初級翻訳・土から手が 第7話

土から手が

困り果てた二人は、最後にシュワイツア夫人のところへ来て「梯子を貸してくれないか」と頼んだそうです。

夫人が貸すべきかどうか迷っているうちに、一人の婦人が浴室の窓の鍵がかかっていないのを見つけ、二人ともそこから這い込んでいきました。今考えると穏やかな話ではありませんが、その時夫人が受けた印象は、二人の女が何かの手違いで自分の家から締め出されてしまい、困りながらも面白がって大騒ぎしている、というものでした。そのため、夫人はあまり深く気に留めなかったのです。

それから一週間ほどの間、隣の615番地に人の気配がするのをシュワイツア夫人は何度か感じていました。しかし、近所付き合いを避けているのか、階下の窓やカーテンはいつも閉め切られたままです。かろうじて二階の窓が開いていることで、誰かが住んでいるらしいことが分かる程度でした。シュワイツア夫人がその家について知っているのは、これだけでした。

ただ、どうもこの615番地という家が怪しい——。チャールズ・ガフ刑事は強くそう感じ、再び玄関へ戻って扉の様子などを調べていると、ふとあるものが目に留まりました。

玄関の階段の上、敷物の下に瓦斯(ガス)会社の請求書が挟まっていたのです。集金人が留守の間に差し込んでいったのでしょう。引き出してみると、そこには「F・フランシス夫人」という人物宛てに、ガス料金の支払いを求める内容が書かれていました。

勇躍したガフ刑事は、その足でガス会社へ飛んでいきました。調べてみると、確かに3月3日付でハイランド通り615番地のF・フランシス夫人という人物から、中二日置いた3月6日からガスの供給を開始してほしいという申し込みが出ていたことが判明しました。

さらに外線係のH・W・ジョンソンに会うと、彼は3月5日と7日の両日、その家へ休止されていたガス管を開きに行ったと証言したのです。そして二度目、七日に行ったときには、看護師の白衣を着た女が取り次ぎに出てきたそうです。しかも、家の中はツンとするほど強い麻酔薬のにおいが充満していて、ジョンソンはただ事ではないと強く感じたといいます。
「まるで病院のようだった」と、彼はガフ刑事に語りました。
これは有望です。
この手がかりは、もう少し深く追いかける価値があります。
そう確信したガフは、「フランシス夫人」という署名があるガス会社の申込書を借り受け、その足ですぐさま水道会社へと向かいました。
今までずっと空き家だった場所に引っ越してきて、止まっていたガスを開栓するくらいなら、当然、水道だって使っているはずです。
水道会社(アメリカでは水道も私営なのです)ではどうなっているのか、確かめる必要がありました。
水道会社では、サンフランシスコ探偵局の刑事だと名乗ると、給水係の監督であるアル・ベーダーが応対に出てくれました。

そのアル・ベーダーの話では、ハイランド通り六一五番地の家には、三月五日から水を供給しているとのことでした。
やはりここにも申込書が残っており、そこには「F・デイヴィス夫人」という署名が記されていました。
前のガス会社の申込書と見比べてみると、誰の目にも明らかなほど、全く同一人物の筆跡でした。
右に少し傾いた、細くて、いかにも神経質そうな女の字です。
こうなると、捜査の網は刻一刻と狭まってきます。
犯行の少し前に家が埋まり、事件が終わると間もなく再び空き家に戻っていること。
病院のような薬品のにおいと、白い服を着た看護師の存在。
「F・フランシス夫人」と「F・デイヴィス夫人」、二つの名前を使う女。
ガフ刑事からの報告を受け、ダンカン・マテスン主任と鑑識課長のアドルフ・ジュエル氏が聖マテオへと急行しました。
三人は窓を壊して、例のハイランド通り六一五番地の家へと侵入しました。
まず第一印象として、大急ぎで家を引き払ったらしい痕跡が、いたるところに見受けられました。
何もかもが乱雑に散らかり、かなり慌てふためいた様子がうかがえます。
居間の暖炉には、灰や焼き残ったボロ布、書類のようなものが高く積み上げられており、引っ越す前に証拠品を燃やしてしまおうとした跡も残っていました。
その中から、血を吸って重くなった脱脂綿の塊が、半分焼け焦げた状態で出てきました。これが、この家の壁が沈黙のうちに目撃した事実を、何よりも雄弁に、そしてリアルに物語っていると思われました。
家中のどの部屋にも、いたるところにタバコの吸い殻が転がっています。
「レッド・シール」という銘柄の巻きタバコです。
灰皿、皿、ペン立て、コップ、床からストーブの中まで、どこを見てもこのタバコだらけです。
数百本もの吸い殻がありました。
その他にも、机の端や窓枠、絨毯の上などに、火のついたタバコを置きっぱなしにした、あるいは落としたであろう真新しい焼け跡が、あちこちに点々と残っています。
つい最近、誰かがこの家で、神経をすり減らし、焦りと不安に駆られた時間を過ごしていたことは間違いありません。
台所へ続く廊下の隅には、女物の靴が一足、置き去りにされていました。
ジュエル鑑識課長は、家具やドアの取っ手など、室内のあらゆるツルツルした面から指紋を採取しようとしましたが、多少は出てくるものの、写真に残せるほど形が完全で明瞭なものは見つかりませんでした。
二階の寝室を調べると、一対あるはずのベッドのうち、一つがなくなっています。
問題の非合法な手術がその上で行われたはずですから、本来なら二つ揃っているべきなのに紛失しているこのベッドは、今や「血のベッド」として異常なほどの重大性を帯びてきます。
しかし、それはあっけなく地下室で発見されました。
枠だけに分解され、壁に立てかけられていたのです。
他の物は埃まみれなのに、このベッドの枠だけは最近念入りに洗ったのか、綺麗になっていました。
それに、あまりに奥の方へ押し込まれていたのでかえって怪しく思い、明るい場所へ引っ張り出して調べてみると、内側に少しですが赤黒い斑点があるのを突き止めました。
ゼリーのように固まった、新しい血の跡です。
これで、この家が手術の、つまり犯罪の現場であることは疑いようがなくなりました。しかし、真の難関はここからです。この家を一時的に借りていた医師が一体誰なのか、その手がかりが全く掴めていないのです。マテスン主任とジュエル鑑識課長はそのままサンフランシスコへ引き返し、再び聖マテオでのガフ刑事の捜査へとバトンが渡されます。
そして、前にも少し触れた地方検事総長のフランクリン・K・スワアート氏が、ガフを助けることになりました。
カリフォルニア州大審院の判決例によれば、堕胎手術の結果として女性を死に至らしめた医師は、第二級殺人の罪に問われる――法律用語としては少し変な言い回しですが、常識的に言えばそういうことです。
刑事たちは、この医者を単なる殺人犯として追い詰めればいいのです。
「F・フランシス夫人」と「F・デイヴィス夫人」、二つの署名について考えてみます。
明らかに同一人物の筆跡です。
ところで、多くの偽名を持つ犯罪者は、決まって同じ名前の一部を使い回す癖があるものです。

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