初級翻訳・吹雪物語 第28話

吹雪物語

「この窓掛けは、今日取り替えたのではありませんか」
野々宮は無駄だと知りつつも、しつこく聞かずにはいられませんでした。
残る疑惑は、もはやそれだけだったからです。
「それじゃあ、女たちも今日取り替えたと言いたいのかしら」
一人の女が、にこりともせずに嘲笑いました。
「よほどの美人に会ったのね。他をせっせと探しなさい。とにかく、ここは違うわよ」
「おかしいと思われるでしょうね」
野々宮は腹を立てることもなく、穏やかに言いました。
「しかし、明日を予定しない人間というものは、すべてを今日という一日に賭けずにはいられないものなのです」
そう言って、彼は外へ出ました。
もはや雪が積もっていました。
どうしても探し出そう。
彼は心の中で叫んでいました。
たとえ一晩中歩き続けても。
そして朝、雪の積もった石畳の上に冷たい屍をさらすことになっても。
あの女に会いたいという思いよりも、女を探し出さなければならないという決意の方が、遥かに激しく燃え上がっていました。
あまりに悲愴な決意ゆえに、顔立ちすら定かではないその女が、切ない祈りで探し求める地上の唯一の存在に見えたのです。

けれども、酒場はやはり実在していました。
しかも、やはり例の一角に。
野々宮の曖昧な記憶の中でも、筋道だけは残っていました。
そこは横町のはずでした。広い道ではなかったのです。
そして酒場を出て横町を曲がると、そこが西堀であったことを覚えていました。
つまり、この酒場の所在地は、西堀と古町を結ぶ横町のはずなのです。
――これが捜査の鉄則でしたが、同時に失敗の原因でもありました。
酒場は袋小路にあったのです。
野々宮は、これまで幾度もその袋小路を素通りしていました。
広い道ではないはずでしたが、これほど狭い路地の奥にあるとは思いもよらなかったのです。
両側から建物の黒い威圧が頭上にかかっていたはずですが、それでも道にはゆとりがあったような印象が消えませんでした。
心に問うまでもなく、袋小路という選択肢は彼の頭から除外されていたのです。
そこにも酒場は確かにあったのに。
もはや最後の時間でした。すでに十二時に近かったのです。
野々宮は全く期待を抱かずに、袋小路へ入っていきました。
入り口の雰囲気も、記憶のものとは異なっていました。
彼は諦め半分で扉を開けました。
一目見た内部の様子も、やはり知らない国のような感じでした。
深々と被った帽子を脱ぐと、厚く雪が積もっていました。
言うまでもなく、外套も首巻きも雪だらけです。
顔も一面、滴に濡れていることにようやく気付きました。
しかし体は、長い歩行のせいでむしろ火照っているようでした。
彼は扉の脇の肘掛け椅子に腰を下ろしました。
すると、思わず立ち上がりそうになりました。
そこに、緑色の窓掛けがあったのです。
そして植木が――やはりそうだ。
クリスマスのあの鉢植えが、彼の肩にかぶさるように枝を垂れていることに、初めて気がついたのでした。
十七、八の若い娘が、野々宮の正面に座っていました。そして、いくらかためらってから、言いにくそうに尋ねた。
「前に、いつか、いらしたことなかった?」

何やら好奇心に満ちた光が宿るその瞳の色も、今の野々宮にはすべて理解できることだった。
彼は静かに頷いた。
「昨夜。真夜中に」

娘は、はっと立ち上がった。返事もせずに。
突然、口を袂(たもと)で押さえた。隣の長椅子へ駆け寄ると、言葉も発さずにばったりと倒れ込んだ。笑い崩れたのである。
「やっぱり、そうなんだわ」
喘ぐようにして娘は言った。
「やっぱり来たわよ。お姉さん」

娘の狂ったような哄笑(こうしょう)が、部屋いっぱいに響き渡っていた。
そして、単純な心の持ち主であるその女が、やがて彼の目の前に現れた。
すでに野々宮は、底なしの谷へ落ちていくような気分だった。無限に落ち続けているのだ。もはや頭上に青空はなく、落下を止める手掛かりも何一つなかった。無限の落下と無限の暗闇だけが、彼に分かるすべてだった。

落下の意志はただ一つ。この女を愛する以外に道はないということ。……それが、落下しながら彼が悟った言葉だった。
たしかに、どうしようもなかったのだ。
なんと青空のない、切ない希望であることか。暗く、そしてやりきれない思いだった。すでに決まってしまった一生の予感のために。
けれども彼は、この単純な心の女を愛するために、一途に急がねばならなかった。

二人の愛は急速に深まっていった。
野々宮は、自分の姿がまるで一匹の蝙蝠(こうもり)のように思えた。しかもそれは、季節外れの冷たい真冬の蝙蝠だ。
夕暮れが来ると街へ降りる。寒風に吹き流されながら街をさまよい、そして長い冬の一夜、暗い酒場の片隅へへばりついてしまうのだった。

「危険なことにならないか」と、大谷が野々宮に忠告した。「あの女には正式の夫も子供もいるんだぜ。それとも、君の一生を賭けるほどの愛情なのか?」
「この愛情を背負うまでもなく、すでに僕は人の背負うべき十字架をすべて背負ってしまったのだから」
野々宮は冷ややかに笑って答えた。
「ありふれた危険や暗闇なんて、数にも入らないでしょう」

何よりもまず、自分はやがて死んでしまう身なのだ。そして女の方も、野々宮のひそかな意志とは無関係に、むしろ死ぬことを生に代えても悔いないような心を育てていた。
「私、いつでも死んじゃえるわ」と女は笑って言うのだった。
「だからいつも子供みたいに、胸いっぱいに楽しいよ。活動写真も見たいな。チョコレートも食べたいな。そしてぐっすり眠りたいな。眠い。眠い。眠い……」

野々宮は心の中で苦笑を禁じ得なかった。単純な心の女よ。しかし、彼が死のうかと言えば、女は間違いなく喜んで「うん」と答えるはずだった。
女の名はサチ子と言った。

ある日、野々宮は大谷やサチ子たちと連れ立って、金色の舞踏場へ踊りに出かけた。そこに文子がいた。彼女は男と踊っていた。
「君に挨拶した女、あれが田巻家の未亡人かね」大谷が野々宮にささやいた。「相手の男があの人の友達なら、事態は少し穏当を欠くぜ。あいつは高梨という『もぐり』の歯医者だ。つい先だってまで、前田医院のへっぽこ助手さ。金歯の細工に浮身をやつしていた奴だ。近頃、ある後家さんを引っかけて開業したての悪党だよ。免許も持っていないという噂の奴だぜ」

前田医師という人は素朴で愛すべき好人物だが、日頃から色恋沙汰の絶えない中老人で、高梨に弱みを握られている節があった。そのことが何かにつけて、高梨ののさばる利益になっているらしい。そういう大谷の話だった。

「袖すり合うも多少の縁だ。どれ」
大谷は立ち上がって、しばらく踊り子と踊ってきた。
「あの後家さん、踊り子としての評判がひどく悪いぜ。山出しのような、少し頭の足りない感じだね。そのくせ、どうもすべてが色っぽすぎるんじゃないか。つまり、わいせつな感じだな。毎日やっぱりあいつと踊っているそうだ。悪党め、網を張って獲物を待っていたらしい。ええ、畜生。どうも癪(しゃく)に障る野郎だ」

そういう出来事があったのだった。
野々宮は、その光景を鮮明に記憶していた。高梨と踊る文子の姿を。また、自分に挨拶をした文子の姿を。

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