それでは治してあげましょう」
リンパー先生は両手を振って、弟子に支度を言いつけました。弟子は大きな銅鉢に何かの薬をいっぱい盛って、布巾を添えて持ってきました。ソン将軍は両手を出して、鉢をきちんと受け取りました。リンパー先生は片袖をまくり上げると、布巾に薬をたっぷりと浸し、兜の上からざぶざぶとかけました。そして両手でそれをゆすぶると、兜はすぐにスパリと取れました。
弟子がもう一人、別の銅鉢へまた別の薬を持ってきました。
そこでリンパー先生は、その薬でジャブジャブと頭を洗います。
流れ落ちる雫は、まるで真っ黒でした。
ソン将軍は心配そうに、うつむいたまま尋ねます。
「どうかな、馬は大丈夫かな」
「もうすぐですよ」とリンパー先生は、そのままジャブジャブと洗い続けています。
雫がだんだんと茶色になり、それから薄い黄色になりました。
そしてついに色も消え、ソン将軍の白髪は、熊よりも白く輝きました。
そこでリンパー先生は布巾を捨てて両手を洗い、弟子が将軍の頭と顔を拭きました。
将軍はブルッと身震いをして、馬の上でキチンと起き上がりました。
「どうです、せいせいしたでしょう。ところで、百と百を足すと、答えはいくらになりますか?」
「もちろん、それは二百だろう」
「そんなら、二百と二百を足せば?」
「さよう、四百に違いない」
「十の二倍はどれだけですか?」
「それはもちろん二十じゃな」さっきのことは忘れたような顔で、ソン将軍はケロリと言います。
「すっかりお治りになりました。つまり、頭の目がふさがって、一割ほど具合が悪かったのですな」
「いやいや、わしは勘定などの十や二十はどうでもいいんじゃ。それは算師がやるでな。わしは早速、この馬とわしを離してもらいたいんじゃ」
「なるほど、それはあなたの足をあなたの服から引き離すのは、すぐに私にできます。いや、もう離れているはずです。けれども、ズボンが鞍につき、鞍がまた馬についているのを離すというのは別の話ですな。それは隣で私の弟がやっていますから、そっちへ行っていただきます。それに一体、この馬もひどい病気にかかっています」
「そんなら、わしの顔から生えたこのモジャモジャはどうじゃろう」
「そちらもやっぱり向こうです。とにかく一つ隣の方へ、弟子をお供に出しましょう」
「それではそっちへ行くとしよう。では、さようなら」
さっきの白い着物を着た娘が、馬の右耳に息を一つ吹き込みました。
馬はガバッと跳ね上がり、ソン将軍は急に背が高くなります。将軍は馬のたづなを取り、弟子と並んで部屋を出ました。
それから庭を横切って、厚い土塀の前に来ました。
小さな潜り戸が開いています。
「いま裏門を開けさせましょう」助手が潜り戸に入っていきます。
「いいや、それには及ばん。わしの馬はこれくらい、まるで何とも思っちゃいない」
将軍は馬にムチを入れました。
ギッ、バッ、フウ。
馬は土塀を跳ね越えて、隣のリンプー先生のケシの畑をメチャクチャに踏みつけながら立っていました。
四、馬医リンプー先生
ソン将軍が、お医者の弟子とケシの畑を踏みつけて向こうの方へ歩いていくと、もうあっちからもこっちからも、「ブルルル、フウ」というような馬の仲間の声がします。
そして二人が正面の大きな棟に入っていくと、もう四方から馬どもが二十匹も駆け寄ってきて、蹄をコトコト鳴らしたり、頭をブラブラしたりして、将軍の馬に挨拶をします。
向こうでリンプー先生は、首の曲がった茶色の馬に白い薬を塗っています。
さっきの弟子が進んでいって、チョット何かを囁くと、馬医のリンプー先生は笑ってこちらを振り向きました。
大きな鉄の胸当てをガッチリはめている姿は、ちょうど鎧のようです。馬に蹴られないためらしいのです。
将軍はすぐその前へ、自分の馬を乗りつけました。
「あなたがリンプー先生か。わしは将軍ソンバーユーじゃ。何分、一つ頼みたい」
「いや、その由は伺いました。あなたのお馬は、たしか三十九歳くらいですな」
「四捨五入して、そうじゃ、やっぱり三十九じゃな」
「ははあ、ただいま手術いたします。あなたは馬の上にいて、少し煙いかもしれません。それをご承知くださいますか」
「煙い? なんの、どうして煙ぐらい。砂漠で風が吹くときは、一分間に四十五回以上、馬を跳躍させるんじゃ。それを三つも休んだら、もう頭まで砂に埋まるんじゃ」
「ははあ、それではやりましょう。おい、フーシュ」プー先生は弟子を呼びました。
弟子はお辞儀を一つして、小さな壺を持ってきました。
プー先生は蓋を取り、何か茶色い薬を出して、馬の目に塗りつけました。
それから「フーシュ」とまた呼びました。
弟子はお辞儀を一つして隣の部屋へ入っていき、しばらくゴソゴソしていましたが、まもなく赤い小さな餅を皿に乗せて帰ってきました。
先生はそれをつまみ上げ、しばらく指で挟んだり匂いを嗅いだりしていましたが、何か決心したようで、馬にパクッと食べさせました。
ソン将軍は、その白馬の上にいて、待ちくたびれてあくびをしました。すると、急に白馬がガタガタガタガタと震え出し、それから体中から汗と煙を吹き出しました。
プー先生は「こわいぞ」と言って、遠くへ離れて様子を見ています。
ガタガタと音を立てながら、馬は煙を噴き出し続けます。
その煙が、どうしようもなく辛いのです。
ソン将軍も、最初は我慢していましたが、ついに両手で目を覆って、ゴホンゴホンと咳き込みました。
そうしているうちに、だんだんと煙は消えていき、今度は滝よりも激しく汗が流れ出しました。
プー先生は近くへ寄ると、両手を鞍に少し乗せて、二、三回ゆすぶりました。
すると、たちまち鞍はスパリと外れ、そのはずみで将軍は床にストンと落とされました。
ところが、さすがは将軍です。
いつの間にかキチンと立っていました。
おまけに鞍と将軍もすっかり離れて、将軍は曲がっていた両足を両手でパシャパシャと叩いています。一方の馬は、急に荷物がなくなって見当がつかないのか、背中をゆらゆらと揺すぶっていました。
すると、バーユー将軍は今度は馬の箒のような尻尾をつかんで、いきなりグイッと引っ張りました。
すると、何やら真っ白な、尾の形をした塊が、ゴトッと床に転がり落ちました。
馬はいかにも軽そうに、今はすっかり毛だけになった尻尾を、フサフサと振っています。
弟子が三人集まって、馬の体をきれいに拭きました。
「もういいだろう。歩いてごらん」
馬は静かに歩き出しました。
あんなにギチギチと軋んでいた膝が、今ではすっかり鳴らなくなっていました。
プー先生は手を上げて馬をこちらへ呼び戻し、将軍に一つお辞儀をしました。
「いや、感謝しますぞ。それではこれで」将軍は急いで馬に鞍を置き、ヒラリとまたがると、そこら辺の病気の馬たちも、ヒンヒンと別れの挨拶をしました。
ソン将軍は部屋を出ると、塀をヒラリと飛び越え、隣のリンポー先生の菊の畑に飛び込みました。
五、リンポー先生
さて、草木を治すリンポー先生の部屋は、まるで森のようでした。
あらゆる種類の木や花がそこらじゅうに並べてあり、どれもみんな金や銀の大きな札がついています。
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