初級翻訳・仔猫の裁判 第2話

仔猫の裁判

「まあ、猫を裁判するんですか?」
「猫裁判だあ……ドロドロドロ……」
「やれやれ、面白いぞ!」
「やることに賛成!」
「あたしも賛成!」
みんな大騒ぎし始めました。

「静かに!」と先生は制してから、みんなを見回してこう尋ねました。
「では、凧や地球儀を壊したのは猫だとハッキリ決まったわけですね? そうですね?」
「そうです!」と、みんなが答えました。
「よろしい。僕も仔猫の仕業だと思います。では仔猫をどうしますか? いま松尾くんが提案したように、裁判にしますか?」
「裁判、賛成!」
子供委員までが「賛成!」と叫びました。

「では、どんなふうにやりましょうか? もう十時過ぎです。なるべく僕は傍聴人に徹して、君たち子供だけでやってみたら面白いだろうと思います。どうかな?」
「やろう!」と、子供委員の木村くんが言いました。
そしてみんなに相談しました。
「どんな形でもいいから、僕たちでやってみようじゃないか? みんな異論はないよね? でも、どんなふうにやるものかなあ?」
「君、裁判官が必要だよ!」
「弁護士もいるぞ――」
みんな口々にしゃべり出しました。

「俺、裁判長になりたいなあ」
「俺は検事だ!」
「俺は代議士だぞ!」
「ばか! 代議士なんか出るわけないだろ!」
また木村くんが立ち上がりました。

「みんな静かにしてくれ。ではね、これから猫の裁判をやろう。本当の裁判がどんなふうに行われるのかはよくわからないけれど、僕たちの裁判には一人の裁判長を置いて、あとの者はみんな弁護士になって、猫の悪いところも言えば、良いところも言って、それで猫の罪を決めることにしようよ。ね、みんなそれでいいだろう?」
「うん、いいよ!」
「それでいい!」

「それでは、裁判長を決めます。誰か、なりたい人はいませんか?」
「木村くん! 君がいいぞ!」
「賛成、賛成!」
みんなパチパチと手を叩きました。

木村くんはみんなの方を向いて、自分の顔に八の字のヒゲを描いて見せると、今度は先生の顔を見ながら頭をかきかき、「それじゃあ僕がやります」と答えました。
「前へ出ろ、前へ! 裁判長は正面だ!」
木村くんは正面の窓際に出て行きました。
それから、こう言いました。
「すぐ猫を連れてきてください」

みんな、ドタドタと騒ぎながら階段口になだれていきました。そして口々に松尾くんを呼びました。松尾くんは便所の中から返事をしました。みんな鼻をつまんで笑いました。
しばらくすると、下へ降りて行った子供たちが大騒ぎしながら、仔猫を抱いたお婆さんを連れて上がってきました。

「まあまあ、なんて申し訳ないことをしでかしたんでしょう。一体いつ、そんなことをしたんです。ええ、タマ、さあお言い」今朝、わたしがお掃除に上がったのは八時ごろでしたが、その時まで、なんのこともなかったのに……一体いつ、どうして、こんないたづらをしたんです。
みなさんは、お前を裁判しようと仰っているのに、このたぬきものは、あくびなんかをして。
さあ、あやまりなさい。
さあ、みなさんにお詫びしなさい。
……死刑にでもなったら、どうするのです……」
お婆さんはおろおろしながら、仔猫を抱いて、みんなにペコペコと頭を下げました。
「お婆さん、お婆さん。」
と先生が呼びかけました。
「そんなに騒ぐことはないんだから、なんなら、その猫を抱いて、あんたも、裁判に加わらせてもらったらどうかな。
裁判長、みんなの意見を聞いて見て下さい。」
すぐ、パチパチと手が鳴りました。
「では、賛成されたものと思い、すぐさま裁判に入ります。
猫は悪いことをしたのですから、裁判長の前に座らせて下さい。」
「うまいぞツ!」誰かが冷やかしました。
お婆さんは仔猫を抱いて、渋々と、裁判長の木村君の前へ出て座りました。
木村君は可愛い三毛猫を見ながら、自分の頭をかきかき、こう言いました。
「名を言って下さい。
その方の名は何と申すか?」
みんなドッと噴き出しました。
けれどお婆さんは、真面目に答えました。
「この子は、ものが言えませんので、わたしが代って申し上げます。
この子の名はタマと申します。」
「よろしい。
苗字は?」
みんな、またドッと噴き出しました。
「苗字は、猫のことで、ございません。」
「ないかア、よし。
そんなら年?」
「昨年の九月生まれですから、まだ、やっと半歳になるか、ならないかでございます。
どうぞ、そんなわけで、罪を軽くしてやって下さい。」
「よけいなことは言わないで下さい。
――では諸君、タマの今日したことを言って下さい。
タマは、どんな悪いことをしたのですか?」
「裁判長!」と言って、四五人が一度に立ちました。
「今井君、君から左へ、順々に言って下さい。」
「僕は、タマがどんな悪いことをしたかということは、そこに置いてある骨ばかりになった凧と、足のなくなった地球儀とを見ただけで充分で、くわしく説明する必要はないと思います。」
「わかりました、その次――」
「僕は、もうすみました。
今、今井君が言ってしまったんだもの。」
「あたしもいいの。」
「ぢゃ、わたしの番よ。
わたしはね、タマさんのしたことは、よくないと思うけど、だってタマさんは赤ん坊で、よいことか、わるいことかも、知らないんでしょう。
だから、罪になんか、しない方がいいと思うのよ。」
そう言って勝気な秀子さんが座ると、パチパチと、女の子たちは手を叩きました。
「ちょっと待って下さい。」と、裁判長の木村君が言いました。
「どんな悪いことをしたか、ということをよく調べているうちに、もうどんな罰にするか、というところまで来てしまいましたから、では、ドシドシ意見を述べて下さい。」
コドモ委員の文子さんが、立ち上がりました。
「わたしに、少し意見を述べさせて下さい。
わたしは、小さい時、お友だちのお人形をこわしたことがあります。
その時、お家に帰って叱られました。
そして、よく言い聞かせられました。
私はそれ以来お人形でもなんでも、特に人のものは大切にするようになりました。
だから私は、猫だって悪いことをしたら、猫にわかるように、言い聞かせ、叱らなければいけないと思います。
ライオンや毒蛇だって、そうして教えこめば、やがては人の言うことを、よくきくようになるんだと申します……」
「そうだ、さんせい!」
「さんせエ!」
みんなパチパチと手を叩きました。
先生もお婆さんまで手を叩いていました。
そこで裁判長の木村君は、こう言いました。
「只今の文子さんの意見は、満場一致で、賛成されたように思います。
では、どういう方法でタマをこらし、躾をしますか?」
すると、いつ便所から帰って来ていたのか、デブさんの松尾君が、ひょっくり立ち上がりました。
そして、ブツキラボウに言いました。
「裁判長、僕は猫の頭に頬冠をさせて、そこいらを逆さに、這わせたらいいと思うな。
どうだい、おもしろいぞオ。」
みんなクスクス笑い出しました。
だが誰か一人パチパチと手を叩いたので、皆なつい釣りこまれて、賛成するのか、からかうのか、どっち付かずに手を叩いてしまいました。

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