初級翻訳・吹雪物語 第10話

吹雪物語

いつまでたっても勝てる見込みがないし、そもそも勝とうという情熱もわいてこなかったのです。
あるとき他巳吉は、懐に花札を隠し持って左門を訪ねました。
そして左門をうまく丸め込んで、花札の手ほどきを始めたのです。
五局の碁を打つところを、他巳吉は無理やりにでも三局だけで切り上げようとします。
その三局さえも、やがては一局で終わらせようと努力するのでした。
そのあとは、花札を引くためです。

「私はどうも、黒と白の碁石だけでは物足りない性格なんだ。
ほら、花札というものは、色っぽくていいでしょう?
花札の坊主の絵だって、ただの坊主じゃなくて『かっぽれ』を踊る粋な坊主だしね。
どうも、碁盤をじっと睨んでいると、体がしなびていくような気がしてね」

やがて他巳吉の策謀は、わずかな金額を賭けて花札を引くところまで進みました。
左門はあまり興味がありませんでしたが、かといって特に嫌でもありませんでした。
他巳吉は寝ている時間を除けば、一日中家にはいませんでした。
そして街中でしゃべり散らすおしゃべりの何分の一かは、養子の夫婦の悪口でした。
「腹の黒い奴といったら、富山のイカと、俺の家の養子の野郎のことだ」と、彼は人々に言いふらして歩きました。
「イカみたいに黒くもなれない、何の役にも立たない野郎だよ。
俺が死ぬのを今か今かと待ち構えているんだ。
死神を飼っているようなものさ。
だから毎日怒鳴りつけてやるんだ。『お前たちには一銭だってやらないぞ』とな。
俺の金は瓶に入れて、土の中に隠してあるんだ。
それを見つけた奴は、カエルになれ、ヘビになれ、イモムシになれ!
いやはや、根気のいい夫婦だよ。
嫌がらせのネタもそろそろ尽きてきたが、カエルの面に小便というやつだ。
だから俺は、真夜中に断末魔のうめき声をあげて、死ぬ真似をするのさ」
と、他巳吉は腹を抱えて笑い出すのです。

養子夫婦の善良さも、町では評判でした。
他巳吉のような意地悪な親父に仕えるのは、並大抵の苦労ではありません。
それは他巳吉本人もわかっていました。
世間の人々以上に、彼らの善良さを認めていたのです。
しかし、彼らの善良さや孝行ぶりを見るにつけて、自分が苦労に苦労を重ねて貯めた数万円を、こうしてやすやすと持っていかれてしまうのだ……そう思わずにはいられなかったのでしょう。
お酒も飲まず、女遊びもめったにせず、コツコツと貯めた数万円だったのです。
それなのに理由もなく、やすやすと持っていかれてしまう。まるで盗まれてしまうかのように。
無味無色すぎたその失われた青春と、一生を捧げてきた苦労を埋め合わせるためにも、養子夫婦をいじめ抜くことに執着せずにはいられなかったのかもしれません。
他巳吉はたびたび深夜に死ぬ真似をしました。
まるで首を絞められたような、死に際の苦しみを演じるのです。
それが芝居であることは、何度も繰り返される経験によって、養子夫婦も知り抜いていました。
しかし、もちろん介抱しなければなりません。
水を汲みに走らなければなりませんし、薬を探しに走らなければならないのです。
わかりきったその介抱が、こうしてやすやすと盗まれていく苦労の末の富と、失われた一生のために、ますますせつない憤りへと変わらざるを得ないようでした。

他巳吉は、突然苦しむ真似をやめました。そして、怒鳴らずにはいられないのです。
「お前たちは、俺の金がそんなに欲しいのか!」と。
すると、彼の大きな体は突然笑いの渦に巻き込まれてしまいます。のたうち回ってしまうのでした。
この話は他巳吉自身が言いふらすので、この町の笑い話の種になっていたのです。

ある日のこと、他巳吉が越後新報社へひょっこりと卓一を訪ねてきました。思いがけない訪問でした。卓一はそのとき初めて、文子がダンスを習い始めていることを知ったのです。卓一はその頃、しばらく叔父である左門を訪ねていなかったのです。

「それがね、あんた」と他巳吉は、卓一をからかうような笑みを浮かべてしゃべり出します。
「これも長生きの余徳というものかね。娘にダンスをすすめる親父なんて、金を出しても見られないからね。ところで、あんた。ここはひとつ、根性を据えて聞いてもらいたいところだ。文子さんの髪が、昨日から断髪(ショートカット)だよ。ほれ、トウモロコシの毛みたいなやつさ。これもまた、色気があっていいものかね。あんた、ひどい顔をしているね。いやはや、田巻さんも満足な顔つきさ。そこで、あんた。昨夜は、三人そろってダンスホールへ繰り出したのさ。いやはや、年寄りの冷や水だよ。そもそも、これはどういう話なんだ? え、卓一さん」

しかし、他巳吉のイライラは、断髪とダンスだけが原因ではなかったようです。数日前のことでした。どうしても必要な金だという左門の頼みで、他巳吉は五百円を貸してあげたのです。貸した金ですから、どう使われようと文句は言えませんが、どうしても必要だと言っていた五百円が、思いがけない方面へ消えていることを知って、他巳吉は内心納得がいかなかったのです。
それは文子の衣裳代でした。踊りのためのアクセサリーや、化粧品の類に使われていたのです。そのうえ、文子は髪を切りました。それはもう、金銭的な不満だけでは済まされませんでした。文子はまるで変わってしまったのです。断髪や、派手な衣裳や、ダンス。そのような外見の問題だけではありませんでした。心のあり方が、まるで変わってしまったのです。これを他巳吉の言葉で言えば、魔性の心がすでにうごめいているのでした。

「女というものは、色っぽいほどいいものだが」と、他巳吉は左門の前でつぶやいていました。
「芸者の色気と、素人の色気は、違うところに値打ちがある。口説けば落ちそうな堅気の娘は、これは目の毒。いやらしいね」と。

他巳吉の心には、不安とも呼べるものが漂い始め、離れなくなりました。無性にイライラするばかりで、はっきりとした理屈で言えることではありませんが、何よりも貸した五百円をすっかり丸損したような、苛立たしさが消えないのです。
畜生め。とんだ大損をしてしまったぞと、他巳吉は朝目覚めるたびに思わず怒鳴っていました。病み上がりのカマキリのような、あの痩せこけた老いぼれ親父にうまくだまされたぞと、親友を侮辱したのも偽らざる本音でした。

「まるで間男をさせようと企んでいるようなものだ。そうではないかね、え、卓一さん? 他人の娘だ。俺の知ったことではないが、あの人の心のうちは、観音様の胸算用と同じくらい、俺にはてんでわからないというやつさ」と他巳吉は言いました。

しかし、他巳吉の決めつけにも、いくらか間違いはありました。断髪までが左門の意志ではなかったのです。左門は迷い始めていました。文子に踊りの快楽を与えてやりたいという激しい願いがあったことは確かです。しかし、その先のこととなると、彼自身もまったく見当がつかなかったのです。心の堕落というものがあります。そして、やがて淫らな楽しみがある。
――自分の意向が、自分でも気づかないうちに、そこまで許してしまっていたのだろうか。
そこまで許した覚えはありませんでした。自分に都合よく言えば、そこまでは気づかなかったと言いたいような気持ちでした。

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