗る舟に違いない。人魚の舟は、海と空の境目を目指して、まっすぐに進んでいく。太陽がちょうど沈みきるころ、あの舟は地平線の向こうへとたどり着くだろう。沈んでいくお日様と、あの人魚の舟が一緒になって、地平線の向こう側へと消え去るとき……夜空には、丸いお月様がゆっくりと昇り始めるのだ。まるで、白い綿帽子をそっと外されたばかりの花嫁さんのように、恥ずかしそうに、そしてきらきらと輝きながら。お月様は、この美しい地上の景色にうっとりと見とれてしまうことだろうな。」そして、月の光があの絶壁の上の音楽堂を優しく照らし出したとき、あの白い建物は、方解石(ほうかいせき)のように美しく、うっとりするような形で浮かび上がることでしょう。
あの、まるで見習いのお坊さんのような白い衣をまとった音楽堂は――(ちょっと間を置いて)まあそれは月夜のお話ですが、今こうして夕日に照り輝いている姿だって、なんと神々しく美しいことでしょう!
円すい形の銀の屋根は、あふれんばかりの光を一面に放ち、びっしりと打ちつけられた幾万もの銀の鋲(びょう)は、強そうな騎士の鎧(よろい)よりもずっとまぶしく光り輝いています。
白い壁にはバラ色の影がふんわりと映し出し、窓に下がっているカーテンは、恋人の腕にぎゅっとしがみついた女の子のように力なく垂れ下がり、そこに空の七色の虹がまるでキスをするように重なり合っています。
(ちょっと間を置いて)海に突き出した高いお部屋の一角は、まるで岩の上にあるワシの巣みたいに、とっても危なっかしく見えるけれど、そのぶん勇ましさも倍増していて、美しさこそが、その危なっかしくて勇ましい場所にこそ隠されているのです。
あんな高いお部屋の中で、二人きりで恋のお話を語り合えたなら、どんなに楽しいことでしょう!
従者「お頭(かしら)さま!」
領主(うるさそうに)「なんだ、いったい用事は何だというんだ。」
従者「もう窓の外ばかりご覧になるのは、おやめになってくださいませ。」
領主「いいじゃないか、外を見るのは俺の勝手だろ。
お前は言いつけたとおり、お客さまを盛大にもてなす準備をしておきなさい。」
(と言って、また窓の外を向きながら)
ああ、初夏の夕方ほど気持ちのいいものはないな。
草花の花びらの奥には胸が締めつけられるような強い香りが満ちていて、葉っぱの上の露はまるでルビーのようにきらめき、黄金虫(こがねむし)は何かを囁くような恋のうなり声をあげたり、切ない羽音をさせたりしながら、花から花へ、木の枝から木の枝へと飛び回っている。
あらゆる音色や、光や影には、なんとも優しいツヤがまとわりついていて、人々のまなざしには、抑えきれない胸のドキドキや、恋や喜びが、恥ずかしくなるほどあふれ出ている。
(ちょっと間を置いて)
だが、俺の心はどうだ――(まるで何かが爆発するような激しい口調で)俺の心はまるで、国を裏切ろうとする反逆者の心みたいに、いつも苦しくて、気を使い、周りの人の目を気にして、いつだって疑ってばかりいる。
(窓から離れて――すると、まだそこにいた従者と顔が合わせます)
「まだいたのか。」
従者「はい、お殿様のお気持ちがどうなっているのか、それをちゃんとうかがうまではここを離れませぬ。」
領主(いぶかしげに)「俺の心の何をうかがうと言うんだ。」
従者「お隠しになっても、ちゃんとすべてお見通しでございますとも。
はい、ちゃんと分かっておりますとも!
あなたがまだこんなに小さかったころから今日に至るまで、一日たりとも離れずにおそばでお仕えしてきたこの私でございますもの、お殿様のお心の中なんて、自分の心の中よりもずっと詳しく、すっかりお見通しでございますよ。
はい。」
領主「それがどうしたと言うのだ。」
従者「何を隠そうとなさっても、無駄でございます。」
領主(イライラしながら)「しつこい男だな、俺は何も隠してなんかいないじゃないか。
それとも、お前には俺が何かを隠しているように見えるとでも言うのか。」
従者「はい、まさにそのとおりでございます。
お殿様は最近、一から十まで何もかもお隠しになられておりまする。」
領主「別に隠している覚えなんてまったくないがね。それでも、そう隠しているように見えるって言うなら、もうしょうがない。
そう見えるだけのことさ。」
(と言って、再び窓の方へ向かおうとするのを、従者が引き止めます)
従者(じーっと主人の顔を見つめながら)「お顔もすっかりやつれていらっしゃいます。
ほおも額も、青い宝石(サファイア)のように青白くなっておりまする。」
領主「俺はもともと、そんなに太っちゃいないし、顔色も青かったんだよ。
(少し悲しそうに)それに、最近は……。」
従者(言葉を遮って)「あの女の方がこのお屋敷にいらしてからは、なおいっそうお痩せになられたと申し上げても、決して間違いではございませんでしょう。」
領主(顔色一つ変えずに)「何を言っているんだ。」
従者「お気に障りましたなら、どうぞお許しくださいませ。」
領主「別に気にも障らんがね、お前はどうも俺のことをすっかり誤解しているようだ。」
従者「はいはい、ひょっとするとそのとおりかもしれませんな。
いやいや、きっとそのとおりに違いございませんとも。
あんなに頭が良くて、素晴らしい発明をなさっていたお殿様が――(と声を落とし、昔をしみじみと思い出すような様子で)十年前のあの日、あの恐ろしい事件があったばかりに、すっかり様子が変わってしまわれて、すっかり気が抜けたようなお心になり、ずっと部屋に閉じこもってばかりおられました。
初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第3話
レモンの花の咲く丘へ
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