初級翻訳・地底戦車の怪人 第16話

地底戦車の怪人

「油断大敵」とはよく言ったものです。
さあ、こうなっては空を狙うのがいいのか、それとも氷の陰に大の字になって倒れているのがいいのか、誰にもわかりません。騒ぎはますます大きくなりました。

日本機は、大胆な低空飛行を続けたかと思うと、あっという間に飛び去っていきました。
氷上のアメリカ兵たちは、そのあとを追いかけて、ポンポン、タンタンと小銃や機銃を撃ちかけました。日本機が一度も機銃を撃ち返してこないというのに……。
そんなことで、アメリカ兵の弾丸が日本機に届くはずもありません。

「ちくしょう、日本機め、うまく逃げやがった」
「もう一度飛んでこい。その時は俺が一発で撃ち落としてやる!」
「だが、日本の飛行機は何をするつもりだったんだろうか?」
「そりゃわかっているさ。わが南極派遣軍が何をしているか、監視のためにやってきたんだ」

氷上では、アメリカ兵たちが強がりを言ったり、勝手なことをわめき散らしたりしています。
そのうちに、氷上に停まっていたアメリカ機のエンジンが激しい音を立ててプロペラを回し始めると、一機、二機、三機、四機……と、五機の飛行機が氷上を滑走して空へと舞い上がりました。

「おお、飛行隊の出動だ! これは面白くなってきたぞ」
「いやあ、よせばいいのに。五機出発して、五機とも帰ってこないなんてことになったらたまらないからね」

アメリカ基地を飛び立ったのは五機でした。いずれも四人乗りの偵察機です。
偵察機といっても、機関砲を積んでいれば機銃もあり、小型爆弾も装備できるという、偵察機と攻撃機の中間のような飛行機です。この飛行機は、とりわけスピードが出るのが自慢で、時速五百三十キロというから驚きです。
さすがはリント少将、一同が青ざめて騒いでいる最中にも、いち早く五機への出動を命じていたのでした。

指揮官はマック大尉で、一番機に乗り込んでいました。
五番機は一番後ろの飛行機ですが、この機体にはパイ軍曹とピート一等兵が乗せられていました。
乗っていたというよりは、無理やり乗せられたと言うべきでしょう。
もともとこの二人は地底戦車の搭乗員ですが、沖島速夫の事件を知っているのも、助け出された唯一の地底戦車のことを知っているのも彼ら二人です。そして、突如として現れた日本機の不可解な行動も、何か地底戦車事件と関係があるのではないか――そう考えたリント少将は、直ちに二人を探し出させ、無理やり五番機に押し込んで出発させたのです。

彼ら二人は、指揮官のマック大尉に対し、必要な時には機上から無線電話で参考になるような報告ができるだろうと期待されていました。
しかし、一番驚いたのはパイ軍曹とピート一等兵でした。
沖島速夫の監禁室の前で二人でいがみ合っていたところを急に呼び出され、氷上に引っ張り出されたかと思えば、そのまま飛行機に押し込まれてしまったのです。
二人は飛行機の上で互いにしっかりつかまってブルブルと震えていましたが、それでも口だけは相変わらず減りません。

「パイ軍曹どの、気分はどうですか?」
「うむ……正直なところ、少し困っている。なにしろ俺は地底戦車兵であって、航空兵じゃないからなあ」「お前はどうか」
「はい、もちろん、自分も軍曹どのとまったく同じ気持ちであります。どうも自分は、スピードの速い乗り物は苦手でして……。この飛行機、途中で落ちたりしませんかねえ」
「落ちそうだなあ。地底戦車が落ちた場所とは違って、飛行機が墜落したら、俺たちの命はないぞ」
「だから自分は、戦車の方が好きなんです。ねえ、パイ軍曹どの。一つ指揮官に無線電話をかけて、『われわれ戦車兵を飛行機に乗せるのは筋違いだ。この五番機だけ、早く元の氷上へ帰してください』と言ってくれませんか」
「ふん、それはいい。ではそうしようか」
パイ軍曹が無線の送話器を取ろうとしたその時、軍曹が耳にかけていた伝声管の中から、機長のうわずった声が響いてきました。
「敵機を発見した。戦闘用意!」

戦闘用意!
「おい、戦闘用意だとよ」
パイ軍曹は、ピート一等兵の脇腹を小突きました。
「はあ、戦闘用意ですか。どうすればいいんでしょうか」
二人とも頼りないものです。すると伝声管から、また機長の切迫した声が響いてきました。
「早くせんか! ピート一等兵は後方機銃座へつけ。パイ軍曹は爆撃座へつけ。早くやれ!」
「はい!」
機関銃座へつけと言われても、空中の射撃なんて未経験のピート一等兵です。パイ軍曹にしても、飛行機の上から爆撃なんてやったことがありません。しかし命令とあれば従うよりほかありません。ピート一等兵は銃座へ這い上がりました。そして初めて、空の様子がはっきりと目に入りました。前方を、見事な編隊を組んだ十五、六機の飛行機が飛んでいます。それはどうやら、先ほど基地の上を低空飛行で飛び去った日本機のようでした。マック飛行隊は持ち前のスピードを活かして、今まさにぐんぐんと接近しつつあったのです。
マック大尉の乗った指揮機が、翼を左右に振りました。
「あれっ。あんなことをして、のんきに遊んでやがる」
それが指揮機による戦闘開始の合図だとは知らず、ピート一等兵はのんきな解釈をしていました。
「戦闘開始。各個に撃て!」
機長が凛とした声で号令を下しました。すると全機は、隼のように日本機の編隊へと飛びかかっていきました。ピート一等兵はびっくりして、機銃にしがみつきました。照準を合わせるどころか、引き金を引く余裕さえありません。

【妙な空中戦】
「おい、なぜ撃たないのか! こら、ピート一等兵!」
機長が怒ったような声を上げました。
「はい! 今、撃ちます。しかし機長どの。自分は戦車の銃手は務めましたが、飛行機からの射撃は教育を受けておりません。何か参考書でもあれば……ここへ投げてください!」
「馬鹿を言え! 今さら参考書を読んで間に合うか! あっ、前に日本機がいるじゃないか。向こうが撃つ前に、おいピート一等兵、撃て!」
「困ったなあ。撃てと言われても、どう狙ったらいいかさっぱりわかりませんよ」
「照準具がついているだろう。それを見て狙え!」
「この照準具には輪がついていますね。どうするんですか?」
「飛行機のスピードに合わせて、違う輪の上に敵機の胴体を重ねるんだ。飛行機はその中心の円に向かうようにしろ。一番外の輪が時速六百キロ、次は五百、四百というふうに、中心へ来るほど時速が少なくなっているんだ。わかっただろう!」
「わかりませんなあ」
「早く撃て! 間に合わないじゃないか! 撃て、撃て、何でもいいから撃て! こっちが撃たないと、敵は『弾がないのか』と思って安心して、こっちを真っ先に狙ってくるからな。撃て、撃てっ!」
「困ったなあ……パイ軍曹どの、ここへ来て自分に代わって撃ってください!」
「いやだ。俺には俺の持ち場があるんだ。ピート一等兵、早く撃て!」
「いやになっちまうな。地底戦車兵に飛行機の上で射撃しろなんて、乱暴な話だ。撃てと言われれば撃つけど、どんなことが起きても自分は知らんぞ!」
ピート一等兵は泣きそうな顔で、機銃の引き金に指をかけました。
「ええと、あの日の丸を撃つのか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました